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ー悪徳の館ー
[ 扉を閉じれば薄暗かった。
暗がりの中で、ただ満月のような瞳孔だけが二つ浮いている。
まるで猫になったような心持ち。
何にも邪魔されない衝動のままに階段を駆け上がる。
それでも、足元に広がる極彩色の陰影に顔を上げてしまった。]
……あなたの為、あなたの為でしかないの。
手に余る拒絶も、戸惑うほどの服従もすべて。
[ 神妙な顔付きはすぐに消える。
悪戯な態度で階段を跳ねれば、大きな扉が目の前に現れた。
もう少しだけ歩を進めれば、先とは違う扉。
隠れん坊の気分で踏み込んだ扉の奥は閑散としたダンスホールであった。]*
ー三階/ダンスホールー
[ どのくらいの時間が経っただろう。
ダンスホールの端の奥にあったオーケストラが詰め込まれる一角に身を潜めていた。
嫌な気配を感じる割りには、このホール自体に魔物の気配が薄い。
何体かのゴーストがホールの天窓を行き来するのを見つけたが、此方に気を向ける素振りもなく。
彼らにとって…は仲間、なのかもしれないけれど。
金色の眼が瞼に覆われる。
眉間に皺が寄った。]
(あ、きた。)
[移り気に笑みが浮かぶのは、リヒャルト>>39>>40がホールの扉を開けたから。
キョロキョロと周囲を見渡す相手が面白い。…を探しているのだ。
嬉しい。面白い。
鮮血の匂いが立ち込めるまでは。]
[ 月に照らされたホールの中で、飛び散った赤だけが鮮烈に眼球の裏を灼く。
さざめく部屋の中、呼応するように瞳孔が狭まった。
敷居から飛び出す。
鍵状に突き出した手で吸血鬼の頭を横から掴む。
恨みの篭った眼が此方に向けば、怯えた表情で受け止める。
視界の端に見えたリヒャルトに、視線を向けた。]
……––––––––
[はくり、口を動かして。
目元を緩めて、包み込むように笑った。]
[此方に向いた矛先。鋭い歯牙が…の首筋に噛み付いた。]
………"私"は、これだから…
[痛い。
痛い。 痛い。
溢れる血が肩から、腕に。]
痛くないよ、コンスタンツェは、痛くない。
[そう言って撫でるのは、魔物の背中。
魔物の手で、汚い血のついた手が背中を撫でる。]
ねぇ、リヒャルト。これでいい?
コンスタンツェは……あなたのものになれてる?
[先と同じ子どもの顔で、相手に笑いかける。
どこか、怯えを含んだこどもの声音で。]
ー回想ー
[ ガラガラと壊れる殻の音が聞こえる。
ようやく態度の意味を理解した。
昨晩のお母様とのやり取りが目に浮かんだ。
私が壊した。最後の一枚を。
「ルカの大切でありたい」と願うだけの、浅慮な言葉で。]
違う…ごめんなさい、ルカ…
[ ルカ、ごめんなさい。
鼻の奥が熱い。手は異様に冷たかった。
聞き覚えのない名前が脳裏に焼き付く。
その無機質な声が、記憶にこびりついて離れない。]
……リヒャルト…あなたがそう望むなら。
『コンスタンツェ』は、あなたの使い魔。
/*もしかしてレーティング引っかからなくても流血沙汰は秘話ですか、って今考えついて
もしそうだとしたらごめんなさいいいエピで謝ります…
一番心配なのは下克上#とは状態になってることでして何より当人が\(^o^)/
………私の、せい?
[宿屋にて触れられた、人形のように冷たく思えてしまった体温も。
いつか指を絡めてしまったことを忘れてしまうような、錯覚に陥るから。]
………それなら、もう。
[ リヒャルトの剣先が魔物の喉を突き刺す。
砂塵となって消えてゆく、腕の中の身体。
同じ魔物の身体がリヒャルトの手で一介の芥になる。
それが消える刹那、頭に響く何かの声。]
[頭に響く声に、同じく頭の中の言葉は通じるだろうか。]
この人を連れていかないでよ。
少しでも一緒にいたいのに。
[恨めしそうな、泣きそうな声で【肯定】の返事をかえす。]*
[だんだんと距離が縮まる整った顔立ちを、ただ眺めていた。
剣を振るい、…に触れる手は夢物語の王子のようだなどと。
肩口の傷が熱を孕む。
唇が触れているのだと分かった。
次いで口をついた「さよなら」とあう言葉に]
…なんで、そんな事言うの。
[ なのに、なんでそんなことするの。
滑らせた手は相手の両手に触れることが叶うだろうか。
悲痛とも無表情ともつかない顔で、抱き締めることなく血の通った手のひらを探した。
汚い血がリヒャルトを汚す。]
リヒャルトが望んだ形でしょ。私に使い魔であれ、魔物であれと願ったのはあなただよ。
[抱き締められないまま、血濡れの手は相手の傷口に触れたいと動いた。]
リヒャルト……何が欲しいの。
コンスタンツェはあなたが望めば何にでもなるよ。
使い魔になれというのなら、そうなるし。
嫌いになれというのなら、頑張るよ。死ぬのだって怖くない。
でも、リヒャルト……ルカ…
[喉の奥が締まる。
情けないほどの掠れた声。]
さよならは、やだ……
ー回想ー
『ある寒い日、いまにもしんでしまいそうな黒猫がいました。』
[幼い頃、大好きなひとの、決別をしたルカの部屋のドアに挟んだ本は、そんな冒頭で始まっていた。]
『よごれた身体を横たえたその時、目の前に天使さまが現れて黒猫の眼を閉じたのです。』
『黒猫がうっすら目を開けると、なんだかとてもあたたかい。
ふと下を見ると、自分の前脚だと思っていたものは細長い、ふしぎな形になっていました。』
『黒猫の隣には小さなニンゲンのような、これもまたふしぎな丸いものがあります。
天使さまは言いました。
「あなたはこの子の友だちよ」』
『黒猫は小さなニンゲンからたくさんのものをもらいました。
笑った時の"楽しい"という言葉です。
笑ってくれた時の"嬉しい"という言葉です。
手を繋いだ時の"愛おしい"という言葉です。
黒猫は小さなその人に、いつか自分も人間になっていろいろなものを返したいと思いました。』
『 自分は猫で、その人は人間。
その人が望む人も、恋する人も、その人と同じ人間なのでしょう。
そして自分は、その人の何物にもなれない事を知りながら。』
「 殊勝である。
では、贄を検分するといたそう。 」
[魔王の声がニヤリと笑い、遠ざかる。
今のところ、これ以上、会話を続けるつもりはないようだ。]
[ 憤る姿を、投げつけられる疑問を聴く。
答えることはない。
その前に、息が詰まったような声が聞こえたから。]
…………リヒャルト?
[心配ともつかない、何が起こっているか理解していない眼は相手と同じ手の甲を見る。
禍々しい逆十字の紋。
虚空へと口を開く相手を見て、…ではない他の誰かの存在がリヒャルトに語りかけていることを理解した。
そして、その者が何を告げたのかも。
目を細める。
魂の半分を捧げると答えた事に後悔は無かった。
リヒャルトだけの残り時間は、あと数日にも満たないのだから。
それならば、]
…………そう、全部それのため。
此処まで来たのも、あなたの使い魔になっていたのも、全部ぜんぶ。
[ 距離を取った相手に一歩踏み込む。
ゆっくりと。]
「私は何もしていない」?
ううん、色々な事を教えてくれた。生まれたばかりの私には、あなたのくれたものが全てだったよ。
可哀想だね、こんな嘘つきの私に……
[ 口元を抑える。
言葉が出そうになるのを、耐えた。]
殺す気はない。その命は私がもらうもの。
でもあなたに、もう一秒でも付いて行くつもりはないよ。
[瞳孔が開く。
あとは、身体が赴くままに。]
死なないでね、か弱いリヒャルト。
[ 切っ先に向かって飛び込む。
肩にそれが刺さろうとも構わない。
どうせ、すぐに"終わらせる"。
相手の肩に向かって握った拳を突き出した。
何の遠慮もない、全力の力で。]
逃げてもいいんだよ、あなたは女の子なんだから。
[そう囁いた声が震えていることにだけは、気がつかないで欲しい。]
[ 結った髪の先端を掠めた切っ先に片方の髪が疎らに散る。
何の表情も讃えないまま拳を振った、一辺倒の唇に歯を立てる。
囁かれた言葉にプツリと赤い血が流れた。
指に確かな手応えを感じる。
嫌な感触。同時に、眼前に眩いばかりの光が差した。
思わず、埋め込んでいた手で相手の服の裾を掴む。]
[ チカチカとする視界に眉を顰めて、唐突に引きずられる感覚に目を見開いた。
倒れこむ肢体につられて片膝をつく。
再び目くらましとは異なる輝きを見る。
その行く先に、顔を上げた。
鮮明になった視界には、此方へと羽を広げるシャンデリアが。]
ー回想ー
[キラキラと輝くシャンデリア。
繊細な音色。]
ルカ、綺麗。
[ダンスホールの二階から見下ろす着飾ったその人は、いつも見ていた人とは別人のように感じる。
……いや、別人なのだ。]
リヒャルト……、リヒャルト…
[ 新たに告げられた名を繰り返す。
確かめるように何度も。]
リヒャルト、あなたのそばに私の場所は残ってる?
私はこのまま、あなたに守られていてもいい?
ねぇ、気付いてるかな。
今のあなたはお姫さまみたいだってこと。
[あなたがお姫さまなら、私は何になればいい?
昨晩言い渡された"使い魔"という言葉が頭を過る。]
そうだね…そうするよ。使い魔の方が私にはお似合いだ。
[手すりに背を向けてずるずるとその場に座り込む。]
王子さまに命を捧げるお姫さまなんて、いないんだから。
[契約の繋がりを空気で感じる。
確かに相手はそこにいる。
私が命を捧げることになる、「リヒャルト」は。
手で顔を覆う。不思議と涙は出なかった。]*
[脚に、胴に、左の手の上に、シャンデリアの微細な装飾が突き刺さる。]
殻を……破らなければ……、
[ ぶつぶつと本で読んだ一説を繰り返す。
そうして、先まで服の裾を掴んでいた相手に向かって。]
殻を破らなければ、雛鳥は生まれずに死んで行く。
[子供の声が混ざった耳障りの悪い二重音が笑った。
…の記憶の中の「ルカ」が笑った]
リヒャルト、殺しなよ。
[薄っすらと笑みを浮かべる唇が、唯一自由な片手が、相手の足を掴もうとする。
決して離さないように。
剣の切っ先を、見据えた。]
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