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[橋のたもとにツヴァイヘンダーが突き立てられているその光景を、自分は'思い出さない'。
だが、それが何のために行われたのかだけは、説明されるまでもなかった。]
あなたといい、 軍師殿といい…
[折りに触れ、繰り返される追悼が、どれだけの慰撫となり熱量となっているか教えてやりたい。
(ジークムントが祈りを捧げる先はまた別の漢であるが)
腕に抱いたジークムントの肌に落ちるひと滴。]
[そうこうしている間にも貴重な血は失われてゆく。
自分のことではない。
人ならざる身体の治癒力は、何をせずとも受けた刃傷を塞ぎにかかっている。
完治とまではいかずとも、死ぬようなことはないだろう。
一刻を争うのは紅に染められた銀。
衝撃を与えないよう、そっとジークムントを地面に横たえた。
橋は冥界との境目ともいう。
今の彼にも似つかわしい場所とすらいえた。]
− 渓谷にかかる橋付近 −
[背後に蹄の音がした。
駆けてきたのは見知った
だが、その背に
近くには、 いるらしいな。
[異変に研ぎ澄まされた感覚が、その時、柔らかな戦の気配を捉えた。]
クレーデル、 頼む。
[ジークムントを抱え上げて馬の背に預けると、自らは黒狼に変じた。
クレーデルはもうこの姿に慣れているから、獣の匂いにも暴れることはない。
そのまま、クレーデルがやってきた方へと並んで駆ければ、そう遠くない林の間に、二人の姿を見つけた。
曲芸めいたマカブルを踊っている一方は探していた
もう片方も知らぬ顔ではない。
[この世界に来てから横槍は何度目だ、と自嘲しながら飛びかかる。
そういや、いつぞやは勝負下着姿のエレオノーレを攫ってきて、オズワルドの部屋の床に押し倒し、彼の眼前でぺろりぺろりと舐め回したりもしましたな。
その後、さんざん掻い弄られましたが。
とはいえ、今はブラッシングより血が欲しい気分。]
敵いません。
[彼にとってはごく自然な行動なのだとわかるから。
自分とは器が違うと。
悔しいと思っていいはずなのに、洩れるのは甘い呻き。
圧倒的なものに魅せられて、また熱くなる。]
[空を切った獣の身体は柔かに着地してしなやかに向き直った。]
…ガルゥ
[太い尾をひと振り。
後続の銀の危機には気づいてもらえたらしい。
自身は、エレオノーレを牽制するよう身構える。]
話は軍師殿の手当をしながらできます。
クレーデル、
手回しのいい
[クレーデルの首筋を叩いて許可を求めてから、鞍袋を探る。]
[最初に、ジャラリと重い音をたてて触れたのは鍛冶カレルの手鎖。]
…そういや、ここに入れましたっけ。
[懐かしい、と呟いて肩にかけておき、なおも鞍袋を漁る。
今度は、包帯と軟膏を見つけることができた。]
やっぱりあった。 ありがたい。
[見つけたキットと近くで汲んできた清水とでジークムントの傷を手当する。
一応、これ以上の血の流失を止めることはできたようだ。
指先についた血をチロと舐める。]
鉄というより涙の味がしますね──
[手を動かしながら、かいつまんで状況を説明する。]
軍師殿が、彼が「ギィ」と呼ぶ赤毛の男と相対死にしようとしていたところに行き合ったので。
二人がそうなった経緯は知りません。
ただ、軍師殿は、自分が斃れたら血はやると言っておきながら、じゃあギィもおれが喰ってやると言ったら、是とは言わなかった。
つまり、誰にも渡したくないくらいに求め合い、自分の一番を与えようとしたら命を差し出すしかないと、そういう関係に感じられました。
まさしく心中です。
邪魔するのも無粋かと思いましたが、誹られても構わないほどには、他人事と思えなくて。
あなたなら、どちらも生きたまま欲しいと言うだろうな──と考えたら、勝手に身体が動いて、間に飛び込んでました。
つまり、あなたがやったも同じなので、後を託しにきたところです。
− 渓谷橋に近い林 −
[オズワルドの義憤もまた、いとしいもの。]
あなたなら、軍師殿にもう一度、光の方を向くよう口説けると信じていますよ。
あの場にいたから行動はできた。
けれど、残念ながら、おれでは力不足で。
ギィには振り切られました。
[手を零れたもの。
苦い自責の笑みを漏らす。]
おれはこれからギィを追ってみるつもりです。
あの男もちょっと気になるんですよね。
おれの'親'と似た傷をもっていそうな感じがして。
少なくとも、軍師殿が立てるようになるまでの足止めくらいはしましょう。
[オズワルドたちが、ギィを放っておかないことは確信している。]
でも、その前に──
実力で、おれから軍師殿を取り上げてくださいね?
[声に剣呑で楽しげな色が踊る。]
軍師殿はおれの陣営の仲間です。
それを、あっさりあなたに渡すわけにもいかないでしょう?
[カレルの鎖を下げて、立ち上がる。**]
− 渓谷橋に近い林 −
御意。
[こちらから誘った戦いだというのに、丁重に礼をしてみせた。
オズワルドとは野営の空き地や士官学校の稽古場で、幾度となく手合わせしている。
だから、ルールも何も取り決めはしない。
右手に下げた鎖は、注意を引くように軽く揺らすだけで、大仰に振り回すことはせずにゆったりと構える。
と見せかけても、懐に入る隙を窺っているのはきっとバレバレだ。]
− 渓谷橋に近い林 −
すぐ決着しますんで。
[エレオノーレと、ユーリエと呼ばれる銀髪の少女にも会釈をしたままの笑顔で、目の奥に炎が翻る。
オズワルドが仕掛けてくる短い疾駆。
左から右へ流れる初撃は難なく躱した。
オズワルドの想定どおりでもある。]
…せいヤぁっ!
[右へと流れるオズワルドの足元に重い鎖をボーラのように投げる牽制。
同時に身体を前に投げ出しての浴びせ蹴り狙いだ。
回転したハルバートの柄がその身体を薙ぐか、踵がオズワルドの肩に落ちるか。
あるいは痛み分けか。
どのみち、宣言どおり、この一撃の後は考えていないような大技を繰り出す。]
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