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― 練武場 ―
[黙々と掃除していたら、
よく通る声が入り口から聞こえてきて振り返った。]
あれ、ステファンだ。
最近の生徒会は出張手当もしてるんだ。
[応急手当グッズを抱えたステファンが
何人かの手当をしているのをみて、
多少勘違いな感想を零す。
その彼が近づいてくるのを見て、軽く手を上げた。]
あ、ステファン。
聞いたよ。
なんかこんど生徒会でお茶会するんだって?
[湿布よりなにより先にそれが出たのは、
たぶん、今おなかが空いてるせい。]
…あ、じゃなくて、うん。
もう一汗流そうかと思ってるとこ。
痛いとこ、は、さっき冷やして来たけど、
まだちょっとじんじんするかなぁ。
さっきフェルセン先輩に良いのもらっちゃってさぁ。
あの人が練習してるのってあんまり見ないけど、
やっぱ強いよ。
俺もまだまだ練習足りないなぁ。
[生徒会長の名を、それはもう楽しそうに口にする。
打たれた脇腹は、青あざになっている頃合い。]
うん。今なら教官が特別に見てくれるって。
[シロウに話が及べば、おかしげに笑う。
なし崩しの課外授業になってシロウは迷惑だろうが、
生徒にとっては降って湧いた僥倖だ。]
ベリアンに?
そうだね。試験前に慣らしておくのは大事だよ。
あいつ、間違ったこと言わないし。
[同級生のものという言葉に頷いたあと、
告げられた申し出に目を瞬き、たちまち大きく笑った。]
もちろん、喜んで。
俺で良ければいくらでもお相手するよ。
それじゃえと……まずは防具つけようか。
[リエヴルとのあれを、この下級生相手にやったら
それはもう、えらいことになる。
既に大変なことになってはいるのだけど、
そんなことには気付いていないのだった。]
― 練武場 ―
あ、レトも見てたんだ。
すごかったよな!さっきの!
ルーデン先輩がこうしたところに
寮長がこう受けてさ、 ……あ。
[東の寮長と西の副寮長に声を掛けたレトが
こちらに歩いてくるのを見ると、
興奮の蘇った声で箒を振り回す。
お陰で、集めた木くずがまた散らばった。]
普通はなー。
そうそう、あの時は派手に防具やらかして、
教官にはなんか言われるし、
おまえは熱出して寝込むし、
俺もしばらく腕吊ってたし、
あれはもう、大変だったよなぁ。
[半年前のことに話が及べば、
それはもう、嬉しそうに語って笑う。
まったく教訓が身に付いていない残念さ。]
あれから25勝25敗だもんな。
次は俺が勝つからね。
[ぴしりと箒を突きつけて、高らかに勝利予告する。
練武場で何度も繰り返してきた光景。]
だ、大丈夫だって。
今度は気をつけるから!
[ステファンに忠告しているレトへ口を挟む。
でも気をつけないとなぁ、と
こっそり頭を掻くのだった。]
[ステファンに語った言葉。
あれは、ほんの少し嘘だ。
ベリアンは、間違ったことは言わない。
ただし、自分に関すること以外は。
本当は、そんな注釈がつく。]
― 回想・十四歳のころ ―
[十四歳の自分を思い出すと、
なんて単純な生き物だっただろうかとしみじみ思う。
今は違う、と思ってるのは本人だけかもしれないが。
ともかく、あの頃ははしゃいでいて、浮ついていて、
したいことをする楽しさに夢中だった。
相手がどう思ってるか、なんてお構いなく。]
ええっ。呪われるの?
[初めてベリアンにつかれた嘘はこれだ。
実際は嘘ではなく、
どこかの慣習的な言葉だったのかもしれないけれど、
少なくとも呪われた覚えはない。
それでもあっさり信じたあの頃の自分は、
指をぎゅっと握ってベリアンの話に聞き入り、
海神から女性を隠す為に顔料を塗る、という話を
知らない世界の知らない風習として、
わくわくしながら聞いていたのだ。]
[けれども、いつまで経ってもベリアンの顔は褐色のまま。
見当違いな心配をしてみたり、
嘘ついたのかとなじってみたり、
本当のことを知りたいと食い下がってみたり、
しつこく繰り返す質問のたび、
返ってくる答えは違うものだった。
何度も繰り返すうち、触れられたくない話題なのだと
ようやく察したのは、1年生も終わろうかという頃。]
[それからは、肌の色に関して口に出さないようにしてきた。
だから、ひとつ。
未だに言いそびれていることがある。
いつか言おうと思っているひとことは、
未だ、胸の中に燻っていた*]
― 練武場 ―
えっ!あの辺にいたの!?うわ、気付かなかった。
あ、ありがと。
[練武場にいたレトとは目が合わないどころじゃなかった。
いたことに驚きつつ、木屑を集めてくれるのに礼を言う。
ぶっきらぼうなように見えても、案外と面倒見が良い。
レトのことは、そんな風に思っている。
今朝のひじ鉄事件だって、朝食を案じてのことだろうし、
ステファンにもちゃんと忠告するし。
下級生に人望があるのも、よくわかる。]
よーし。
それじゃ、負けた方が購買のお菓子おごりだからな!
[叩かれた箒の先を下に降ろして笑う。
ずっと、負けないように張り合ってきた。
お互いに腕を磨いて、技を競って、
いつも全力で勝負してきた。
貴重で、かけがえのないライバル。
肩を並べて戦えたら楽しいだろうな、
なんてことも、ちょっと思う。]
実技試験か。内容出てるなら掲示板だと思うけど…
今年はどんなだろうな。
[毎年毛色が変わったものも出てくるので
実技試験は結構楽しみにしていた。
槍持ってプールに潜って、
輪っかを幾つ引っ掛けて持ち帰れるか、
なんてのも、過去にはあったものだ。]
筆記試験よりは得意だからね。お互い。
楽しみだよなぁ。
後で見に行ってみるよ。
[適当に木屑をちりとりに入れて捨てれば、
心はステファンとの手合わせへ飛ぶ**]
ええ、そうなんですよ。
フェルセン先輩、いつも見てるだけかと思ったら、
やっぱりすごく強くて。
まだまだ敵いません。
[シロウが首を傾げる理由なんてさっぱり思いつかず、
にこやかに言って笑った。]
よし。じゃ、始めようか!
[自分も防具を身につけて、ステファンの正面に立つ。
下級生を指導する上級生という立場上、
少しは手加減するべきなんだろうか。
───そんな気持ちは、木剣を手にした瞬間、吹き飛んだ。]
応っ! 来いっ!!
[一礼の後、打ち込んでくるステファンの剣。
今ひとつ甘いそれをはじき返し、肚から声を出す。]
そんなんじゃ準備運動にもならないぞ!
斬り殺す気で来い!!
[怒号、と言ってもいい大声をステファンに浴びせ、
木剣を正面に構えて柄を握りなおす。
まだ、自分からは仕掛けない。]
/*
ステファン飴ありがと〜!
フィルターを横に置いていても、
人数多すぎて、全然把握できないんだよね。
とりあえず、今日はステファンだけ気にしてればいいか。
[かんっ、と甲高い音を立てて木剣がぶつかり合う。
手元に感じる衝撃は確かなもの。
でも、まだ物足りない。]
死にたくないならっ!
[噛み合った剣を、体重を乗せて押し返す。]
死ぬ気で向かってこいっ!
[突き放した相手へ、横薙ぎに剣を振るう。]
戦場では、誰も手加減してくれないぞ!
[口にしているのは、かつて教官に言われた言葉。
言葉通りに手加減なんてものは考えなかったけれど、
一番防具の厚い胴を狙う程度の頭は回った。]
[今までと違う”もの”がきた。
ステファンの、飛び込むような突きに体が震える。
これは、武者震い、っていう奴だ。
本気になった相手に対峙しているときの、
他に例えようもない、背筋がぞくぞくする感じ。]
やああぁぁぁっ!!
[勝手に、肚の底から声が出ていた。
ステファンが繰り出す、『平均的』な突き。
言い換えれば、それは教科書的で、模範的なもの。
その突きを、生きたものに変えるのが、
剣先に乗せられた、強い、強い想い。
体が、そこに反応する。]
[一途で真っ直ぐな突きを、避けることなんてできなかった。
体を斜めにずらし、防具の一番厚い胸の位置で
滑らせるように、突き込む切っ先を受け、逸らす。
同時に左手を伸ばし、ステファンの剣持つ手首を捕えにいった。
体はさらに前へ踏み込み、横から背後へ回り込むように動き、
剣持った右手で羽交い締めにしようと腕を伸ばす。]
…っ ぐ。
[腹に入れられた肘は、防具から外れた所を抉って、
少しばかり、息が声と一緒に出た。
それでも強引に捕まえに行って、
背中から羽交い締めに腕を回す。]
これで一本、だ。
[ステファンの首に回した右手の剣の、
刃の付け根あたりを彼の首筋に押し付け、
勝負あり、との宣言をした。]
それにしても、今の突きはすごかった!
[ステファンを捕まえたまま、頬を上気させて言う。]
思いが伝わるっていうのかな。
ステファンって、いつも柔らかくて優しい感じだけど、
すごく芯っていうか、譲れない核みたいなのを感じて、
これはすごいな、って───
[言葉を途切らせ、ごくりと唾を飲み込む。]
なんか、最初の一撃とは別人みたいだったよ。
実際に剣を持つと変わる───とか、そんなタイプなのかな。
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