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[婚姻の儀から二週間ほど経過した。
ウェルシュさまと父はこれからの方針だとかお話しているようだけれど、
生憎その場に娘は呼ばれず、相変わらず別居生活が続いていた。
街へ下れば、民衆は口々に祝言をくれるけれど、
ふたり暮らす新婚生活はまだまだ先のよう。
ギィさまとアプサラスさまが正式に成婚となったと聞き、
次の慶事の通達も父伝いに聞いた。
お二人にお手紙を送らなくっちゃ。
ああ、お祝いの品、何にしようかしら。
…なんて考えていた娘の思考を裂いたのは、文を届けるの馬車の音。
待ちわびた、今は夫となったウェルシュさまからの手紙。
胸の上で合わせた手の中に大事に仕舞い込んで、自室へと駆け戻る。
自分だけの部屋で、誰もいないというのに周りを見渡してから、
丁寧に、その封を切った]
[すう、と息を吸って、便箋を開く。
紙面をなぞる視線は、何時になく真剣なものだっただろう。
愛と恋の話だなんて、難しい話は出来ないけれど、
その内容は、今に流されてばかりの女にとってショッキングなもの。
けれど、私の心はそれをちゃぷんと沈めて、
気付けば、静かに、柔らかく凪いでいた。
―― 暫くして、また、ペンを取った。
うまく言葉に出来るか分からないけれど、
思ったことを素直に、伝えられるように。
撫子柄の便箋に、静かにインクを垂らした]
ウェルシュさま
お手紙、お待ちしておりましたわ。
つい、宛名をフルネームを書こうとしてしまって、
今はおなじ姓なのだわ、とうっかりしてしまいましたの。
私は、憧れだった彼の人のご成婚を知りました。
けれど、憧れは憧れで、今もまだ憧れであり続けているのですけれど、
きっと、また、違う感情だったのですわ。
情緒の落ち着かない困った女と思われるかしら?
けれど、女ってそういうものなのだと、諦めてくださるかしら。
…なんて、私も、調子に乗っているみたいですわ。
貴方の、いのちのお話。
お話ししてくださって、ありがとうございます。
事情を知らず、軽率に尋ねてしまったこと、どうかお許し下さい。
貴方も、短い命だとは限らないのですわ。
運命なんて、分からないですもの。けれど、
もし、"そのように"なってしまわれても――
どうか、私を不幸だなどと思わないで。
私は、貴方と、結ばれたこと、無駄だとは思いません。
貴方と私の幸せを、これから作っていきたいと思っていますのよ。
共に暮らせる日が早く訪れることを、首を長くして待っていますわ。
貴方の妻、オクタヴィア
追伸.
アデルさまに、お星さまの貝殻をふたつ、頂きましたの。
どうも、ウェルシュさま宛だったみたいなのですけれど、
心当たりは御座いますか?
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