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― 魔王城・個室 ―
[彼と自分は表裏一体。
彼が寛ぐさまに、自分の息も自然と深く落ち着いてゆくも──]
…っっ
[もそもそと寝返りを打った彼が、腰に鼻梁を擦りつけてくれば、視線がそこはかとなく泳ぐ。]
たまらなく…
[ほどなく眠りに落ちた彼の寝顔を見つめながら、魔界であっても自分たちの営みは変わらないのだと安堵した。]
結局は、おまえがいる世界が、わたしの求める世界なんだ、シズ。
[彼の肩にそっと手を乗せて、自分も静かに目を閉じる。]
― 魔王城・個室 ―
[眠りを揺るがし、魔王の声が響く。
意識に直接、刺さる世界の律。
彼の手を握り、その告知を聞いた。]
えらく気に入られたものだ。
得られるものは少なかろうに…
― 魔王城・個室 ―
[眠りは穏やかな至福に包まれたものだったが、目覚めはとても快適とは言えなかった。
脳裏に響いた声に頭をひとつ振り、半身を起す。]
ああ…。なんて勝手なことを。
[握った手から、震えが伝わるだろう。
憤りと恐れとが身体を突き抜けていく。]
……クロゥ
[彼の胸に額をつけて、気を静める。
互いの鼓動が一巡りするまでそのままで。]
あなたから奪わせはしません。
相手がなにものであっても。
───共に、帰るのですから。
[改めて誓いを口にする。]
― 魔王城・個室 ―
[同じ声によって目覚めた彼を腕の中に抱いて、その震えを受け止めながら、重なる鼓動に静かに耳を澄ます。
胸に響く彼の意志に、その髪へ頬を添わせて頷いた。]
魔王が魔界のすべての扉を閉ざし、外の世界への干渉を止めたというならば、我々が生まれた世界では歓迎されてしかるべき事態だろう。
我らがここにあることで魔界が封じられているのなら、無理に結界を破って戻るのはかえって災厄をもたらすことになるかもしれない──魔王の提案を聞くまではそう悩んでいた。
だが、魔王はいつまでも魔界を封じておくつもりもなさそうだ。
ならば、我らも立たねば。
わたしとおまえは互いの半身。
忠誠であれ、畏敬であれ──我らの一番強い”想い”を、魔王は得ることはできない。
[こうして話しているところもまた、魔王の知るところなのだろうが構わなかった。
とはいえ、密事にまで及ぶにはいささか気の散る話。]
シズ、 具合はもう大丈夫か?
動けるようなら、この部屋を出て、元の服に着替えよう。
それから、魔王に辞去の挨拶をしていこうと思う。
[ことの発端はあの堕天使の独断専行であり、おそらく魔王は関与していなかったと憶測される。
だが、いまや魔王は一切の手綱を己に帰した。
それはまさに王たる者のありようだ。
礼を通しておきたい──と、生真面目に諮る。]
― 魔王城・個室 ―
[魂を分かつ兄弟の腕の中で、その決意を聞く。]
あなたの居る場所こそが私の居場所。
ですが、わたしたちを必要とする人々は、元の世界にこそ待っています。
そしてわたしもあなたも、ここでは"正しく"在れないでしょう。
[この短い滞在で、自分は二度も意識を奪われた。
兄弟の体は常に瘴気に晒される危険を抱えている。
ここは自分たちが暮らすべき場所ではないのだ。]
ええ。
なにものも、わたしたちの絆を断つことなどできません。
[繋いだ手に、想いを込める。]
魔王に、ですか。
[提案に目を見開いてから、微笑んで頷いた。]
あなたがそういうのなら、行きましょう。
大丈夫。危険はないはずです。
あちらの意思は明瞭に示されていますから。
[魔物、とくに高位のものは契約を重んじる。
あれだけの条件を提示した以上、条件に乗る前にどうこうしようという気はないと踏んだ。
なによりも、礼を通すのは悪いことではない。]
それと…
またローブを借りても良いですか?
[そっと問うのは、自分の恰好を思い出してのこと。
服は借りられるならこのままで、上にローブを羽織れば様にはなるだろうかと少しばかり思案した。]
― 魔王城・個室 ―
[ここでは"正しく"在れない──彼の言葉を受け止め、帰るべき世界を思う。
楽園と呼ぶには程遠い地だけれど、澄んだ青い空の広がる世界。
彼の賛同を得て、試練に挑む前に魔王に挨拶をしてゆくことにし、着替えについては、彼の要求に、無論、と応じた。
実は裸の上にローブでもいいと思っているとか、そんなことまでは言わないけれど。]
── 行こう。 我々の望む未来のために。
[彼を抱き寄せ、額に接吻けて出発を促す。]
― 魔王城・個室 ―
[まさか裸ローブでもいいと思われてるとは知らず
───知ったら、そうしていたかもしれないが…
借りた衣装の上にローブを羽織って準備を整える。]
ええ。行きましょう。
共に。
[どれほど強大な魔の前であれ、ふたりでいれば臆することなどない。
額への接吻けにくすぐったく微笑んで、お返しとばかりに首筋に唇を寄せた。]
― 魔王城・大広間 ―
[小部屋を出て兄弟と共に受付へ戻る。
どれほどの時間だったかわからないが、休息を得られたのは何よりだった。
受付で服をこのまま借りることに了承をもらい、その上から兄弟のローブを羽織る。
この城へ来た時よりはまともな格好になった、と思いたい。
そうして、彼とともに魔王の前へ行ける時を待った。]
― 魔王城・大広間 ―
[魂の半身とともに、魔王の前へと進む。
先ほどの魔酒に植え付けられた呪縛は今は解けていたが、それを呼び覚ました魔王の強烈な存在感は変わることはなかった。
それでも、兄弟と共に歩む今、恐れはない。]
陛下。
わたしたちへ過分なお言葉を戴いたこと、まずは感謝いたします。
[信者の前に立つ時の微笑みに、敬意を加えて言葉を紡ぐ。]
陛下に望まれることは光栄なことと理解しております。
ですが、残念ながらそれをお受けすることはできません。
わたしたちが生きるべきはこの世界ではない、と考えております。
[傍らの兄弟と視線を交わす。
瞳にのみ、信愛を語らせて。]
兄弟ともども、陛下に辞去のご挨拶を申し上げます。
陛下の御世に泰平が訪れますよう。
[祈りと祝福のしぐさは省略し、ただ軽く頭を下げた。]
― 魔王城・大広間 ―
[兄弟とともに魔王の前から退がり、宴の広間も抜けて出る。
落ち着いたところで、再び視線を交わした。
礼は通した。
やるべきことは、あとひとつだ。]
― 城の前庭 ―
主は捕われ人を解き放たれる。
───わたしたちを阻むものはなにもありません。
[自らを囲う兄弟の腕に、自分の手指を添わせる。
元の世界で待っているであろう人から託された鍵。
そこへ意識を集中させる。]
[彼と共に"鍵"を回す。
金属の軋む音とともに鍵はゆっくりと回転し、───中途で動かなくなった。
手に伝わる感覚が変わる。
これ以上回せば鍵が砕ける。
直感がそう囁いた時、脳裏をよぎったのは"相応の代償"という言葉だった**]
― 魔王城・前庭 ―
[頭の中を、いくつかの思いが去来する。
一番強い思いは、彼と共に在りたいと願う心。
再び共に帰るのだという気持ち。
ならば。]
世界の律を超え境界を穿つ代償に、
わたしは、わたしの両の目を───
[手を握る強い力が言葉を遮る。
彼の瞳に宿る光の色に、次の言葉が継げなくなった**]
我らは互いの半身。
互いに必要としあうふたつの身体だ。
今も、これからも──
おまえと同じでいたい、 シズ。
[失うことですら、互いがより強い絆で結ばれることを望んだ。]
― 魔王城・前庭 ―
[彼の瞳から、彼の考えたすべてを読み取ることはできない。
ただ、純粋で真っ直ぐな願いが心に届いた。]
あなたという人は───
[どうしてこれほどにも自分の心を震わせるのだろう。]
同じ印を刻もうというのは、とても魅惑的なお誘いですね。
───ええ。あなたに望まれるのでしたら、
おなじで、いたいです。
[導かれた指で彼の瞼に触れる。
同じように、彼の手を自分の顔へと。
鏡に向き合うように、相似の姿で]
…ええ。互いにひとつずつ。
この世界で、わたしたちが共に苦難を乗り越えた証に。
[捧げましょう、と囁くように宣を為した**]
― 魔王城・前庭 ―
[求められた犠牲をも「魅惑的」と呼ぶ彼の無垢で前向きな強さが嬉しい。
彼こそが光の門だ。]
ああ、 共に。
愛しいひと。
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