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しつこいねぇ、本当。
[回避。さらに回避。
伸びる手を払うように、身をかわし、副砲にて距離を開かせる。
ダンスと言うには独特な、一定の距離を持った、それの連続。]
――来るぞ。
構えとけよ!
[声よりも艦の動きの方が早かった。なんらかの合図を持って、水雷艇が迫り来る。
速度の落ちた一艇には副砲の連撃。落ちたか――動きを阻害できたかは判断できぬが、距離は開いた。
同時に、回避行動。回頭し、距離を取り、危険部位を守る。
1はずれた――2、と。
水雷艇の機動に船尾が残る。]
[奇しくも、最初の遭遇戦において、かの水雷艇の攻撃がかすめた場所。>>1:763
ただし、今度は艦が持ち上げられるかと思うほどの衝撃が来た。
男は手に触れるものに掴みかかり、何とか耐え切る。]
生かせ! 持たせろ!
この船ならできんだろ!!!
[混乱の声は少なく――逆に、応じる声が吼えた。]
[外から見た風景は、また奇妙なものだったろう。
船尾に水雷を喰らい、確かに浸水、破損をしたナハティガルは、バランスを取る為に大きく舵を切った。
そして、舵を切り終わると同時に、バランスを“保った”。
そのまま、加速。速度は一切落ちていない。
反撃と己を狙った水雷艇への攻撃を行い、走る。“鉄門”へと向かう残水雷艇の前へと横切るように動く。
副砲、主砲合わせて、総射撃。
撃沈と言う最悪の“死神”を追い払い、ナハティガルはいまだ海上にあり――次の目標へと動く。
残水雷艇、そして、それが減っているなら、目標は敵巡洋艦だ。]
[ナハティガルの内部では、必死のコントロールが続けられていた。
“口”を開き、内部に海水を招きこむ。浸水したと同量を海水を、バランス取りの為に自ら水密区間へと呼び込んでいた。
他区間へ被害が及ばぬよう、浸水箇所の閉鎖は最初の段階で行われる。
この艦の初陣時から、徹底的に乗組員に叩き込まれた、“沈まぬための”手法だ。
海水と言う枷にて落ちた速度は、心臓部に送られる燃料によっての加速で維持される。]
どれぐらい行けんだよ、これ。
[ようやくの様子で男は艦長に問うた。
艦長の返答は淡々としたものだ。
「あたり場所にもよるがあと一発が分かれ目だな」と。]
あ、なに? あと一発耐え切れんの?
すげーな、それ。
[沈まぬように。それを望まれた艦は、いまだ内部にそのための仕組みを抱える。]
その前に、機関部が持たねぇかな。
[“心臓”はいまだ加速が行われている。水圧により内部の圧は上がっている。そのバランスが狂えば、艦は爆発する。
ナハティガルを生かす為に、乗員たちは必死の作業を行い続ける。]
やべぇと思ったら連絡寄越せ。
その時はナハティガルを停止させる。
俺はこの艦も此処にいる奴らも殺す気ねぇよ。
[「それなら火薬も捨てるぞ」と誘爆を案じる艦長の声に、けけと男が笑う。]
動けなくなっても撃てるだろ。勿体ねぇよ。
――ま、まだ止まらんでイイだろ。
もうちょい行くぞ。
[敵はまだ止まっていないのだから。//]
-回想/いつかの話、そして-
そんな感じ。こっちが浸水したら、こっちを閉じてここに海水入れるって言うのができてる。
[ナハティガルの水密区間の説明。]
話聞けば聞くほどさ。
あの艦、すげぇよ。
設計した人、作った人。それから維持して支えてきた人たち。
関わってきた人たち全部の「守る」って意志が詰まってる。
天使がついてるとか言われるけどさ、ナハティガルは違うなぁ。
あの艦、天使に守られてるんじゃねぇわ。
人に守られてるんだよ。
その艦を、俺の代で沈める訳にゃいかんよね。*
-戦場西方-
出てきた。
[後方。控えていた水雷艇母艦が出てくるのが見えた。>>120]
雷母だって油断すんなよ。
あれは戦えるぞ。主砲もこっちと変わらんわ。
速度はちと遅い、かねぇ。
[速度はナハティガルも良い勝負だ。
速度を上げれば、機関部に負荷が掛かる。そのうち動けなくなる。常の速度よりも下げて動かねばならない。]
[相棒位置の巡洋艦に信号を送る。
“どちらかの援護を”と。
“鉄門”を守るも、ナハティガルと共に進むかは自由だと伝える。
“鉄門”前の水雷艇にはいまだ副砲による攻撃が行われているだろう。
敵巡洋艦からの攻撃で、損害が出ている。まだ沈黙はしていないが、先にダメージを受けていた艦はそろそろきついだろう。
もっとも彼らは動かぬままだろうが。
緩やかに沈みつつある巡洋艦>>121の横を抜ける。水雷艇母艦へと。
既に退避を開始している艦を攻撃する事無く、進み出てきた母艦へと、向かう。]
…シュヴァルベ?
[味方艦発見>>130の報告は、前を見たまま答える。]
この距離で信号送れるなら、一個頼むわ。
水雷の直撃貰ってる。もうちょい持たせるが、いつまで持つか分からん。
[爆発だけは避けたい。そうなれば、この艦は確実に多くの命を犠牲に、死ぬ。]
そん時は頼む。
[信号が届く距離か分からないが、ナハティガルの状況を伝える信号が送られただろう。]
[そして、ナハティガルは再び前へ。]
目標、敵雷母。
なに、この前の戦艦ぐらいだと思えば楽だろ。
[無茶を、と、今この瞬間さえも笑い声が兵たちから返って来る。
それに笑いで答え、男は、いつもの言葉を口にした。]
行くぞ!
[ナハティガルが進む。水雷艇母艦に向かって。
いつもの速度ではない。
その主砲と副砲がこちらを定めても>>131、全弾を回避しきれるものではない。
主砲が帆柱のひとつに激突する。爆音と艦全体に響く揺れ。甲板で発生する火災に、乗員たちが対応を開始する。
副砲のいくつかが弾かれた。
その間も進む。
大きく回りこむように、主砲、副砲を水雷艇母艦に向ける。
一斉砲撃。]
削る。脚を止めろ。
こっから先に行かせないで充分だ。
[砲撃を行いつつすれちがい、そのままさらに距離をとり、船首を返す。
こちらも砲撃を受けつつ、さらに攻撃を返すつもりだ。*]
-戦場西方-
[ナハティガルと共に行動していた巡洋艦は、いまだ“鉄門”の傍にあった。
この艦が選んだのは、この場を守る事だった。
一艦、水雷艇の攻撃を受け、崩れるならば、その艦を守る為に位置を取る。
自軍艦の援護にて、崩れた巡洋艦からの退避は進んだろうか。]
被害は。
[報告を求める。
上がってくる状況は結構笑えるものだ。
笑えるほどぼろぼろだ。速度が落ち、今までの回避行動が行えない。
それでも、船首を返し、再び、水雷艇母艦へと。
母艦はこちらへ進んでくる。]
来なくても大丈夫。行くって。
[主砲と、数が減ってしまった副砲。
揃えて、出迎える。]
狙え。
目標、敵艦、主砲。
[上がってきた、もうひとつの報告。
機関部の異常を訴える声。
さらに、速度を落とす。]
そろそろこっちも持たん。
けど、もうちょい踏ん張るぞ。
[戦う力がある艦を進ませる訳には行かない。首都へと向かう水の路。そこでどんな戦闘が行われているか、男は知らない。
それでも“鉄門”がゲオルグの命により残り、そこを食い止めるのを目的とするなら、これは必要なのだ。
食い止める。]
主砲、副砲。
撃て!
[敵艦からの射撃。それをかわす動きも精彩を欠いている。
攻撃を目的とし、水雷艇母艦を狙う。
先ほどの主砲の一発は、敵の船腹から甲板まで貫いていた。
もう少し――もう少しだ。
動きを止める。
削る。
敵艦からの攻撃で、こちらも削られている。被害の報告は届いている。
届き続けている。]
[鳥の鳴き声のような異音。圧のバランスが崩れつつある音。艦のあちこちから、響く鳴き声。
それが、限界だった。
危険です、の叫びを受け、男は空を見上げ、ため息。]
了解。
ナハティガル、停止。これ以上動くとやべぇわ。
砲台、まだ動けるな?
[敵艦の前、僅かに行っていた回避行動がほぼ消失する。
静かに、静かに。
ナハティガルはその駆動を抑え込む。“心臓”は静まり、最低限の活動を行うだけになる。
浮き砲台状態となったナハティガルは、それでも攻撃は維持。
けれども、敵を食い止める脚は既にない。
が。
攻撃範囲にある限り、攻撃は続行された。*]
お、い。
停止、停止だ! 主砲、副砲、止めろ!
[射程の中に入って来た艦を認識するのが一瞬遅れた。
シュヴァルベだ。]
撃ったか? 撃ってねぇよな、当ててねぇよな?
[近くの海面への着弾を受け、シュヴァルベが揺れるのが見える。]
あぁ――くそ。
[止まったら頼むと言ったのは男だが、まさか本当にこうやって来てくれるとは思ってなかった。
迷惑かけた、どうするんだ、これ、と。
そして、届いた信号に、息を吐く。]
待機言われても、もう待機しかできないぜ、うち。
[マストも折れた。完全に浮き船だ。超低速なら移動できるだろうが、他艦に比べるなら子どもの徒歩のような速度だ。
ナハティガルの砲は現在、完全に沈黙。]
-巡洋艦ナハティガルにて-
[男は右手を伸ばす。手首、巻かれた緑の紐。]
なぁ、艦長。
俺の親父の事、知ってたよな。
[もっとも医療の必要な場所で医療を。最前線で治療行為を行い続けた医師。]
親父は、俺の知っている範囲で、もっとも命を軽んじてる人間だった。
――ただし、自分のね。
[己が死ぬことなど少しも恐れていなかった。他者を助ける為なら、自分が犠牲になる事すら喜んだろう。
そしてその父親に育てられた息子も、ごく自然にその心が身についていた。]
これね、まじないなんだよ。
昔はまだ大丈夫、戦えるって自分に言い聞かせるまじない。
今は――ここにも命があるって、ここの命も守らんとならんって言う、自分に言い聞かせるまじないだ。
[緑の紐。ここに命があると示すそれ。
過去、『自分の命も守れ』と言ってくれた人との約束を守る為の、まじない。
約束を破るのだけは、怖かった。]
しかし、本当、難しいね。
自分の命を守るのも、人の命を守るのも。
[ふ、と艦長が笑う。
ありがとう、と。
「ナハティガルを守る選択をしてくれてありがとう」と。
爆発するまで戦い続けるという選択肢もあったはずだ。
戦う事を誇りとするなら、それこそ選ぶべきだったのかもしれない。
しかし、それはほぼ確実な死を意味する。
艦と、乗員たちの、死を意味する。]
守らなきゃならんだろう。
この艦を守ろうとする奴らの気持ち、俺が殺せねぇっての。
[「ありがとう」と再度の言葉。
「ありがとう、副艦長」と。
艦長の言葉に、男は目を丸くし、噴出すように笑った。]
今更、副艦長言われても違和感すげぇや。
いいよ、“先生”で。
――俺は、そういうもんだから。
[男は目を細め、口元に笑みを浮かべた。]
[そのまま、男は待っていた。
海は今までの争いが嘘のように静かで。
既に何らかの答えを告げているようにも思えた。
それでも男は待つ事にした。
知らせてくれる声を、待つ事にした。
ナハティガルも何かを待つように、ゆったりとした鼓動のまま、海上にてゆらりと揺れている。*]
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