情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新
騎士 ジークムントは、修道騎士 バルタザール を投票先に選びました。
―階段―
[野茨公が形見としたモノが何であったか知れず
けれど、うしなわれようとする中でも
己の事を思い出してくれたと思えば、胸には温かさが灯る。]
――…我が君。
[呼び掛ける声は密やかに落ちた。]
[再び戻ったマントを翻す。
アデルの事を案じはするが彼の身に危険が迫れば
呼び声が聞こえるだろう、と思う。
信じるが故に、彼の行動を尊重し]
逢えたのだから、これで十分。
そう思えたなら良いのに。
――私は存外欲張りなのだな。
[抱いたぬくもりを思い出すように
ぐ、と己のこぶしを握りしめた。]
――…いつか、か。
[それが叶うことを願う。
少なくともシメオンと話したあの時は
友を得たような心持ちになっていた。
一方的に何をと思われても仕方ないから
それは言葉に出来はせず、言う機会は逸したまま。]
仮令気まぐれだったとしても、
私は嬉しかったのだろうな。
[そんなことを呟いて砕かれた剣を鞘におさめ、ふ、と息を吐いた。**]
[十年前に出会ったこども。
神子として教会に連れてこられたアデルは
ジークムントの目には儚く頼りない存在に映った。
腕にすっぽりとおさまるか弱き存在。
涙に濡れるそのこどもを護りたいと思った。
純粋であればあるほど
この世は生きにくいことを知っていた。
アデルを傷つけるものをその手で遠ざけた。
教会が彼を囲い守ろうとしたように
ジークムントは兄として彼を護ろうとした。
己には与えられなかった兄弟の情を注いでゆくうち
いつしかアデルはかけがえのない存在になっていた。]
[護るべき存在と思っていたアデル。
一年会わぬうちに随分と強くなったように思う。
心のまっすぐさが芯となり見違えるようだった。
彼には仲間がいる。
必要とし必要とされる仲間が。]
――…弟ばなれが必要なのかもしれないな。
[アデルが護りたい存在であるのは変わらない。
けれど、彼の成長の枷となっていたなら――、と。**]
―サロン―
[床を見れば血痕が今も残る。
すでに渇き赤黒く変色したものに興味も欲も抱かない。
けれど吸血鬼としての欲は消しきれはしない。
血のきょうだいとなったバルタザールを思いだし
考えるように眉を寄せた後、深い息を吐き出す。]
アレクシス殿は野茨公のために動けばいいと言われたが
忠誠を尽くす“子”はひとりで十分なのではないですか。
私は――、此処を去るべきか。
[此処より他に身を寄せる場所などないと分かっていても
考えずにいられないのはこれまでの依存を自覚したから。]
[吸血による快楽を自らの牙で覚えた男は
これからもその欲に悩まされ続けるのだろう。
血を拒み続けてさえいればゆるされるかもしれないと
そんな仄かな希望を抱き続けていたが――。
生き延びる事を優先し仄かな希望さえ消してしまった。]
――私に出来る事はもう何も、……
[ないのだろう、と思うが、最後までは音にはならなかった。]
[吸血の衝動はいずれ己を苛むだろう。
弟と思う存在さえ牙向けてしまうかもしれない。
そんな衝動が恐ろしく堪えがたく――]
自らの手で幕を引く事が出来れば良いが――。
[教会で長く過ごした騎士に自害は選べず、
命を繋いでくれた野茨公にそれを断ってくれと頼むのは酷に思う。
ふ、と思い浮かぶのは公弟であるそのひとの貌。]
[この肉体が在り続ける限りアデルを求めてしまうだろう。
弟離れが出来るなら、この一年で出来ていたはず。
それなら、ゆるされぬ存在は自ら終わりを選ぶより他ない。
そんな勝手な思いから固めゆく考え。]
―サロン―
[ふわり漂う薔薇の芳香。
鼻腔擽るそれに誘われるように顔を上げると開いた扉の向こうには
その香のように華やかな気配の公弟そのひとの姿がある。]
ヴィンセント様。
ご無事で何よりです。
[吸血鬼ではあるが魔力をろくに扱えぬ男には
血の親やその兄弟がどうしているかは知れない。
それゆえに会って漸くその無事を確認できる。]
[血の兄弟となった者の名がアデルの声で紡がれる。
何かあったのだと声音から察するが。
それには触れぬまま問う声に考える間を置いて]
――何の為だろうな。
私は子を作った事がないから分からないが
……その時、必要とされて、うまれるもの、と思う。
――いえ。
野茨公の不在をアレクシス殿より聞きました。
ヴィンセント様が野茨公の分も客人をもてなしておられたのでしょう。
謝られる事はありません。
むしろ、何の手伝いも出来ず――…
[謝罪するように頭を下げてからヴィンセントに視線を戻す。
距離は先ほどより近く薔薇の香りが一層深く感じられた。]
……お戻りになられたのですね。
よかった。
[血親から、の言葉に帰還を確信し安堵する。
差し出された薔薇に引き寄せられるように利き手を添えれば
腰へと回る公弟の腕に、また距離が縮まり途惑うように眸が伏せられる。]
私の血の精髄だ。
…私の死と共に咲いた。
[ギィの声を真似て、ジークムントの耳元に囁く。]
まだ血を厭うているのだろうけれども、
今はそれでは自身の身も守れないだろう。
── せめて、これを。
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新