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― 四日目の朝 ―
[その日の犠牲者は、人狼をかばう青年だった。
アルビンを撲殺した彼を、残る人狼が何故殺したのかなんて、女にはどうでもいいことだったから。
だから薄い氷のような瞳にはなんの感情も浮かぶことはなく]
情というものは、本当に厄介なようだな。
[薄い唇が紡ぐのは、誰に宛てたものかはわからない。
そんな面倒くさそうな言葉]
[些か賑やかになる声に背を向けるようにして、
女はしばし姿を消す。
古馴染みの彼が死してしまい、
胸に残るしこりのようなものは、もはや掻き消えた。
あとはただ、ただ―――…この騒動の顛末を見届けるだけだ。
皆の手を汚さずすむようにと、無理な頼みを聞いてくれたシモン。
咳き込み、命の灯火が今にも消え入りそうなレジーナ。
肉親を唐突に失ったオットーや、
何かを憂うような顔をしたヴァルターに。
それから助け合うように寄り添う恋人たち。
そしてこれからは一人、歩いていかなければならないリーザが迎える結末を、薄氷の瞳に刻み付ける]
[それを見届けたなら、もうこの場所に自分がとどまる理由はない。
幸せな夏が終わったのだと、溜息をつくように消えるだけだ]
………?
[ここで己がすべきことはなした、と。
女が秋の愁いをその顔に浮かべていると、不意に感じる視線にゆるり首を傾ぐ。
その視線には心当たりがあったから。
ふわり、まう、秋の落葉。
終わってしまった命が枯葉のように、
屋根の上の透ける男の肩にふわりと舞い降りた*]
[アルビンを見下ろす瞳がからかうように、
楽しげな色をにじませてすっと細まる]
どうした。
私を探していたんだろう、アルビン。
[何かを語りかけたい様子なのは見て取れるけれども、
まさか声を失っているとは思わず]
[目を閉じた彼が念じる雑音混じりの声に、
ようやく合点が言ったように頷き]
そうか。
声を失ったのか。
いや、いい。無理をせずとも、そのまま念じればいい。
[ぺたり、と。
熱でも図るように彼の額へと手を当てた]
[雑音混じりの声を丁寧に拾い上げていく]
………ん。
[旅立つというアルビンへと]
………ん。
[時折、相槌を打ちながら]
[ぺちんと、指先でアルビンの額を一つ弾いて]
急ごしらえとか、本当の、とか。
そんなもの関係なく。
[にぃっと、初めて声を交わした時のような、
凶悪な笑みを浮かべて]
お前は私の相棒さ、バディ?
[自分の道を決めた相手へかける言葉は、何もなかった。
信じているから。
彼の志を。
その道の先につながる光を。
だからただ一言だけ]
―――…ああ、行ってこい。
[帽子で顔を隠すアルビンへと、
笑み浮かべたまま拳を作った右手を差し出した]
[ぶつけあう拳に、にやりと口端をあげる。
そしてこの村では誰にも見せたことのない、軍式の敬礼を取り旅立つ仲間の魂を見送った。
舞う雪は彼の旅立ちを祝うように、強く咲く]
…………先に行きやがって。
[あんなに怯えていたくせにと嘯く女の顔は、
冷たい雪の下にやがて訪れる春を待つ花を見つけたように、とても和やか**]
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