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……やはり。
そうではないか、と思っていました。
貴方も、望まぬ道を歩まれたのでしょうか?
[だから、自分に対して好意的な態度を取るのか。
問い掛けにはそんな意味も潜ませる。]
無理矢理に未来を奪われ、歩むべき道が一つしか無い中を
進んでこられたのでしょうか。
[互いの目線が絡み合う。それでも顔を背ける事はせず。]
無理矢理というのは…、少し違う。
[長い髪と同じ、夜色の瞳と視線が交差すれば。
その湖面のよう静寂な美しさに目を奪わる。
しかし続いた彼の問いかけには細め、ゆるく頭を振った。]
人間の頃は、これでも武器職人だったんだ。
工房勤めだったけど、親方から「たまには親孝行してこい」って…お休みをもらって。
母さんと弟と一緒に、初めての旅行に出かけたんだ。
[記憶をたぐるように、何処か遠くを見るように、ありのままを語り始める。]
……ところが乗っていた列車が事故にあってね、街からは遠く離れた場所で土砂崩れに巻き込まれて。
脱線して横転した客車に、石炭を積んだ後続車が追突して――5日間に渡って燃え続けたらしい。
[蒸気機関車の構造や、木製の客車、様々な要因と不運が重なって起こった事故。]
その時事故から救ってくれたのが、俺の血親だよ。
……。
優しい血親なのですね。
[答える言葉は短い。
彼は自分とは違う、彼は救われた者であり
奪われた者ではなかったのだ。
だから、何故自分に対して親身になれるのか、
という部分が解らなくなってしまった。]
とは言っても、俺が意識を取り戻したときに、
すべて血親から聞かされたんだけれど…。
当時、大きく新聞にも取り上げられたから、嘘じゃない事はすぐにわかったよ。
生存者はいないと書かれてた――、
俺の…、家族も……。
[そこまでを話せば一息つき、再びアレクシスを見つめた。]
そうだね……、優しい方だった。
[アレクシスの言葉を認めるように肯いて、再び言葉を続ける。]
その時、どうして俺を助けたのか聞いたら、こう言ったんだ…
「もったいない」って――。
[変な方だろう? と苦笑する。 ]
どうやら、若い命が消えていくのが酷くもったいなくて、つい救ってしまったらしい。
もう50年も前の話だよ、
――昔の…話だ。
[君が聞きたい答えだったかい? と首を傾げてみせる。もし、まだ聞きたいことがあると言えば、答えるつもりでいた。]
あの夜、血親の言葉の意味が少しだけ分かった気がした。
[放っておけば、夜の闇に溶けてしまいそうな。
夜色の髪と瞳を持つ青年を、失いたくないと思った。]
――もし、評議会が何も言わなくても。
俺は君を連れて返ったよ…自分の城にね――。
[まるで消えてしまいそうで、放っては置けなかったと正直に言えば。彼はどんな顔をするだろう。]
――――…。
トール様。
ひとつお聞きします。
[家族を喪い、ただ「勿体無い」というだけで
永い永い夜の時を過ごす一族となったこの彼は、
自分とは違う。]
[解っているのだけれど。]
寂しくは、無かったですか。
[彼の他に血兄弟の話が出ない所から察するに、
当時救われた人間は彼一人のみなのだろう。
その上での問いだった。]
寂しくないかと言えば、嘘になるけれど――。
それでも紳士的で親切な俺の親は、本当にしてくれたから。例え夜の一族の気まぐれでも嬉しかったし…。
だから、与えられた命を粗末にしないように、
精一杯だったよ。
[血親と、彼が己の血と魔法で作り上げた従者に囲まれた奇妙な生活は。
長い時を過ごし、信頼を得て1つの家族であった。]
……十分です。
貴方が、元は人間だという事が解れば、それで。
ただ、ひとつ残念なことがあるとするなら…
貴方の城に行ってみたかったですね。
[50年もの時を過ごしても、人はこれだけ真っ直ぐなままで
居られるものなのだなと思い知り、彼についての大部分を
聞いたような気になって、ほんの少しの本音を混ぜて
今この時は話を打ち切った。
まだ問いたい事柄はあるにはあるが、そちらはもう少し
時間を置いても構わないだろうと、問いに開かれた唇は閉じた。]
行けるよ?
この試験期間が終われば、きっとね…。
[ここにずっと滞在するわけではなく、あくまでも訓練の期間だけの逗留であると告げ。
アレクシスの残念そうな声と、彼の明確な希望の言葉に喜色を隠せず笑みを浮かべたのだった。*]
では、それまでに…
決着を付けなければならないのですね。
今までと、それにしがみ付いている僕自身と…。
[今も故郷に暮らす家族を思うと胸が締め付けられるような
感覚に襲われる。
しかし、7日前のあの日に比べると…
それも幾分か軽くなっていた事は、自身では気付けない。*]
― 自室 ―
アレク…、大丈夫だろうか…。
[聡明で育ちの良い彼のこと、礼儀作法などは全くといって良いほど心配していない。
それでも、小さな子供ではないのだからと自分に言い聞かせる程に不安が込み上げ、心配してしまうのは養い親の性か――。
もしかしたら何か面倒なことに巻き込まれていないだろうかと、部屋中をうろついていた足は扉の方へと向かう。]
トール様。
貴方は僕をどんな風に見ていらっしゃるのですか?
教えて下さい。
僕は貴方にとってどのような存在なのでしょうか。
[さあ、「何故」を明確な答えに変えて行こう。]
― 自室 ―
――!?
この声…、ロー・シェン殿か…?
[>>712城館全体をびりびりと揺さぶる咆吼に、思わず外の方に顔を向ける。
試験内容と鑑みて、随分と派手なもてなしをしているようだ。
養い子を心配していたタイミングだけに、顔色が変わる。
執行人であるロー・シェンの事は信頼しているが、アレクシスの身に何かあったかも知れないと、
扉に手をかけたところで、それはあっさり廊下側から開かれる。]
おかえりアレク!
[>>729開口一番、いつものように溜息をつく青年を躊躇うことなく抱き締めた。
廊下を行く使用人達が驚いた視線を寄こすが慣れたもので、小さく肩すくめる者、必死に笑いを堪える者、各人各様の反応を示した後すぐに仕事へと戻って行く。]
どうしてって、心配だからに決まって――……。
[言いかけて、コンラートから手紙を預かってきたと聞けば。
やっと冷静さを取り戻し、咳払いで誤魔化しながらも養子を室内へ迎入れて、後ろ手で扉を閉める。]
ありがとう――。
[申し訳ないと心の中で謝りながら、手紙を受け取り。
すっかり冷め切った紅茶をカップに注ぐ。]
……コンラート殿から、ご招待を受けるなんて光栄だね。君も一緒にと書いてる――っ、ぐ…げほげほッ!
[丁寧な文字でつづられた文字を目で追い、喜色を浮かべるが。
視線が追伸部分にたどり着けば、口内に含んだばかりの紅茶を吹き出しそうになり、堪えて切れずに噎せてしまった。]
…すまないッ、もう…大丈夫だから――
[ハンカチを取り出して、口に宛がい。
背中を擦る手の感触に彼の優しさを感じつつも、
誰も呼ぶ必要は無いと、手で制す。]
……アレク。
[手紙には、確かに助言があった。一切、言い逃れの出来ない助言が。
諦めたように溜息をつくと、心を決めて。
まっすぐにアレクシスを見つめる。]
俺は"養親"で、君はその"子"だ…。
――だから、こう言う事を言うと…君は……
[彼の立場は弱い。
だからこそ、まるで自分の立場を利用しているようで、
今まで言葉には出さずに来た。]
だから…、これから言うことは。
君に都合が悪ければ、何も聞かなかった事にしてくれて、かまわない。
[そう前置きした上で、やっと重い口を開く。]
本当は…俺は――、君を養い子として見た事は無い。
[そこで一旦、言葉を区切ると。
アレクシスの瞳を見つめ、背中を擦っていた手を取り引き寄せる。]
君は俺にとって――とても…
愛しい存在だ…"アレクシス"
あの夜…。
初めて君を見た時、なぜだかとても……惹かれた――。
あの時君は、バランに人としての命を奪われて、悲しみの底に沈んでいたと言うのに…。
月明かりに照らされ、ただ1人廊下で斃れる君の姿は
まるで夜の女神の化身のようで……、
嘆きに伏している君は、どこまでも美しかった――。
最低だろう…?
悲しんでいる君を見て、そんな事を思っていたなんて…。
[それでも引き寄せた手は離さず、彼を閉じ込めるようにアレクシスの背に腕を回す。
そして彼を逃さないために、己にも逃げ場を許さない言葉を、
そっと耳元に囁く。]
君が好きだ――アレクシス…
[鼓膜を震わせるように、
彼だけに聞こえる吐息が耳たぶを掠めるように。]
初めて見た時から、好きだった――。
[それが己にとっての、全てだった。]
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