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[自分を物であるかのように言う少年が差し出したもの。唇の前に出された紅い液体が甘い芳香を放つのを呆然と見る。
――これは、なんだ。
目の前の少年と傍らの人物の指から流れ落とされたもの。そう、認識しているのに。
動かぬからだがこれを飲めと欲しているけれど…意思がそれを押さえ込む。
好きにすればいいと思うのは本当で。けれどそれを自らの意思で口にするのは自分の中の何かが拒否をする。
いらない、と。意思を表示するものの視線は紅い液体から離れようとはしない]
[――時間がない、と。そんな声と同時に口を無理やり開かされ、あまい液体が舌に触れた。あまいあまい――頭は拒否をするのに、舌は今の彼にとって生命の源ともいえる液体を求めて動く]
う…
[頭の中がとろり溶けるような。大して長い時間でもないであろうが、呼吸のために胸が上下するにも体力を奪われていたような拘束感が軽くなった。
その時彼の口にした『タチアナ』の名前に、やっと少し楽になった視線を向ける]
…たち、あな…?
[そう珍しい名でもない。偶然ということはありえるだろうがその名は自分も知る人物にもあるもの。気付けば馬車はどこかに止まっているようだ]
――ここ…
[そう、タチアナの名は自分の祖母のもの>>281。
自分にとって祖母は厳しくも優しい“家族”であり――彼は何だ。愛しい?そんな混乱を起こしかけるが、窓から見える風景を見ればたしかにここは自分が幼い頃を過ごした“我が家”だ]
……君は、何?
[目の前の少年のもどかしさには気付かぬまま、先程からの疑問を口に乗せるけれど。答えが返る前に聞こえたお願いに、微か目を開く]
ばーちゃん、が?
[祖母が最近体調を崩しがちなのは知っていた。けれどそこまで悪いなどと…いつの間に。慌てて身を起こそうとするけれど、先程まで目を開くのもやっとの状態。寝かせられた馬車の椅子から転げ落ちかけるのみで足は自分の体を支えるまでの力はない]
― “我が家” ―
[肩を借りて―身長差でお互い辛そうだったけども―家に入ると、すぐに母親が驚いた顔でこちらを見た。それはそうだろう、いきなり連絡もなく帰ったのだから。
祖母の容態を聞こうと口を開くけれど、それを遮るような動きで肩の下の彼が引っ張るものだから、つられて歩が進む]
お、い…
[慌てて母を振り返り見るが、視線はこちらには向かずに開いたままの扉に向かっていることに微か違和感を覚え]
――。
[彼はこの家をよほど熟知しているのか、迷うことなく祖母の部屋へと向かう]
― 祖母の部屋 ―
[祖母の部屋に入ると、見慣れた彼女が寝台に横たわっている]
ばーちゃん!
[慌てて近寄る横、隣に立つ彼が祖母に向かい優しげに語りかける。今まで見なかったその幸せそうにも見える表情に不思議なものを感じる。祖母をここまで想う人がいるなど、今まで知らなかった]
ばーちゃん…
[一人でも立つくらいはもうできるけれど、祖母の寝台の横に膝をついて座り。閉じた彼女の瞳を覗き込む。
一瞬『死』の記憶が掠めるけれど、『あの日』のような闇はそこになく。そういえば何故自分は生きているのだろう、という疑問が浮かんだ。
そこに響く12の鐘――]
――何故?
[目の前の青年の首を削ぎ落としてしまいたい程の怒りを抑えて紡ぐ声は、酷く冷たく感じられるかもしれない。
相手が肉声で話している事など、気づく余裕などありはせず。
ただ、自身が彼女に抱いていた感情を否定されたという事だけが、今の男の思考を埋めている。]
お前には、彼女が不幸な死を遂げたように見えるのか?
[男にとっては“彼女が幸せに生き、幸せに逝けた”それが全てなのである。相手の抱く喪失感なぞ考慮にいれるわけもなく。
彼女の血縁者という意識よりも敵対心が勝ったのか、呼び方さえもかわっている]
――僕が言われたのは少し違う。
[想い人との思い出を語る姿>>428に、気勢を削がれてしまった為、その声は落ち着いたものへと置き換わる。
懐かしさを覚える言葉を聞いてしまえば、その思い出を噛みしめるように反芻する。
が、締めの言葉は次のようなものだった]
教える気はないけどね。
[“あなたが好きになれない人を、私が好きになれると思う? 人を好きだと言えるあなたは素敵だと思うけど、あなたが私を好きなくらい、あなたはあなたを好きになるべきだわ”
――なんて、彼女に振られた際の言葉をどうして彼女の…いや、恋敵の孫に聞かせてやらねばならないのかと。]
[少し違うという言葉>>432に意外そうな目を向ける。祖母はよくそんなことを言っていたのに。が、すぐに教える気はないと言われて残念に思う。それを言った顔が少し悔しげで、それ以上を聞こうとは思わなかったけれど]
そっか。残念、ばーちゃんの思い出、聞きたかったのに。
あ、そういやさ。皆に何かした?急に倒れたけど。
[不思議そうに倒れた家族の一人の顔を見た。自分に危害を加えてこない彼が家族に酷いことをすると思わず、さほど心配はしていないのだが。一斉にというのは何かがあったということで、そういうことができそうなのは彼一人に思えたから]
― “祖母の部屋” ―
[祖母のことを思い出したのか嬉しそうな顔をした>>437彼が、すぐに顔色を変える>>438]
え?なんで…
[ここにいてはいけないと言われて疑問が浮かぶが、それに答える間も惜しいように手を引かれて家を出た。扉を出れば、見知った近所の人々が固い地面に伏しており。一瞬『あの日』を思い出して混乱を起こしかけるものの顔を見れば苦しげなものではなく、むしろ穏やかに眠っているようだ。
押し込まれる馬車を見れば御者と馬には首がなく>>253、尋常なものではないと知れた]
え、どこに
[問う声は相手の耳には届かず、彼が手早く指示を飛ばすと首のない馬が声なきいななきをあげ、風のような速さで駆ける]
― 馬車の中 ―
……。
[いくらかでも話し相手をしてくれていた彼のいない馬車の中は沈黙が重く、向かいに座る人物に話しかけようにもこちらにあまり関心もない様子。それでも]
…どこへ、行くんですか?
[そう聞いてみれば、評議会所有の城館だと答えが返る。そういえば評議会という単語は先程も聞いた気がするけれど、自分の知識にはないもので。相手は会話を望まないのか、それ以上のものは聞けないままにどこかに辿り着いた]
― 城館・ホール ―
[通されたホールは、人生の中で見たことがない程豪華なものだった。案内してきてくれた人物にそこで座って待つようにと言われてソファに腰掛けるものの落ち着かない。
手持ち無沙汰にソファを見れば、家具職人である父が手掛けたこともないような細やかな装飾が掘り込まれ、何故ここに場違いな自分が連れてこられたのかとますます疑問が湧いた]
―…。
[視線を巡らせれば、そこに誰かはいただろうか。人の姿を見れば、こんばんはと声をかけてみるだろう*]
― ホール ―
[軽やかな足音が聞こえてそちらに目を向けると、何やら難しい表情をした女性が一人。そのまま通り過ぎ往く時に挨拶をかけると、難しい顔をしたままで挨拶を返してくれた。
無視をされるかと思っていただけに、わざわざ足を止めてくれたことに微か驚きつつもへらりと笑う。難しい…というよりも、戸惑っているのだろうか。
誰かに連れてこられたのかと問われて>>461少し考え]
そうです。名前は聞かなかったので知らないけど…も、って。あなたもですか?
[少し意外に思う。場違いな自分と違って彼女の所作は洗練されていて、この館に相応しい人物に見えたから。事情が聞ければと思ったけれど、彼女がここの関係者ではないならあまり聞けないかもしれないと相手に悟られぬ程度小さく息を吐き]
待てと言われたから待っていたんですが…することが、なくて。
[浮かぶのは困ったような笑み。明らかに年下の女性に愚痴染みたことを零すのも憚られ、それだけを告げる。本当は祖母の所に戻りたかったけれど、先程の少年の様子を見るとそれは出来ないことであるであろうというのは理解できた]
[浮かべた笑みにふわりと綺麗な微笑が返された>>466
綺麗な人だなぁ、などと場違いな感想を思いつつ、不親切という言葉には微妙に視線が泳ぐ。
本来ここに自分を連れてくるのは少年の役目だったのだろう、それを自分が邪魔した形であったらしいので。それで余計に時間がかかっているなら完全に自己責任であろう。
お邪魔しても、という言葉には]
ええ、是非。話し相手をして貰えるなら、俺も助かる。
[暇であるのも事実、もし何某かの話が聞けるなら僥倖。さっき瞬間彼女が眉間を寄せた気がしたけれど、次の瞬間には元の華やかな笑みを浮かべていたから気にしないことにした。まずは自分の名がダーフィトであることを告げ、一番聞きたい質問をぶつけてみる]
それで…ここは、どこなんでしょう。
あ、評議会ってのは聞いたんだけど、評議会ってなんなのかを知らなくて。
[そう聞けば、己がほぼ何も分かっていないことは彼女に伝わるだろうか]
[簡単な名前のみの自己紹介に返ってきた丁寧な挨拶>>486に、ああそういうべきだったかと瞬時慌てる]
ええと。吸血鬼…?
[彼女の言葉に、あの日自分と同僚達、数多の生徒達を襲った闇>>243>>244の正体が吸血鬼であったことを知る]
あまり、覚えてない。学校に、いたら。よく分からないモノがきて…皆が順番に倒れていって。俺も襲われたと思うんだけど…そこからの記憶がない。
次に気がついたら
[認識に沿って説明していくけれど、どこまで通じるかが分からなくて難しい顔になる。これが彼女が聞きたいことなのかはよく分からない]
………。
あの時…俺も襲われたと、思うんだけど。なんで俺無事なんだろう…
[最後の呟きは小さくて、離れた位置にいた黒い肌の青年>>470までは届いたかどうか。
不安も、ある。あの時のあまい香り――>>264
けれど他人の血をあまく感じたなどとは言いたくなくて、口を閉ざした]
……。
[聞きたくない答えが、彼女の唇から零れてくる>>505]
――っ、
[勢いをつけて立ち上がった。触れそうな位置にあった彼女の指が離れる。柔らかそうで……けれど、温度を感じないゆびさき]
…っ、きっと、だよな?絶対、じゃないよな?それ、誰に聞いたら分かる?!
違う可能性もあるんだよな?!きいてくる!
[答えは聞かずに走り出そうとする。回復しきっていないからだが一瞬傾ぐけれど、そんなものは気にせずに回りを見回して、先ほどは目に入っていなかった位置にいた青年>>470が目に入る]
なぁ!あいついつ帰ってくる?ええと、名前しらない!金髪の、ちっちゃいの!
[何かを知っていそうな人物を指定してみるけれど青年には伝わるだろうか]
[質問を投げる前、こちらに向けられた鋭い目。唇は動いていたかもしれないけれど、耳に捕らえたことば>>508
――吸血鬼
――じかく
――聞いていないのか
そんな単語に質問を被せて、目一杯聞かなかったことにする。
そうして得られた名前に>>509]
そ、っか…まだ、しばらく帰ってこないんだな…
[漠然とした質問だったけれど、答えた青年も何かを知っていそうで。多分、その人物で間違いはないのだと思う。
目の前の彼に聞けば答えは得られたのだろうけれど、敢えてそれには気付かない振りで少しでもと結果を先延ばしにして]
これ、いつまで待てばいいの…少し、つかれた…
[無愛想な口調ながら、聞いたことにはきちんと答えてくれた彼にそう問うてみた。疲れたのは本当だ]
― 一室 ―
[案内された部屋に入ると、寝台に突っ伏した。途端尽きかけていた体は眠りを求めてあっという間に意識が混濁していく]
………。
[吸血鬼、などと。信じたくはないけれど、今までに起こった事柄を考えればそれが事実であろうというのは想像がついた。
両腕を持ち上げて、自分の手を見る。左手を動かして、右の腕に爪で傷をつければ鋭い痛みが走る]
これ、で…
[目が覚めた時に、この傷が残っているのか。残っていないなら――
残っていることを祈りながら、すぐにやってきた眠りに意識は攫われた*]
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