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無謀に命を粗末にするな。
水雷艇は特攻艇では無い。
確かな一撃を、敵に与え。
自らが帰還し、次に繋ぐ。
怖いのならば、それは――狙うべき時ではないのだ。
味方を信じ、己を信じろ。
艦を信じ、生還を信じろ。
[力強さを孕んだ言葉が、一人ひとりの鼓舞するように謳う。]
おまえたちなら、 …―――― 出来る。
[彼らを信じて、ロー・シェンは言う。
青年兵たちは何か大事なものを受け取った…きらきらした眼差しで、上官を見上げていた**]
―“前庭”海域―
…。そうか。
今は知る者も少なくなった
―――… … おれの祖国の歌だ。
[それきり口を噤む。
相手>>295も何も言わない。
しばらくは波の音だけが、沈黙を伴奏するように揺らいでいた。]
[いつも通りの口調>>296が顔を覗かせれば。
お互いの間に、いつも通りの風が吹く。]
…、そうだな。
大事な会戦前に、怪我をしては一大事だ。
第三艦隊を率いる者が
二度に渡って滑って腰を痛めたとなっては、
いい笑いものになってしまう。
[おとなしく忠告を受け止めることにして帆柱を降りた。
甲板では先程心配していた部下が、ほっと安堵の表情を浮かべている。すまんな、と小さく謝罪を投げておいた。]
[そしてミリアム少尉へと視線を移せば。
彼女はいつものように――――…
笑っていた。
その笑顔の沈黙が、不意に途切れて]
…… 希望?
[おまえにしては珍しい――と続けようとしたところで、
被さるように希望の蓋開けた中身>>302が降ってきた。]
[彼女は……痛いのは嫌だと、
水雷艇に乗るのを避けていた>>1:336とロー・シェンは記憶している。
だが今日は、自ら其れを望むという。]
…。やっぱり悪いものでも食ったな。
それとも、――――進む理由を見つけたか。
[何が、彼女の心を変えたのかは知らない。
ミリアム少尉は、うっかり被弾ミスが多いため水雷艇乗りに向いてないと判断されていたが、その実、練習における水雷的中率は高かった。
射撃の“眼”が、水雷の一撃を叩き込む最善の時を見極める際に、生きるのだろう。]
[だから、]
ミリアム少尉。
本日より、貴官を水雷艇の艦長に命ずる。
先に言っておく。
今度こそうっかりは許されんぞ。
…、おまえの爪痕を 此の海の上に残してこい。
[生還しろ――と言葉にするのは簡単だが。
現実的に難しい場合があるのもよく知っている。
だからロー・シェンは、代わりに四句の「信じろ」>>294を告げる。
そして覚悟を持って挑む…彼女ら彼らを信じるのだ*]
―“前庭”海域/出陣の時―
[直立不動の敬礼の向こうに、今、
旗艦シュヴァルツアイン>>186の黒鋼が在る。
其処に現れしは当代皇帝。
帝国の沈まぬ太陽。
時代をつくる、強き意志だ。
拝聴した皇帝の玉声を、将兵らは胸の裡の熱と為す。]
皇帝陛下に勝利を!
第三艦隊、全艦抜錨――― いくぞ!
[号令一下、闘志という熱を蒸気の熱に溶け合わせ、艦隊は雄々しく進軍を開始した*]
―“前庭”海域北方―
[第三艦隊は第一艦隊の左方>>6、すなわち海図で言うと北寄りの海域に陣取っている。
前方に広がるは、ウルケルが誇る艦隊の群れ。
帝国と異なり巡洋艦を前に配置したその陣形は、相手の懐事情もあるのかもしれないが――それ以上に、彼らの巡洋艦の錬度の高さを誇示するものでもあろう。
戦艦相手に戦えると、彼らは…そう、思っている。
そして。
実際に敵巡洋艦ナハティガルらと交戦した第三艦隊は、その自信が単なる虚栄でないことを、よく、知っている。]
[中央。第一艦隊の位置から、水面を揺るがすような砲撃の音>>413が木霊した。]
さあ、始まりだ。
気を引き締めていけよ。
[まずは10隻の水雷艇へ発進の指示を出す。
その中には、ミリアムが艦長を務める水雷艇の名も含まれていた*]
―“前庭”海域北方/第三艦隊―
…、またあいつか。
派手な動きをしてくれる。
[皇帝率いる戦艦の対面、場をかき回すかのように一際激しく動きまわる巡洋艦>>470を見れば、舌打ちとは真逆の感情が沸き起こった。
敵巡洋艦に向かっていた水雷艇は、だが先日のようには突出しない。副砲による発砲>>466を確認すると、距離を取って射程から逃れる。
発砲が止まれば、また不規則に旋回しつつ前へ。
ともすれば邪魔な虫のように――ちらちらと相手の意識の上に、水雷艇の存在を載せる。]
―回想:会戦前/“前庭”海域にて―
[酷く改まった態度の少尉>>439は、
笑顔とは違う衣を一枚羽織るにも似て。]
…―― なんだ。
[もうひとつ。とねだられた希望の中身に…
眦を細くした。]
[もしも ――――と、彼女は言う。
軍人ならば、おそらく、
殆どの者が頭に浮かべたことのある言葉。
出陣前に遺書をしたためる兵も多いし、
それを預かることも…しばしばある。
ルート ――――と、彼女は言った。
いつも姓と階級でしか人の名を呼ばない少尉が、
口にした其の名前の欠片。
扶翼官殿…続いて口にした音は、
当代唯一人を指す――固有の呼称。
ドッグタグを託したい相手。
…そうか。とロー・シェンは低い声で静かに応じ、
受け取るために手を伸ばした。]
[掌に乗る、金属の軽い感触。
彼女が身に着けていた其れは、まだぬくもりの名残が抜けていない。]
承ろう。
ミリアム少尉、
…いや
[ちらり。視界の中で違和のあったドッグタグに視線を落としたロー・シェンは、何かを確認すると再び顔を上げた。]
ミリエル・クラリス=エマニエル
おまえの
このロー・シェン・リーミンが届けると約す。
[燈黄色の瞳に揺らがぬ確かさを点して。
彼女から預かった金属板を、静かにそっと握り締めた*]
/*
>>494
ファミルはアーレント方面へ舵を か。
場合によっては最期を目撃出来んものかと思ったが
これは厳しそうだな…。
/*
梯形陣をぐぐってみたら
効果がよく分からない謎の陣形(by艦これ)と出たんだがこれは。
…っと。
「単縦陣にて戦闘中一斉回頭をすると梯陣になり、一定目標に対し距離を伸縮するに便利である」
なるほど。敵に近づくために、か。
―“前庭”海域北方/第三艦隊 水雷母艦アストラ―
[ミリアム少尉が乗艦している水雷艇らの奮戦>>487は、雷母からもよく見えた。
巡洋艦も水雷艇をサポートするように動いている。]
アストラ、二戦速前進。
水雷艇を援護する。
[残る水雷艇を擁する水雷母艦ダヌラはその場に待機させて。
ハンガーを空にしたアストラを、巡洋艦の後ろを陣取りながら前進させる。]
味方艦が線上にいなければ
多少狙いが甘くてもいい。
主砲撃て!
[艦の大きさに比べればささやかな主砲は、
しかし巡洋艦並の顔つきで、敵巡洋艦を威嚇せんと吼える。
水面を叩くような着弾は波を揺らし、派手なしぶきが上がった。]
[そうして幾度か援護を繰り返した頃。]
『―――代将! 水雷艇が…』
[緊張を孕んだ声に。
はっ と視線を、部下が指差す方角に向ける。
…敵船と正面接触した1隻>>500が、其処にあった。]
――… っ、
[あれは、…間に合わない。
助けたくとも、届かない。
瞬時に其れが分かってしまったから、
せめて最期を見届けようと。
ロー・シェンは双眸をひた。と、手負いの水雷艇に据える。]
[甲板に、……ちいさな翠色>>505が動いているのが
見えたような気が、した。
気のせいかもしれない。
そうして、 ……もうひとつ。
とてもとても懐かしい旋律>>506が
心の奥を擽るように優しく柔らかく響いているのが
聴こえたような気が、した。
…。気のせいかもしれない。]
[最期まで死力尽くして戦った仲間への餞に、
ロー・シェンの右手が黙って敬礼の形を取る。
空は、青く。
雲は、白く。
南東から吹く風が緩やかに、
“水雷艇だったもの”から立ち昇る黒い煙を散らして*いった*]
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