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[10歳の誕生日を迎えて間もない冬のある日。
幼い兄妹の夢はいきなり打ち砕かれた。
優しかった両親が交通事故で亡くなったのだ。]
だから言ったのだ。双子は忌み子だと。
[両親の葬式の晩、集まった親戚一同の中から、ひそひそと話す誰かのそんな言葉が聞こえた。]
[その後の会話の内容は、無意識のうちに心から締め出そうとしていたからなのか、意味がよくわからなかったし、覚えていない。
『分家』『跡取りが』そんな単語が飛び交っていた。]
[数日後、兄の真海は、遠縁のよく知りもしない親戚に預けられることになった。
妹の真理は、身体が弱かったこともあって、村から出すのは危ないと判断されたとのこと。
仲の良かった双子は引き離された。]
― 回想・了 ―
― 現在・授業中 ―
[数学と美術は少し苦手。音楽と理科は大好きな科目であった。
けれども、そんなことは今の自分には関係ない。
音楽やら美術やらの自ら作業をするような科目ならともかく、聞いているだけの科目は、徹夜明けをした自分にとって、心地の良い子守唄にしかならない。
微睡む中、庭園の中で弾けるような笑い声をあげている兄妹の姿が遠くに見えた、気がした。]
― 放課後 ―
>>255うん。待ってるよ!
[今朝と同じような反応をする彼女が若干気懸りではあったが、祭りの前にやらなければいけないことがあった。]
(後で会ったときに同じような感じだったら何を言いかけたのか聞いてみようかな。)
[そう思い直して、踵を返した。
向かうは、図書館。]
[祭りの準備の前に急いで返さなければいけない本が数冊あった。
劇の台本を書いたり、演じたりする資料やら、好きなファンタジーものの物語やらを普段からしょっちゅう借りている。
祭りのイベントのために、いつも以上の数を借りていたが、重さはあまり感じない。
今日を逃したら延滞になってしまう。
遅刻が多い自覚はあったが、本の返却とか、そういった類の期限は必ず守るようにしていた。]
また、聞こえる?
―――ぽぷょん。ぽぷょん。
[奇妙な飛び跳ねるような音が聞こえてきた。]
たったった。
――――ぽぷょん。ぽぷょん。
たったっ。
―――ぽぷょん。ぽぷ。
[立ち止まると、奇妙な音も止まる。]
― 図書館 ―
[図書館につき、肩で息をしていた。
落ち着いたら、まずカウンターに向かう。
司書や担任の教師はこのときにはどうしていただろうか。]
[返却が終わると、書棚の間をうろうろと歩いて回った。]
あ。これ、返ってきてたんだ。
[2(4x1)週間くらい前から待っていた赤い表紙の本を手に取った。]
[それは、何回ともなく借りていた異世界ファンタジーものの本。
幼い頃からの憧れの物語だった。
とある国の姫君が異世界から勇者を召喚することに成功する。
そして、勇者は姫君から特別な剣を譲り受け、姫君と彼女の国を守る騎士となった。
緋色の鎧を纏って。
ありがちなストーリーではあったが、なんともいえず好きなその物語。
本気でその主人公の騎士になりたいと、幼き頃の自分は思ったものだった。]
[本を手に周囲に誰もいないスペースを探し、見つけられたら適当な椅子を選んで座った。
この本は、独りでゆっくり読みたい。
もう内容をほとんど諳んじていて、登場人物のセリフもほぼ正確に言えるようになっている本だが。]
『あ、あの〜〜〜』
ごめん。今忙しいんだ。
『ちょ、ちょっとだけ聞いてくれませんか?』
今日はあまりここにいられないから、後で……って!?
[目の前に奇妙な生き物が浮かんでいた。
全体的にはピンク色のフェネックキツネのようだった。
だが、顔がキツネというには丸っこく、耳がウサギのように長かった。
首の回りにふさふさとえりまきのような毛が生えている。
額に綺麗な光を湛えた石がはまっていた。
思わず、手にしていた本の挿絵部分に目を落とし、再び視線を生き物に戻した。
存在に気付いてもらえたのが嬉しかったのか、その生き物は目の前の机の上で飛び跳ねた。]
ぽぷょん。ぽぷょん。
(音の正体はこれだったのか。)
『うん。そうだよ。ずっと追いかけてたんだ。』
(え。声!?)
『心の中で話しかけてくれても聞こえから大丈夫だよ。』
(う、うん……)
『ねえ。』
[思わず、目の前の生き物の口を閉じようとした。
生き物はふわりと飛び上った。]
『…大丈夫だよ?声はキミにしか届かないはずだよ。』
(ちょぉっと待った。つっこみどころが満載なんだけど。)
(……ええと。
君、今日のイベントのキャラクター?
どこで誰がこんな企画立てたの?
こういうのは事前に教えてほしかったなあ。
っていうか、飛べるなら、最初から飛びなよ。
正直、変な音がずっと追いかけてくるから、怖かったよ!!
それから。)
[勢いこんで問いかける姿に、その小動物は小さく『ひぃっ』と悲鳴をあげて、本の影に隠れた。]
(ごめん。怖がらせた。でも、僕は……)
『……まず、ボクはイベントのキャラクターでもなんでもないんだ。
キミたちにとっての“契約者”って呼ばれている存在だよ。
飛ばなかったのはごめん。ボクも慌ててたんだよ。
急がないと、“試練”に間に合わなくなっちゃうから。』
(僕は……。)
[ずっと届いていた真理からの便りが途絶え、春先に知らせがあった。
真理が行方不明になった、と。
あまり深く考えずに、親戚の家を飛び出した。
そして、波羅下村で“真理”として過ごすことにした。
理由は三つ。
“真理”が何に巻き込まれたのか調べ、彼女を見つけ出すため。
“真海”として連れ戻されないため。
そして、いつ“真理”が帰ってきてもいいように、彼女の居場所を守るため。
第二次性徴の遅い自分なら、ずっと演じることをし続けた自分なら、“真理”になれると。
この事実は誰も知らないはずなのに……。]
『真理はいなくなっちゃった。
せっかくキミが彼女のために跡継ぎに名乗りをあげて、ずっと“守って”いたのにね。』
(な、んで、それを……。)
『ねえ。』
[小動物は、真海の顔を覗き込んできた。]
『キミの願いに応えてあげられるかもしれないよ。
ボクと契約すれば、キミの願いをかなえる可能性を与えられる。』
可能性……。
[実際に声に出してつぶやいていたことに、自分では気が付かないでいる。]
『今日、試練があるんだ。
その試練に合格すれば、キミは“魔女”になれる。
そうなれば、可能性はもっと膨らむ。
キミの願いも現実のものにできると思うよ。』
願い……現実……。
『さあ。キミの願いを言ってみて。
キミの気持ちを言葉に出してみてよ。
それから契約するのか決めるのでも、いいと思うよ。』
僕は。“真理”を見つけ出したい。
そして、大切な者を守れる自分になりたい。
もう、何も知らない弱いままでいるのが嫌なんだ。
『それだと、キミの憧れの騎士にはなれないかもしれない。
それでも、試練をやってみるかい?』
……うん。それで何かを進めることができるのなら、僕はやるよ。
『……わかった。』
[ふわり、と小動物は再び宙に浮かんだ。身体が淡く輝いている。]
『ボクに名前をつけて。それで契約が成立する。』
名前、か。
[名前をつけようといろいろ頭をめぐらせるが、なかなか思いつかない。
小動物の額の石に目をやると、虹色の光の中に美しい真紅を見た。]
じゃあ、シンク。
[言った瞬間、左耳の後ろ辺りに痛みが走った。]
……っ。
『契約は為された。キミは今から見習い魔女だよ。』
……今のは、また夢?
[だが、ふと見やった左手の薬指に、見慣れないものを見つけた。
それは、光のような色合いの金色の指輪がはまっていた。**]
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