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[駆け寄ってきたセルウィンを、複雑な顔で迎える。
最後に会ったときは、友は人間だったはずだ。
今、彼がここにいるということは
───つまりそういうことなのだろう。]
……。
[涙を流す彼の姿に眉を下げ、黙ってその頭に手を乗せる。
わしわし、と幾度か荒く撫でた。]
[疑問の言葉も非難の言葉も胸に刺さった。
どうせこうなってしまうのなら、
…あのときの選択を悔いる気持ちも確かにある。
口を開きかけ、
結局何も言わずに口を閉じ、手を下ろした。
弁明も弁解も、自分に許すつもりはない。]
……。
[ただ沈黙のうちに眼差しを共に注ぎ、深く頭を下げた。]
[食って掛かるセルウィンの声が、狂乱の色を帯びる。
先ほどよりも顔色が白くなったのは気のせいか?]
……。
[逡巡は短かった。
手を伸ばし、彼の腕を掴もうとする。]
[セルウィンの変調には見覚えがあった。
目の前で、とある吸血鬼がこうして狂っていった。
吸血を拒んで、血を失って、それで───]
っ。
[手を払われ、零れそうになる声を噛みしめる。
止めなければいけないと伸ばす手は、届かない。
歯がゆさに、拳を握りしめた。**]
― 廊下 ―
[走っていったセルウィンを、ともかくも追いかけようする。
その目の前に人ふいに飛び出してくるものがいた。]
───!
[とっさに抱き留めた相手の顔を見て息を呑む。
息を切らし、怯えて震える女は、
脳裏に焼き付いている面影を思い出させた。]
[養い親。心寄せた相手。
全身を血に染めた、最期の顔。
荒くなる息を押さえて幻影を振り払う。
衝撃を振り払えば、今度は本能が疼いた。
これは獲物だ、と心が囁く。]
………。
[衝動がそれほど強くなかったのは、今は血が満ちていたからだろう。
恐怖する女を離し、どこかへ行くようにと手で示す。
人間を襲う気分になどなれなかった。
かつて、人のままであってほしいと願い、
吸血を拒んだ旧友と出会った、今は。]
― 温泉 ―
[そうこうしている間にセルウィンの姿はどこかへ行っていた。
仕方なく、彼の捜索も含めて探索を再開する。
いくつか回廊と扉を過ぎた先で、水音を耳にした。]
……?
[誰かいるのだろうかと扉に近づき、そっと開く。
覗いた先、淡く煙った空気の向こうに、
肌色の影が見えた気がした。**]
― 温泉 ―
[吸血鬼の視力が無ければ見えていなかっただろう。
どちらが幸かは、暫し熟考を要するが。
ともかく、濃い霧と湯気が立ち込めるそこが露天風呂で、
そこで楽しげに湯面を蹴立てて泳いでいるシルエットは
女性らしい丸みを帯びたものである、
……というところまで見て取れた。]
…………………。
[見なかったことにしておくべきだろう。
そっと後ずさろうとした足元に、一本の蔦のようなもの。]
[なぜ蔦が洗濯しているのかとか、
なぜこんなタイミングで足元を横切るのかとか、
数々の疑問と文句を脳裏に浮かべながら、
蔦に足を取られてバランスを崩し、
盛大な音を立てて扉を大きく開け放ちながら
浴室の中へと倒れこんだのだった。]
― 温泉 ―
[転んだ勢いのまま受け身を取って一回転。
結果、頭を打つことは避けたけれども、浴槽との距離は縮んだ。
顔を上げれば思ったより近くに若い女性の姿があって、
しかもこちらへ近寄ってきていた。
湯が押しのけられる円やかな波の下に肌の色が揺らぐ。
まじまじと見つめそうになる視線を、横へ逸らした。
片手だけで謝罪のしぐさをして、
そのまま背を向けて立ち去ろうとする。]
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