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―戦場西方―
[“鉄門”前の水雷艇のひとつが、ようやく損害が大きい方の敵巡洋艦の側面に水雷を叩き付けた。爆音。振動で波が大きくうねる。
直後、“鉄門”のもう片方からの副砲を浴びた。甲板から火が上がる。
残るは1隻となった味方巡洋艦も、満身創痍ながら尚も水雷艇を支援すべく、主砲副砲の応酬を重ねる。]
[アストラに向かってくるナハティガルは、記憶にある動きよりも鈍い>>144。
砲撃のいくつかは当たった。けれど足を止めるには足りない。
あくまでベースは母艦なので、主砲は1、副砲は4と数が少ないのだ。ゆえに砲撃の量も限られており、結果、船尾に回りこむ相手の動きを許した。]
――――っ …く、
[敵巡洋艦からの一斉砲撃。艦全体が衝撃に揺れる感覚。
ロー・シェンは艦橋の手摺を咄嗟に掴んだ。
船尾の装甲が弾け飛び、あちこちが不恰好に凹凸を作った。
船腹から甲板までを貫いた敵主砲は、爆発を伴い黒煙が昇る。]
…なに、 まだ脚は動くぞ。
[だが水雷母艦の足は遅い。回避行動には不向きだ。
ならばやれることは、と。
船首を返したナハティガルに向かって進み、再度砲撃を浴びせかける。
お互い、自らを削りながらの消耗戦。
それでもまだ、砲撃は止まない*]
/*
>>173
タクマがちょいちょい不羈を拾ってくれて
こっちに視線くれるの、とても有難いな。たいへん嬉しい。
―戦場西方―
[譲れぬものは、果たして何か――…
大砲の轟音が途切れぬ中、
硝煙の匂いが海風と混ざり合う中、
それを、ロー・シェンは考える。]
[カルボナード到達が勝利条件、と皇帝は言った>>5:210。
心を明け渡した時点で決着はつく、とも。
消耗戦をする気は…、帝国、ウルケル、双方に無い。
人命の重要さはわかっている。
最小の被害で、最大の目的が達せられれば良いと――狙ったがゆえの、今回の皇帝陛下の作戦だ。
今、此処での戦いは、では消耗戦だろうか?
その答えは…
ある意味では是であり、ある意味では否である。]
[旗艦シュヴァルツアインは、既に水路に入っている。
その半ばで、敵旗艦からの衝突を受けたことまでは、まだロー・シェンの元に届いていないが……それでも僚艦いずれかのカルボナード到達だけを考えるならば、第三艦隊が、今此処で、無理を重ねて“鉄門”を通り抜けようとする必要はない。
いっそ迂回したって良いのだ。“鉄門”を成す巡洋艦には動く意志がないのだから。
けれどそれでも、此処にこだわるのは何故か。]
[…それは、この場所がひとつの
止める、という覚悟。
通る、という意志。
グロル海峡を巡っての、帝国とウルケルの縮図そのものだ。]
[…未だ、どちらの英雄も、相手に心を明け渡してはおらぬ。
ゆえに、この
そう、ロー・シェンは考えるし、
――…おそらくシロウも同様だろう、と思う。
切なくなるほど空気は澄んでいた。
澄んでいるのに、砲撃の熱気で炙られて、時折酷く熱い。]
[視線を、つ…と東へずらす。
燈黄色が海を映す。
“鉄門”では未だ激戦が行われている。
水雷で1隻、沈めた。
けれど次の守りの意志>>184が、孔を埋める。
互いに消耗し、応戦し、決定打は未だ訪れない。
更にその向こうでは――…
皇帝が、扶翼官が、
そして、ゲオルグに、タクマが、
自らの心を、相手に示しているのだろう…と。]
[敵戦艦シュヴァルベが、
この戦闘海域の中間地点を目指している>>180ことを……
ロー・シェンは、未だ知らない*]
―戦場西方―
[オルゴールの音が徐々に間延びし、やがて止まりゆくように。
華麗に動いていたナハティガルが少しずつ速度を下げてゆく。]
砲手。
これなら小さな的でもいけるな?
目標、敵艦主砲。
[狙いは意図せず同じもの>>185。]
撃て。
[再びの応酬。
敵の主砲は銃座に当たり、船の脚の前にまず、砲台の回転が止められてしまう。
だが、目の前であれば撃てない訳ではない。まだ使える。…まだ、]
[――やがて]
『敵巡洋艦、回避行動…なし! 停止しました!』
[脚を止めた様子>>191に艦橋が湧いた――のを、ロー・シェンは抑えた。]
警戒を怠るな。
まだ、やつの牙は折れていない。
[止まったが、それが擬態かは解らないしそれに。
…止まらない砲撃。
尚も攻撃を続ける意志が其処にある。]
[一方のアストラも、なかなか酷い有様だった。
一番痛いのが、先程食らった腹抉る一撃である。
消火活動や避難の呼びかけで、艦内は慌しく人が駆け回っている。
この艦は母艦だ。
――戦闘員も、非戦闘員も、多くの乗員が居る。
落とさせる訳にはゆかない。
それでも、逃げるを由とせず。
決着をつけぬも由とせず。
浮き砲台となったナハティガルを沈黙せしめんと、砲門が吼えた――]
[…――――その、先に。
割り込むひとつの、敵影>>193があった。
機敏に動くその戦艦は、砲撃を器用に避けて。
こちらの攻撃は周囲に水柱を作るに留まる。]
『敵戦艦より、信号!』
[通信手が叫ぶ。伝える。
待機を、――――と、請う声>>203を。
相手が撃ってくる様子は無く。
…ただ、二艦の中央に陣取り、
戦の停止を成さんとする意志のみを示している。]
[先の会戦で起きた、両旗艦の直接会談が脳裏を過ぎる。
見えない筈なのに。
…今まさに、皇帝と提督が相対して、
――――…、
…。待機に応ずる、と返事を。
[ロー・シェンは、深く長い息を吐いた。
そうして。
水雷母艦アストラも砲門を閉ざし、其の場に脚を止めた。*]
―水雷母艦アストラ―
[敵戦艦の向こう側…ナハティガルを、艦橋から見下ろす。
あちらは既に動きを止めていた。
――戦場にて、会えますように。
と、祈った彼の顔>>5:197が、ふっと記憶の淵を掠めてゆく。]
『敵戦艦の甲板で動きあり。誰か――出てきます!』
[部下の声を受けて、ロー・シェンは視線を手前に引いた。
この距離では甲板の人影>>220は小さく顔はわかりづらい――が。
ただ、ひとり。
表に出て、こちらに身を晒す様は、
竹を割った潔さのようなものを感じさせた。]
……。各員、戦闘態勢を維持しつつ待機。
巡洋艦と水雷艇には停戦信号を。
[命令を下し、艦橋を降りる階段に足を掛ける。]
『代将はどちらへ?』
[そう問う声に、ロー・シェンは薄っすらと口の端を上げる。]
甲板。
―水雷母艦アストラ甲板―
[風が、不思議と凪いでいた。
急に穏やかないろに変わった海の向こう、
敵戦艦の甲板に立つ、ウルケルの軍服姿がひとつある。
声を届かせるには遠い距離。
顔を判別するにも遠い距離。
けれど。]
敵味方の砲撃の中に飛び込むなんて
馬鹿な真似をするのは――…
[浮かぶ顔が、ひとつ。]
おまえくらいじゃあ、ないのか?
[鼻っ柱が強くて、やると決めたら曲がらない男。
自分によく似た性格の彼ならば、
必要と定めたものは何でもする筈だ。]
なあ、 …タクマ。
[懐かしい名は、波の音に混ざって優しく響き。
空と海の青に、――――溶けて*ゆく*]
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腹心の二人も最後まで見守っていたのかな
そちらさまもお疲れさまだ…
どちらの忠義っぷりも素晴らしかったなあ
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