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間もなく灰と化す者に、名乗る要など感じない。
[臆することなく発するは、峻烈にして苛烈な応答、
瞬間、リエヴルが投じた剣>>41が城主へと]
[跳躍の途中に無理矢理捻りを加え、長大な剣を振りぬく円運動を捻り出す。
だが、首を刈り取ろうと打ち振るった銀光は、咄嗟に伸びてきた茨を切り裂くに留まった。
ちらりと城主の傍らに銀髪、砕けて散らばる氷の欠片を認めたが、]
チッ
[流し目をくれる余裕すらある、赤髪の吸血鬼の平静さに舌打ちし。
回転を殺しながら、バルコニーの床を滑り、片膝ついて着地した。
だが、城主の右手から出現して蠢く茨は、増殖し、執拗にこちらを追って這い進んでくる。
追撃して畳み掛ける手も封じられ、迫り来る蔓を打ち払いながら、茨の壁の先に見える赤い魔を睨んだ。**]
― バルコニー ―
[不意に目の前の蔓が退き、視界が広がる。
何ぞ仕掛けてくるのか、と身構えたが、吸血鬼城主から発せられたのは、貴族らしい堂々たる名乗り。>>88
切り結んでいる間に彼我の距離は充分に開けられてしまっていた。
油断なく見据え、腰を深く落として、構えを変える。
剣を大きく後ろに引くと、銀の切っ先が床を掠めた。]
[眼前の男は、優美にして精悍。
伝え聞くとおりの容姿、稚気たっぷりの大仰な名乗りから、これが標的の“野茨公”に間違いないだろう。
返礼の名乗りなどなど論外だった。
悪霊に進んで自分の名前を教えるなど、自殺行為に等しい。
名を媒介に心を侵犯する魔も存在する。
吸血鬼はこれと見定めた犠牲者の心に親密さを装って忍び寄り、自制の壁を突き崩して堕落させて虜とする。
修道会では、新任の修道士たちに厳重に戒めているが、それでも人間の姿に惑わされて情をかけた結果、つけ込まれて殺害されるケースが後を断たない。]
貴様が人であるならば、無礼を詫び、名乗りもしただろう。
[じり、と踏み切りの足に力を入れる。
さきほどの青年は城内に入ったようだが、代わりにもうひとり、城主の背後に立ったのが見える。]
だが!
貴様は魂なき動く死体に過ぎん!
そして、私は騎士である前に修道士。
神の下される降魔の力の一条、ひとふりの剣だ!
[他の吸血鬼を殲滅し、充分に数を減らすまで、首魁を引き付けておかねばならない。
体制の整わぬうちに、最も手ごわい敵を、神子聖女らのもとに行かせてはならない。
故に、それ以上の問答は無意味と、放たれた矢の如く、駆け出す。]
燼滅しろ!!
[懐に飛び込み、大剣を切り上げる――
と見せて、自身の背中とマントを遮蔽として、硝酸銀の詰まったダーツ数本を片手で放つ。]
[左手一本の振り抜きは、茨の剣で軽々と逸らされてしまう。
形状こそ茨だが、城主の血の魔力で練成された剣は鋼以上の硬度、寸時嫌な重さを手首に伝え。]
……ッ
[赤い色が散るも、髪の数本を切っ先で引っ掛けただけだった。]
[ダーツが敵の胸元に突き立つのを目にし、好機と強引に手首を返し、まだ慣性の残る剣の軌跡を強化された筋力で捻じ曲げた。
が。
追撃は、間髪入れず床から突き上げる茨の槍に阻まれた。
軸足をずらし、穂先に貫かれるを辛うじて避ける。
茨の棘が脹脛とマントの端を掠めて切り裂いた。]
[銀の軌跡が茨の槍を斜めに切り飛ばす。
しかし、それは狙ったものではない。
敵はダーツの刺さった箇所から白煙を上げてはいるものの、さしたるダメージを受けていないように見える。
シュッ、と鋭く息を吐き、踏み込んで再度の突撃。
抉り、貫き、刺し貫く、刺突の剣を驟雨の如く降らそうと]
[床石を砕けんばかりに踏み締めれば、脹脛の切創が開いて血がしぶく。
しかし、見る見るうちに肉芽が盛り上がり、傷口が閉じていく。]
[彼我の間に無数の銀線が交錯した。
火花と連続する金属音を撒き散らし、剣戟の雨が降る。
バルタザールは相手の技量に舌を巻かざるを得なかった。
強化を受けた修道騎士の身体能力は、吸血鬼に引けを取らない。
動体視力と膂力が如何に優れていようと、並みの吸血鬼ではこうはいかない。
攻めているのはこちらなのに、刹那も気が抜けない。
何しろ、一つ一つが必殺の刺突を、相手は正確に裁ききったその上で、まだこちらに攻撃に転じてこないのだ。]
[じりじりと敵が距離を詰めてくる。
分かっていて尚、牽制と防御の意味でも攻撃をし続けるしかない。
ク、と歯を食い縛る。
それは、心臓を狙った一撃を繰り出したとほぼ同時に来た。
躱せぬ筈の刃を、敵が掻い潜る。
深く身を屈めた敵の左肩から背にかけてを、大剣が裂いていく手応えが伝わり、瞠目する。
懐深く入り込まれた。
次の瞬間、避けようのない脇腹に勁烈の衝撃が炸裂した。]
ガ ハ ッ!!
[打撃吸収の下鎧すら突き抜け、内臓を揺さぶる激しい衝撃が、背中まで突き抜ける。
その場に踏み止まれず、足が横に滑った。
剣ではなく、拳。
眼の隅に捉えたそれで、茨の輪を巻いた拳の一撃なのだと理解した。]
[運良く蹴りは相手に当たった。
後ろに転がって距離を取る敵を睨んで、こちらもふらつく両足に力を込めて、体勢を立て直す。
前進して追い討ちをかけるほどの余裕はなかった。
呼吸を整え、三度構えを取る。
左足を引き、右半身に剣を立てて相対し、より一層冷たく硬く面を引き締める。
ダメージを窺わせるような乱れを毛ほども感じさせないように。
長期戦を覚悟していた。
ただ、時間が惜しい。]
[左半身を朱に染めて立つ吸血鬼の呼びかけは、相手も回復の時間を欲していると解釈した。]
神の御恵を知らぬものの戯言だ。
私が貴様邪属の妄言に揺り動かされると思うな。
[血子と思しい傍らの長髪の青年に語り掛けるを見れば、やはり予想は正しかった、と確信する。
再生される前に、相打ちを覚悟しても叩み掛けたが吉であろう。
だが、そうと分かっても打つ手がない。
吸血鬼である以上、この青年も等閑にできない。
余程相手が弱卒でない限り、相手をしながら城主を攻撃するなど至難の業だ。]
[交替に前に出てきた長髪の青年>>124を、忌々しく睨む。
構えを見れば、大体の技量が分かる。
勝てるとは思うが、倒すまでに城主に回復されてしまうだろう。
加えて、魔族特有の妖術を使う可能性がある。
全く厳しい相手だ。
そう考えると、睨み据える視線に苛烈さが増した。]
[距離を測る相手と同様、自身も構えたまま、じりと摺り足で前に出る。
見つめるうち、この顔をどこかで見たような気がする、と感じたが、戦場にあっては瑣事と頭の隅に押し込む。
どのみちこの青年も魔の眷属なのだから、いずれ倒してから考えれば良い事、と切り捨てる。
右半身を狙って打ち掛かってくる相手を、こちらも迎え撃つために、剣をあわせた。**]
― バルコニー ―
>>129
[金属を打ち合わせる軋んだ音が、夜空に高く響く。
打撃の衝撃、そして受け止めた腕にズシンと掛かる重圧。
重い。そして鋭い。
だが。]
[バルタザールの受けた改造は、身体能力、抗魔力の全体的な底上げと強力な再生能力のみである。
身体強化と再生能力の賦与は、先行する使徒候補者を使った実験で、ある程度の成果を見、ノウハウが完成しつつある。
バルタザールが受けたのは、その実用化に向けた臨床試験の第二段階。
集められた素人の実験体ではなく、実際に前線で戦ってきた戦闘員を被験者として、安全性と有効性を確かめるのが目的である。
長期運用を目的として作られた為に、厄介な副作用も可能な限り低減され、心身ともに強靭な修道騎士ならば無視できる範囲に収められている。
実験体に比べて尖った性能は無いが、欠点も少ない。
それ自体は、魔に対し直接的なダメージを与えるものではないので、修道騎士の戦闘能力と組み合わさって初めて効果を発する改造と言えた。]
[力こそ拮抗していても、相手は“
と、外側の手摺りの方からゆらりと茨の蔓が鎌首をもたげるのが目に入る。>>153
相手はとことん時間を稼ぎたいようだ、と喉奥で唸る。
やはり楽には勝たせてもらえないらしい。]
神子だと?
貴様は神子を知っているのか?
[此奴、関係ないことを喋って更に気を散ずるつもりか、と火を吹く眼差しを注ぐ。
忌々しい――と、体を捻る。
刃を斜めに逸らして、体重を掛けてくる相手の力を利用して、体勢を崩させようと仕掛ける。
僅かでも隙ができれば、下段の足蹴りを見舞わせるつもりだ。]
[体勢は崩したが、察知された。
あわよくば転ばせようとした蹴りは外れ、青年は反動で後ろへ下がろうとしている。]
シッ!
[鋭い吐気とともに、蹴りを転じて前に踏み進める足へと。
それを基点に、更に回転でフェイントを加えた回し蹴りで側面から襲い掛かる。]
[騎士のセオリーにない攻撃を選ぶのは、相手から気力と精神的な余裕を殺ぐためだが。]
貴様が神子の何を知っていようが知らん!
興味もない!
死者の穢れた口で神子の名を語るな!!
[薙ぎ払う剣先を、敢えて硬い板金部分で受け。
金属を叩き、弾き返す打音、切っ先が表面を引っ掻いていく叫声が連続して一音となる。
不安定な体勢からの一撃は、鎧を切り裂くには至らず、打撲を与えるのみ。
確かに耐え切れぬものではないが、それでもきつい振動は伝わる。]
[初撃はほぼ痛み分けに近い。
どちらもこの程度の打撲傷で動きに影響が出る身体はしていない筈だ。
寛ぐ城主が気になるが、この状態では如何ともしがたい。]
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