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― 黄砂の村 ―
あ、サルークさん。
[聞き慣れた声に視線を転じれば、暗い髪のひとが現れていた。
彼がきてくれたならもう安心かな、と胸をなで下ろした時、
空が、不穏な気配に埋め尽くされる。]
あ ……
……… ああ。
[光り輝く翼を持つ、人型生物の大群が、弓矢を構えてこちらを狙っている。
止まりかけた思考を、無理やりに動かした。
つまりここは、そういう世界なんだな、と。]
ええと、こういう時は───
[それでもやっぱり思考は混乱していたのだろう。
天使たちが矢を放つまで、茫然と見上げていた。]
───…!
[天使の弓の中央に光が膨れ上がり、放たれる。
まだ混乱した頭で思うのは、まるでビームみたいだなという連想だった。
敵艦の砲身から、破壊の輝きを宿して放たれる光の箭。
連想が重なって、言葉が口をつく。]
対エネルギー防御用意!
出力最大!
[瞬間、目の前に薄い膜が広がり、光の矢を受け止めて虹色に輝いた。
これは艦のエネルギーバリアだと、虹色が消えてからようやく気付く。]
凌げたは凌げたけど、これだけじゃ埒が明かないな…。
あれだけの数だ。
こっちにも、部隊が要る───。
[天使たちの第2撃を避けて移動しつつ考えていると、
アプサラスの動きが目に入った。]
[逃げ回っていたら賞賛が飛んできて、苦笑というか照れ隠しというか恥ずかしいというか、そんな顔になった。]
ああ…あれ、見た目は派手だけど攻撃じゃないんだ。
攻撃、できたらいいんだけどね。
[告白してから、あれ、と思い立つ。
ひょっとして、これは使えるんじゃないだろうか。]
[さっさと建物の影に退避して更なる攻撃を避けつつ、戦局を睨む。
アプサラスの動きにも注視していたが、やがて苦笑とともに視線を外した。]
ほんとに、あの人は───
[どうして天使たちが彼女を攻撃しないのかはわからないが、彼女が攻撃を指揮しているというわけでもなさそうだった。
どちらかというと、この凶事で遊んでいる、ように見える。
声は聞こえなかったが、はしゃいでいるような様子ははっきりと見えた。]
[彼女を警戒する必要が無いとみれば、意識のすべてを天使軍に向ける。
動きを注視するうち、相手の編隊運動に核があると見えた。
完全に統制が取れ、統御された軍であればこそ、
その要となる指揮者の位置も見やすい。]
……あそこだ。
中央やや右寄り、緑の羽飾りをつけた天使!
あれが彼らの指揮官だ!
[声を上げ、仲間たちに注意を促す。]
[戦場分析の結果を伝えてから、自分の思い付きを検討する。
もし有効な
攻撃命令を出せば、ひょっとしたらなにか出るかも。
でも、なにも起きなかったら恥ずかしいしな、とかちょっと思ってしまうのだった。]
[指示した先を風の竜が的確に撃ち抜いた。
初めて目の当たりにする魔法の力に唖然とするものの、
さすがに、思考停止に陥ったりはしない。
もう慣れたというより、そういうものとして理解できるようになったというところ。]
…よしっ。
[指揮官が落ちると同時に、天使軍の動きが大きく乱れた。
指揮官の側へむやみに突進するものから、勝手に何処かへ去っていくものまで、ばらばらだ。
ハンスに連れてこられた青年が指揮官を消滅させるのを見届ければ、小さくガッツポーズをする。
残りの天使も、おそらくは機動力を得たハンスが一掃するだろう。]
[ようやく人心地ついて周囲を見回したところで、ベリアンが近寄ってくるのに気付く。]
ああ、サルークさん、お疲れ様です。
あれが魔法なんですね。
あんなにすごいものだとは想像もつきませんでした。
―――いえ。
どれだけ作戦を立ても、実行してくれる人あってこそ、ですから。
……ぅ。
ええ、…心しておきます。
[興奮の色をまぶした声で労う矢先、感謝と警告をもらう。
自分が狙われる可能性を指摘されて、やや顔が引きつった。]
? 私に、これを?
[そんな警告の後、差し出された眼鏡を受け取る。
外した時になにかしていたのが、魔法をかけていたとまではわからなかったが。]
でもこれ、無いとあなたが困りませんか?
[聞きながら、ちらりと眼鏡のレンズを覗きこんでみて、
どきりとした顔で慌てて離した。]
[レンズを通して見えたのは、どこまでも広がる
まさか、と思いもう一度覗きこんでみれば、今度は普通の光景が現れていた。
ただ、視界の邪魔にならない位置、足元に近い中空に、"黄砂の村"という文字が浮かび上がって見える。]
これは……。
[この世界の本質を覗いているのか、
あるいは、自分の理解しやすい形で、眼鏡が世界の情報を可視化しているのか。]
うん、ありがとう。
これは、すごく面白い。
[視力に関しては問題ないとベリアンが言うので、
ありがたく、眼鏡をかけることにした。
きっといろいろ試せば、まだまだできることがあるだろう。
見た目に関しては、……なんだか学生っぽくなった、かもしれない。]
[射撃用意、の号令が聞こえて、アプサラスの方を見る。
いつの間にか彼女の左腕は袖ごと癒えて、薔薇の刺繍が浮かんでいた。
その様子に、なぜかとても嬉しくなる。
なにかが通じ合ってひとつになったような。]
あ…っ。
[見とれているうち、空の異変に気付いた。
こちらは明らかに彼女の号令に合わせ、
無数のミニチュア版宇宙船群が空に浮かんでいる。
撃て、の号令に合わせてエネルギービームが放たれるのを、目を丸くして見守った。]
……やっぱり、できるんだ。
[意識して見れば、雲間に逃げ込んだ天使たちをビームが貫いていく様子が、天使のアイコンと数値が消えていくという形で見える。]
[しばらく眼鏡でいろいろなものを映したりして遊んでいたが、アプサラスの姿を視界にとらえて、そちらへ歩み寄る。]
アプサラスさん?
[声を掛けてから、にこりと笑った。]
さきほどの襲撃、
天使たちはあなたを攻撃していないようでしたが───
なにか、敵味方識別信号発信機のようなものを、持っていませんか?
[形は疑問だったが、実体は確認に近い。
いますよね? と続きそうな口調だった。]
…………!?
[爆笑された、どころの話ではない。
腹を抱えて笑い転げるというのがぴったりなくらいの勢いで笑われて、唖然とする。]
ええと、その、 ……なんかすみません。
[いたたまれなくなって、思わず意味もなく謝ってみる。]
[どうやら褒められたらしいが、何か納得いかないのは何故だろうか。
ともかく、天使に狙われなかった理由の推察を、
半分はこの人らしいなと思いながら聞き、
もう半分にも納得して頷いた。]
そうですね。
何かが最初から組み込まれているとしたら、
詳しく調べれば───
[そういえば、ハンスが魔女と出会ったとかなんとか言っていなかったっけ…と思って振り返った視線の先に、天使を引き連れてこちらへ向かってくる彼の姿があった。]
わ!?
ハンス、何を……っ!?
[こちらに攻撃しようとしてきた天使を、危ないところでハンスが倒していく。どうやらなにかを納得した顔で再び去っていく彼を見送りつつ、胸を押さえた。
まだちょっとどきどきしてる。]
年齢とこれとは関係ありません!
[いささか断定口調で言ってから、
心当たりがあるらしき彼女の様子を見守る。
覚悟を決めろというような口ぶりに対しては、笑ってみせた。]
私はただ、あなたがあるべき場所へあるべき姿へ戻れるように願うだけです。
そこに、不安材料は残しておきたくない。
可能性があるならば、なんでも、やってみましょう。
[奇跡を望んでいるわけではない。
ただ、汚されたくないだけだった。
余計な「神」の痕跡が、本来の彼女に影響を及ぼすかもしれないと思えば、それをそのままに見過ごすつもりはない。]
ともかく、その連絡が返ってくるまで時間がかかるかもしれませんし、今は少し休みませんか?
こう立て続けでいろいろあって、なんだか疲れました。
ほんの少しでもいいので、昼寝でも───
大丈夫です。
今のところ、こちらに向かっている敵影はありませんから。
[無意識に、くい、と眼鏡を指で押し上げてから、
どこかゆらゆら〜とした足取りで、歩き始めた。]**
あ……シンクレアさん?
[いろいろと飽和状態の頭にもう一つ声が飛び込んでくる。
声の主が先ほど自己紹介があった相手だ、とはなんとか気が付いた。]
ガートルード・サークリッドさん、
───「神」に狂わされていた人を正気に戻していらしたのですね。ご苦労さまでした。
神の欠片……
[また妙なものが出てきたぞ、と心のメモに書き留めておく。
どんなものかは、聞かなくてもだいたい想像はついた。]
───ギィ。
召喚士…? …ああ、猛獣使いかな。
[ハンスが言っていたのがそれか、と思い至る。
赤い髪の男、と聞いていた。
赤毛ならハンスが連れてきた彼もそうだけれど、彼はちょっと魔法を使いそうには見えない。]
また厄介なのが残ってるみたいだね。
戦わずに済めばいいけれど、
どうもそういうわけにはいかなさそうだ。
[そんな相手と対峙したとき、自分に何ができるのか。
もう少し、検討しておかなければならないなと思う。]
[いろいろ厄介そうな情報も、
逆に状況が好転しているという報告も、
いくつも次々と入ってきていたけれど、
ともかく今は情報を精査するより呑みこむ時間が欲しい。
体と心と頭脳の欲求に従って、
手近な家の手近なベッドに潜り込み、お昼寝タイム*]
魔物の軍勢を使役する召喚師…
[もういい加減、驚き慣れた。
けれども、相当に強力な相手だと言うのは、言葉の端々から察する。
だが対抗しうるという認識と自負が伝わってきた。]
こちらには魔法を使える人間が3名。
ハンスは魔法は使えないけれども機動力として頼りになるし、
そのショルガハ?さんも、こちらに力を貸してくれるなら
前線での戦力になりうる人でしょう。
アプサラスさんは先ほど、広範囲攻撃を覚えたようですし───
[こちらの戦力を分析しつつ、戦闘の推移を想定する。]
魔法を使える皆さんに、直接相手の召喚師を押さえてもらって、
残りの皆さんで軍勢に対する、という形になるでしょうか。
[想定してはみるものの、そうそううまくいかないのも戦場だ。]
─── 戦いの果てにしか届かないものがある。
ここに集まったのはみんな、
多かれ少なかれ、それを知っている人なんだろうな。
["説得"は力づくになるだろう。
その予想に頷きながら、独り言のように呟いた。]
殴ってほしいとはまた、斬新なお願いだけど。
[聞こえてきた言葉にもうひとつ、ぽつりと。]
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