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― 寂静の間 ―
[己が肉体のみを纏った修道士たちを従えて、魔王は玉座に在った。
候補生を連れた魔族たちが次々とやってきて、魔王の前に拝跪する。
連れられる候補生の側は、様々な格好をしていた。
ドレスやタキシードのような礼装や、飼い主と揃いの服、首輪だけというシンプルなものから、そこに耳や尻尾を加えてアレンジを効かせたものまで、魔族の好みに合わせて多種多様である。
飼い主に促された候補生は、一人ずつ魔王の前に進み出て膝をつき、頭を垂れる。
魔王は、彼らの肩に笏を置き、行く末を祝福してやるのだった。]
テオグラナーダ・ドールキスタの名において、汝を聖騎士に叙する。
汝の主のため、今後ともよく励むがよい。
[叙勲と共に、祝いの品がひとつ贈られる。
それは、ひとりひとり違うものであった。]
/*
やあ、お疲れさまであるよ。もうエピか。早いな。
灰雑談とか、まあよいかね、とおもいつつ。
だらりとするまおうである。
贈り物をかんがえねばのう(よぼよぼ
肉も酒も叙任式の後の懇親会では出すこととしよう。
だが、ぬしは出てこぬかもしれぬか。
ならばよかろう。
ここでも楽しめるようにしてやろうほどに。
[魔空間に酒食が並ぶ。えあーで。
大丈夫だ。酒気分は本物だ。]
[黒鱗の連れが足元に体を伏せる。
彼の肩に錫杖の先を当てて聖騎士叙勲を行った後、顎の下に差し込んで顔を上げさせた。
胸を軽く突き、引き戻せば、彼の胸から抜かれるように銀色の短剣が現れる。
短剣は、掴まれるのを待つように、彼の目の前に漂った。]
それは、ぬしの心の剣。
ぬし以外、触れることはできぬ。
切りつければ、魔をも斬れよう。
[すべてを見透かす眼差しで、ウェルシュに剣を取るよう促す。]
ただしその剣はぬしの心ゆえ、
斬った相手の心と直に触れ合うことになる。
相手を知る覚悟がある時のみ、振るうがいい。
その剣を、余からの祝いの品としよう。
[重々しく告げて、錫杖を軽く払った。*]
[蛇の連れ合いが斬りかかってくるのも、蛇が割り込んでくるのも、最初からわかっていたという顔で泰然と眺めていた。
蛇が辞去の言葉を述べるのを、頷いて許す。]
存分に愉しめ。
[闇に消える彼らに言葉を掛け、次の者を待った。*]
[蛇が闇に消えてより後、堕天使が雛と共に前に立つ。
進み出た雛は膝もつかず首も垂れず、不遜な、或いは気丈な態度で叙勲を拒否してきた。
それを不敬と断ずることもせず、無言で続きを促す。
雛が望むのは、魔に従うのではなく、並び立ちたいというもの。
身の程を知らず、立場をわきまえぬ願いだ。
聖騎士飼いの支援と普及という、此度の催しの趣旨にも反する。
しかし魔王は即座に否定はせず頷いて、堕天使を見た。]
汝の望むことを、望むままにせよ。
ぬしはどう考える?天より降りし同胞よ。
[魔の律を唱え、問う。
魔王自身の考えがどこにあるか、その瞳から窺い知ることはできない。*]
[責任の所在を言い、求めると告げた堕天使の目を暫し見つめた後、重々しく頷く。]
求めるならば、果たされよう。
人の身を得んとするならば、ぬしに宿る天の力を余に捧げるがよい。
[鷹揚な要求とともに、錫杖の先を堕天使に向ける。
先端から溢れ出したのは、黒く粘つく不定形の何かだった。
闇でもない。触手や粘体などでもない。
艶やかな黒は光を帯びながら光を拒み、液体のように波打ち飛沫を上げながら、霞のように朧でとらえどころがない。
それが、堕天使の胸に張り付く。]
[黒が脈打ち光を吸い込む。
ほんの一呼吸か二呼吸ほどの接触だった。
黒がほどけて杖に戻り、代わりにこぶし大の玉を吐き出す。
受け止めた魔王の手の中で、それは内側から透かすような金色に煌いた。]
天の使いを地に根付かせるは、そこに住むものの愛のみである。
仕上げはぬしが選んだ者に委ねよ。
これは、ぬしの力より生じた余禄である。
余の叙勲を受けぬ雛に祝いの品は授けぬが、これは持っていくがよい。
[かつて天使だった、今は何者でもないものへ宝玉を差し出す。
手を近づければ、指輪の"瞳"が開くのに気付くだろう。
宝珠は、月の魔力を備えていた。]
[魔王はうっすらと笑って告げる。]
月に一度きりでは狼とて飢える。
飢えれば狂いもしよう。
それはぬしの裡より狼王の魂呼び覚ますもの。
今少し頻繁に出してやるがいい。
酒と肉を馳走してやれば、あれも喜ぼう。
[これで終わりとばかり、錫杖をゆるりと振った。*]
ぬしも、それでよいな? 狼王よ。
[呼びかけるのは、魔空間でくつろいでいる元天使の同居人に向けてだ。]
あの二人で遊びたいなら、ぬしもうまく立ち回るがよい。
人界であまり目立てばぬしとて狩られもする。
つがいの肉体が失われては、あの雛が不憫よ。
なに。ぬしが退屈せぬよう、あれらが心尽くしてくれよう。
存分に愉しめよ。
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