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―― 寂れた村 ――
[微かに砂を含んだ乾いた風が頬を打つ。
砂と岩ばかりが目立つこの地は、凡そ神の恵みからは程遠い。
それでも、村の中央に設えられた祭壇には>>18
色鮮やかな花が飾られ、砂と岩の色ばかりの景色に彩りを添えている。
決して豊かとは言えないこの村には
たとえ与えられずとも、逆に奪われずとも
人の信仰が、確かにこの村には深く息づいているのだ]
……。
[砂避けの外套のフードを深く被り直すと、呪を唱える。
砂と岩の色に溶け込むように存在していた“黒”──影が、ほんの僅か蠢く。
或いは、頭上を注意深く眺めていたなら気づいたかもしれない。
村の建物の上を飛び回る、数多の小さな黒い鳥の姿をした“何か”に]
……見つけた。
[村の上空を飛び回っていた“鳥”たちが
村の近くに降り立った“天使”の姿を知覚した。それはそのまま、鳥たちの主であるこちらへと伝わる。
天青色の翼は、間違えようのないあのこのもので]
……エレオノーレ。
[呟きと共に壁に凭れていた姿勢を正すと一歩を踏み出す。
──途端、するりと目の前の建物の影に溶けるようにしてその姿は黒に溶けて消えた]
久しぶり、エレオノーレ。
……あんたを迎えにきた。
オレと一緒に来てもらう。
[一方的な宣告。
エレオノーレはどのような反応を返したか。
それも意に返さず、右手を目の前の天使へとかざせば
それを合図に上空から、沢山の黒い小鳥たちが一斉に天使を捕らえようと襲いかかる。
オレの羽一枚一枚を元として作り出した使い魔たち。
かつて天使だったとはいえ、魔界由来の魔術によって生み出されたものだ。
もし羽に触れることがあったなら、その天使の身体に何かしらの変化が起こるかもしれないし、或いは、起こらないかもしれない。
なんにせよ、この場から逃がすつもりなどない。
あのこを、エレオノーレを捕らえるのは他の誰でもない、このオレなのだから]**
[小刀を握りしめ、姿勢を低くして振り回す>>99
素人目にも明らかに戦い慣れていない様子は、昔と変わらなかった。
そんな彼の人の姿を見ながらつくづく思う。
──神はなぜ、このように無防備で自分の身一つ守れないものを護衛もつけずに己の使者として人の世界へ赴かせるのかと。]
(まぁ、都合がいいのは確かだが……ッ)
[目の前で真っ二つに切り裂かれた黒い羽>>100
その刹那、左手に走る痛みと、つぅ、と手の甲を流れる一筋の血。
知覚を共有できるのは便利だが、こうして痛覚まで共有してしまうのはいただけない。
だが、繋がりが深い分、それに触れた天使に与える効果も大きかったようだ>>100
……目の前の天使の、その姿が少しずつ変わりはじめている。
記憶の中のそれより小さく、華奢になりつつある姿]
……エレ。
[目の前の天使は、女性へと変化しつつある]
[カラン、と武器が地面に落ちる音にも
目の前の天使、否、彼女が当惑した視線を此方に向けるのにも構わず、その身体を抱き寄せた。
腕の中で少しずつ彼女の身体が変わってゆくのを感じながら]
…なんで、だって?
[彼女の頬から顎へ、
つぅと指先を滑らせながら
先程問われた言葉を反芻する]
……わからないか?
敬虔な神であるアンタには。
オレの気持ちも、救われることのなかったあのひとのことも。
[自虐めいた言葉を吐きながら
握りしめた手中に具現化するのは、掌にすっぽり収まるほどの大きさの小瓶。
その中身を一口含むと、こつん、と軽く互いの額を触れ合わせた]
──……アンタを、愛してるからだよ。
[相手の身体に触れて、直接その魂に言の葉を伝える。
偽りなき、心からの言葉を]
[顎に触れていた指先を持ち上げて、その唇に自身のそれを重ねる。
抵抗をほぼ許さない、さながら貪るような口づけ。
同時に先程口に含んだ酒を彼女の口にも含ませる。
魔族にとってはただの強い酒にすぎないが、天使が口にすればたとえそれが微量であってもたちまち強い酩酊状態になるという魔酒。
このまま、彼女がおとなしくなりさえすれば
枷をつけて拘束することなく天獄の泉へ連れて行くことにしよう]**
……………あい…して?
[ 届けられた言葉に、喉笛が小さく音を立てる
それとほぼ同時、唇が重なり]
[抱きとめた身体は、此方が驚くほど華奢で、同時に柔らかなもの。
はなして>>207と、そう口にする彼女の言葉を聞き入れるつもりなどさらさらなく]
……そんなに嫌なら、
自分で振りほどいてみろよ。
それができないならば、
アンタが心から敬愛する神に
助けを求めてみたらどうだ?
アンタほど忠実な使徒ならば、
もしかしたら神も救ってくださるかもなぁ?
[此方の言葉に耳を傾けまいとするのを見て取れば、浅く呼吸を繰り返す、その耳許にじっとりと嬲るように囁く。
同時に、顎に添えた指先で仔猫にするようにして喉元を擽り刺激を与える。
今、自分がどのような状況にあるか、あらためて思い知らせるために]
[──…神は、救いなど与えない。
如何なる理由があろうとも
一度穢れされてしまった天使は皆平等に楽園を追われる。
それを、彼女だって見てきただろうに]
…あぁ、そうだとも。
[愛している。だから]
オレは何があっても、
アンタを見捨てたりなんかしない。
約束する。
[意識の定まっていないであろう彼女に
さながら刷り込みのように愛情と独占欲の染み込んだ言の葉を紡ぐ。
その魂を、搦め捕ろうとするかのごとくに]
―――約束、なんて
[ 繰り返された言葉は甘く苦い。
存在ごと搦めとるようなその言葉に
あやふやとなった心は縋りそうになるけれど]
……だって 貴方、は
私をうらむはず でしょう……?
[ 確かめた記憶はない。
けれど少なくとも
個として想われることはないだろう
そう思っていた。と]
―回想・天の光の中で―
[あれは、まだ自分がほんの幼い頃。
天の結界の中だけが、オレの知る世界の全てだった頃。
――あっちに、とても綺麗な天使がいたよ。
そう言って、此方の手を引いていくのは
まだ魔に堕ちる前のあのひと。
日に透ける金の髪、夜明けの空を思わせる色の瞳、
自分のそれとは正反対の純白の翼。
人が天使を思い浮かべるとき、真っ先に脳裏に浮かぶものを
そのまま具現化したような、そんな姿]
[あのひとに手を引かれながら、ちら、と後ろを振り返る。
自分の背にある翼は、あのひとや他の天使のように
光り輝くことはない。
結界の中に神の栄光とともに満ちる輝きを、
全て吸い込むかのような真黒の色をしている。
そ、と羽を一枚摘んでよくよく眺めてみれば、
羽先の部分がほんの少し、まるで硝子のように
あたりの景色を透かしてみえるのがわかるだろう。
まるで黒水晶のようだ、と
初めて出逢ったとき、あのひとはそう口にして微笑んだ。
それがどんなものなのか、幼かった自分にはわからなかったけど。
遠巻きに自分の翼を見てくるもの、
時折後ろから指差してまるで悪魔のようだと囁くもの、
光の中で生を受けてからずっと、
自分の周りにはそんな声や視線が絶えず纏わりついていて
そういったものを全部断ち切って、綺麗だよと
そう声をかけてくれたあのひとは、
幼かったオレにとって、かけがえのない存在だった]
[――ほら、あそこにいる。
そういってあのひとが指差したのは、
少し離れた位置にある祭壇に膝をついて祈りを捧げる
小さな、青い天使だった。
春の空のような色の翼、
星浮かぶ夜を思わせる深い青の髪。
そんな天使が祈りを捧げる姿はまるで一体の精巧な彫刻のよう]
[――セレスタイトだよ。
…?
言葉の意味がわからなくて首を傾げれば。
――天青石っていう、天使の石があるんだ。
あの子の翼に似た、すごく綺麗な石なんだよ。
そう、自分より少し年上のその天使は
はにかむような笑みとともにそう教えてくれた。
その青い天使が『エレオノーレ』という名前であること。
あのひとと共にエレオノーレと行動を共にすることになるのは
それから少し先の話]*
…どうして、だろうな。
[彼女の姿は、天使の在るべき姿として
正しく理想そのものであるように思う。
堕ちる前のオレたちにとっても、
それは同じであったはずなのに]
―――……。
[どうして、今、こんなにも胸が苦しいのか。
自分でも、よく、わからない。
わかるのはただ、この彼女を
他の誰にも渡したくないということだけ]
[堕ちる前の自分は、長じて尚
『人の子の少年のようだ』と揶揄されることが多かった。
あの頃の自分と比べれば伸びた背丈と
手足についたしなやかな筋肉は
自分とは反対にすっかり華奢になった彼女を抱えるのに
一役買っている。
少年から青年の姿へと変わった自分は、
だけど外見以上にその内面のほうがより深く
変質を遂げたのかもしれない。
自分でも、理解できない感情があまりにも多くて
時折、自分自身の気持ちに流されそうになる]
『私を恨むはずでしょう?』
[彼女が意識を手放す間際に発した言葉]
……。
[それに応えることはなかったけれど]
……それが、あのひとの望みでもあるんだ。
[彼女を守ってほしい。
たとえどれほど状況が変わったとしても、
その約束を守ることだけは、手放せない]
―― 天獄の泉 ――
[自分たちに割り当てられた部屋へ彼女を運び入れる。
あとで此処の主にきちんと挨拶に向かわなければいけない。
名義上の自分の『養父』は、金で爵位を買ったとはいえ
れっきとした魔界の『お貴族様』とやらなのだ。
面倒なことだと思いながら、天蓋に覆われたベッドで
寝息を立てる彼女の姿の傍らに寄り添うようにして
ベッドの端に腰を下ろす。
柔らかな膨らみをたたえた胸元が
緩やかに上下するのを見ればほっと小さく息を吐く。
その夢見が決して善いものでないことは想像に難くないが
今はただ、その呼吸が穏やかなものであることに安堵していた]
……気がついたか?
[やがて、彼女がその目を開けば
そう声をかけて彼女の顔を覗き込む。
ここがどこかと尋ねられたなら]
ここは『天獄の泉』。
オレも親父殿から聞いただけだから
詳しいことはわからんのだがな、
なんでも、捕らえた天使を飼い馴らすための
調教施設、なんだそうだ。
[そこまで口にしてふぅ、と小さくため息ひとつ。
既に堕ちたとはいえ、自分もかつては天使であった身の上だ。
これから先何をするか、それをかつての仲間に告げるのは
やめるつもりはないとはいえ、些か居心地の悪い想いがする]
どのみち、受肉したあんたに天界に帰る術はもうない。
……この世界で生きていくためにどうすればいいか、
これからじっくり、よく考えるといいさ。
[言いながら、ゆるりベッドの端から彼女の近くに身体を移動させる。
そっとその手を彼女のほうへと伸ばせば、その身体を抱き寄せて、
さながら魂を絡めとろうとするように唇を重ねようとするだろう。]*
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