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― シュビト市街 ―
[男は騒乱の中心に飛び込む事はせず、市街を特別な目的なく歩きながら、手の者の報告を待ち続けていた]
… … 振り切られただと?
[やがて男の元に届けられる初めの報。異邦人らしき者達を捕捉したが、途中で敢え無く振り切られたと云う失敗の報に男は眉を顰めた>>438]
後程、演説時の報告を踏まえて聞かせてもらうが。
その金髪の男で間違いはないのだな?
[生地に歯を立てて、串から抜いたそれを噛み締めながら問う。
反乱を起こす学徒達に対して煽動したのがその者なのには違いない。
異邦人、王国の民を煽動する者、不穏、否、危険分子そのものだろう]
…潰すしかあるまいな。
我等が王国に害なす外敵は、焚き火にもならぬ不要の存在。
遅かれ速かれ潰さねば、ナミュールに害を齎す存在だ。
此れまで結界を越えて流れ着いてきた異邦人と同じ様に。
その知識の片隅まで貰い受けて、囲い込むか隠れてもらうか。
さて、近くクレメンス卿に問いただしてみる必要も出てきたかな…?
[野心も野望、そして謀略と暗躍も男は行うが、ひとつ。
それらは王国の為、或いはナミュール貴族たるアレイゼル家の利権の為だ。
更にもうひとつ串を加え、もちもちしたそれを舌で転がしながら]
これまれ通り、囲い込んで絞れば良い異邦の民草とは違う。
どうやら一筋縄ではいかん曲者の様だが。
…どうした、まだ報告があるのか?
…我等と同じく、何かを探る一群が紛れていた?
[続けられた報告。不明瞭だが、騒乱に乗じて何かを探ろうとする者が他にも存在している>>454]
街の外へと出る者、街中に散らばる者、そこで足跡は途切れたと。
そうか、ならば捨て置け。
今後を追うた所で間に合わん可能性も高い、後に調べれば事足りる。
[然し唯の、民衆の不満が爆発しただけ、そういう暴動では無さそうだ。
裏に潜む、暗躍の気配を薄幕の向こう側へ感じながらも、男はそこで報告を切り上げた]
… … …ふん。騒乱の最中で不謹慎ではあるが。
[そして最後。串に通された三つのそれは男の口に収まる]
…やはりシュビトの団子は舌に合う。
紅茶とはやはり合わんのは如何ともし難いがな。
何処かに、紅茶とも合う様な菓子は無い物か…。
[指に付着した団子のタレを舐め取りながら、中央広場を見遣る。
さて、報告をこのまま待ち続けるべきか、あの騒乱の周囲を探りに行くべきか]
― シュビト中央広場付近 ―
[逡巡の結果、男は後少しだけ騒乱の周囲へと近づく事を決めた。
勿論、フードで顔と身形を隠すだけでは、何時貴族の者と発覚するか知れない危険性は高いが、付近で王府軍との抗争や、その周囲で隠れ潜む何かがいればそれらを探すに越した事は無い]
…どうやら既に王府軍にも死者が出ている様だな。
…全く、愚か者め。
[軽く聴くとその言葉は暴徒に向けられた言葉にも思えるだろうが]
鎮圧するならば無為な問答など不要。
錬度不足な暴徒の大半など、有無問わず盾で押し込めば済む物を。
[既に死んだらしい兵を率いていた者は、余り有能で無かった様だ。
呆れと落胆を浮かべながら、中央広場を遠巻きに窺いながら、周囲の路地を渡り続けていると]
[此処の路地は既に騒乱の中心、中央広場にもそう遠くない場所だ。
青年に近づく、フード姿の怪しげな男、何時見咎められてもおかしくはない]
体力尽きた暴徒など、自業自得だろう。
が、ここは騒乱に近すぎる。
無駄な戦闘に巻き込まれて血を増やすは得策でもない。
そこの。手でも貸してやれ。
[男は部下の者に命じ、壁に寄りかかる青年を、広場の遠くまで運ばせようとする。
風変わりな身形と、奇妙な生物、それらに何処の者か興味を覚えながら、その青年に鋭い三白眼の眼差しを注いでいた**]
…その意匠、私は古代の森で似た装いの人間と何度も刃を交えた事がある。
[ひとまずの安全を確信できる程度まで下がると、男は青年に向き直る。
白金の髪や三白眼を隠すフードを脱ぐと、唯の民衆より気品ある顔つきが現れる]
お前。先住民族、いや、まつろわぬ民の人間か。
大方、暴徒共と利害が一致し、反王府活動に身を投じたという所か。
千年物の間、実にご苦労な事だ。が。
…まずはお前のそのサルを宥めてくれないか?でなければ…
…私の護衛が、サルにトラウマを植えつけられそうでな…
[青年へ手を貸そうとし、警戒心むき出しのサルの爪で顔をめちゃくちゃにされる光景が、男が示したそこにあった。
その出で立ちや高慢な言葉遣い、護衛、それらで出自を推測する材料はあるだろう*]
…失礼したな、ウェントスの若者よ。
[名は知れぬが、南の山岳に住まう古き民、実際に会うのは始めてなその者を眺める]
(古代の森に住まう者達は、総じて筋に恵まれた体躯をしてるが。
…随分と華奢な若者だな。男としては)
私はソマリと云う。王国からは北の領地のひとつを任されている身だ。
武器を手にしたその出で立ち。暴徒の類かと早合点した様だな。
ならば君は、一般的なシュビトの街人で、我等ナミュールに住まう者、という訳か。
[然し、今後この青年がどの風向きに身を置くかと云う想像は、街の場所、青年の出自、何を探しても想像の材料に不足はなかった]
外を学びたい。 お前、いや、君はそういったか?
随分と珍しい事だ。
まつろわぬ民は、我等王府を由とせず千年の間、辺境にて閉鎖した環境に身を置き続けた。
それに、北の民を引き合いに出したが。
ウェントスの若者よ、君達南の民も、今尚問題を抱えていないかね?
そう、スルジエの悪意に悩まされているだろう?
[穏やかな様子で世情を話しながらも、男の三白眼は見聞する様に眼前の青年を見詰めている]
…異邦人の隊へ命令。スルジエに移れ。
[微かな逡巡のち小声で護衛に囁くと、私兵のひとりが何処かへと去る]
では君は何を為すべきか。
山岳ウェントスの民、まつろわぬ古の民としての君は。
王府に忠義を奉げる、それもひとつだが一族は容易く揺るがんだろう。
暴徒共の決起に混じり新たな国を作る、それもまたひとつの道ではある。
世界を広げるも秩序を守るも、民の意思までは強制できんのが如何ともしがたい。
それが国と云う物だが、時に海原の様に嵐に揺れるは歯がゆい物だ。
[青年へ向き直り、男は道を説く。然しその道は定かではない。
何せ男自身、未だその道を毅然と固めていないのだから]
ウェントス族のルディ、君の様な古の民が現れるのを私は望んでいた。
[静かに微笑みを浮かべて、男は青年の瞳を覗いた]
王国千年暦の序章は常に君達まつろわぬ民との闘争の歴史。
未だ我々王国は、君達との関係には良くも悪くもぎこちない。
だがね、いい加減にその因縁も是正するべきと私は領主として思う。
然し、闘争を続けた我等との関係の溝は深い。
まるでこの国を覆う、巫女姫の結界の様な関係が我等そのものだ。
だから私は、今回のこの学徒共の騒乱に乗じて。
王国の行く末に一石を投じたいとも考えている。
それが吉と出るか凶と為すか。
戦禍を呼ぶか未来を呼ぶかも保証は出来ないが。
私は、義と利を信じ、動くのだ。
ウェントス族のルディ
騙された気で私と友誼を結んでくれないだろうか?
[男は口端を歪める、貴族らしくも真正面からの信用は戸惑われる笑みを青年へ向けた]
君達、山岳の民を悩ませるスルジエの領主…
『なんとかしたい』、とは思わないかね?
私は、『古の民の隣人』が欲しいのだよ。
王国に媚び諂い、一族の誇りを捨てる者は寧ろ不要。
然し、誇りを持ちすぎる余り、無為な闘争を望む者もまた不要。
君への誠意として私の企みを打ち明けよう。
つまり私は、君達古の民との融和政策を進める為にも君が欲しいのだよ。
それは新しい一手への重要な切り口だ。
勿論、王国貴族としては君達が王国に恭順するのがこの上ない理想だ。
そこに、私と共に戦いの轡を並べて貰えるなら尚よしだが。
生憎、私達貴族は、利権を見極めてから動くしがない風見鶏でね。
君の様な古の民は、望んで得られない、とても貴重な存在だ。
考えてみたまえ、これからの王国と古の民の関係。
そこで君の様な、両方を繋ぎ取り持つ存在がいてくれたら、彼らの対応もどうだね?
新たに生まれる軋轢もあるだろう、彼らも我らも簡単にひとつには纏まんだろう。
だがそれは、嘗ての関係よりは確実に前にいる。
まぁ尤も、時間を掛けて将来には君達を我らの元に取り込みたい。
そんな思惑が無い訳ではない事は、先に明かしておこう。
その時には、君達の意思も新しい物へと生まれ変わっている事を期待するさ。
…故にこそだ。
私は、今すぐ与える事の出来る、君達への『利』を提示しよう。
[男は今度こそ、利権と思惑のある貴族の表情を浮かべて、口端を釣り上げる]
今暫く、私と友誼を結んでみないかね?ルディ。
古の民である事を捨てさせる予定は私にはない。
尤も、君が望むなら、我がアレイゼルの客人という扱いで取り立ててもいいがね。
[男は心の中で薪を積み上げる。それは軍神に奉げる羊を焼く為の焔だ]
その見返りに!
この私、ソマリ・フル・アレイゼルが、君達ウェントス族に力を尽くそう。
スルジエの領主、彼を、今後君達の土地に手出し出来ない様にしてあげようではないか。
… … …そう。 金輪際、身動ぎすら出来無い様にな… 。
[その悪い笑みは、具体的に何をするつもりなのかまでは青年に教えなかった]
…恵み…恵みか、悪くない表現だ。
そうだ。格言にはこうある、『情けは己が為に』。
いつか風の水の様に巡り還る恵みの為に、他者を助けるのは決して悪い事ではない。
尤も、私と君の思想がどこまで繋がるかは果たして知れん。
違えた時は違えた時。そう割り切るしかないのもまた摂理。
だが、私達の関係は、やがてその足を揃えられる物だとは考えるのだ。
[若い。男と対照的な、青年の邪気の無い瞳を眺めてそう感じる。
静けさの中で紡がれる声は柔らかく、悪意を持てば容易く手折れそうにも]
[楽しげで無垢そうな笑みと合わせられた微かな間を男は感じるが]
…それで構わん。
私の描く未来図の先に、君の望む新たな風を見出せる事を期待しよう。
ウェントス族のルディ、その名は覚えた。
次に会う時を、私は楽しみにしていよう。
[無垢な幼さと、良き変革を望む思慮が混在して、何処か王国の民衆とは異なる不思議な風を青年に感じていた。
これがうつろわぬ民。その面差しを確かに意識に刻み付けて、男はやがて私兵の者達を連れて、青年と別れていく*]
― シュビト市街 港付近 ―
[青年、ルディと別れた後、男は私兵達の招集を掛け出した。既に市街の喧騒が収まっている。予想以上に迅速に、騒乱が収束していたのだ]
…血の臭いもなければ、想像以上の怪我人もいないときた。
これは、言葉を以って王府軍の先遣を制しでもしたのかな。
面白い。
だが今は彼らも私と会う余裕は無い事だろうな。
… … …。
全隊に告ぐ! これより我々はアレイゼル領へ帰還する!
際し、五十人は此処シュビトにて引き続き任務を続行。
薄汚い蝙蝠臭い動きを晒していた、スルジエの動きを綿密に洗い出せ。
他百人は、港に用意した船で先にアレイゼルへと渡る。
[民衆の避難誘導、学徒の中核人物、放棄した武装の管理。それらの任務を実行していた私兵達が、更新された任務に、港へと集まる。
五十人はこの街に留まり、スルジエが何をしていたかを調べだす事になる]
然し、本当に面白い拾い物をした。
兼ねてよりスルジエ卿は目障りな存在。
暴徒共に良い顔をしながらも、王国に媚び諂う。
貴族とは恵みに動く風見鶏の様な物だ。風見鶏結構。
だが、薄汚い蝙蝠となると私は嫌いなのだ。
[事実、古の民ルディへ告げた言葉に、偽りは一切無かった。
唯、元々スルジエ領主をこの騒乱の機会に叩く事は、男の規定路線であり。
そこに、王府に反旗を翻す公算の高いウェントス族に対して、ここで恩義を売れる上、上手くいけば今後にも影響が期待できるかも知れない、という、幸運な『拾い物』により、ますますスルジエ領主を追い詰める意志を固めてしまった。というだけで]
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