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― 城のテラス ―
ずいぶん、月が高くなりましたね。
[一度城に戻った公は、テラスにて空を見上げていた。
今宵の月は満月。
地表を離れたにもかかわらず、未だに赤い月が中天に昇っている。]
宴も、さらに華やかさが欲しいところです。
貴方がたも、そう思われますでしょう?
[鳥籠の中に微笑みかけてから、街へと向き直る。]
良い具合に、血の気も巡ってきています。
今宵は、人間もまた、我々と共に楽しんでいただきましょう。
[空へ向かい、両手を掲げる。
街の周囲を包んでいたコウモリの一部が、街の各所に散らばっていった。]
さあ。宴の第二幕を始めましょう。
[前に伸ばした手を横に払うと同時に、散らばったコウモリが赤く染まり、霧となって周囲に漂い出す。]
[それは、人に狂気を与える霧。
吸血鬼憑き、と呼ばれる状態を作り出すもの。
影響を受けた人間たちは凶暴化し、同胞を襲って血を啜る。
旧い血による
― 牢 ―
[眼下で繰り広げられる紅の宴を、コウモリは時折首をくるりと回しながら見守っている。>>1:367
ひとり、男が倒れるたび、濃くなっていく甘露の香り。
飽和しきった性の臭気を塗りつぶして、鮮烈な赤の香気が立ち上る。
獣欲に狂った男たちが白い柔肌に挑みかかり、奪い尽くされて冷たい骸になるさまをつぶさに見届け、最後のひとりが倒れたところで、コウモリは聖女だった者の前へと飛んでいった。]
貴方の選択、見届けましたよ。
今の貴方は、内より輝いて美しい。
おいでなさい。
今の貴方には、私の前に来る資格がある。
[声を届けたコウモリは、先導するように彼女の前を飛んだ。*]
吸血鬼公 アレクシスは、吸血鬼公 アレクシス を投票先に選びました。
― テラス ―
[身を整えたかつての聖女を、コウモリはテラスへと導く。>>8
戸口からは、頭上からの赤い月光を浴びて立つ長身の男と、黄金の鳥籠に捕らわれた領主夫妻が見えるだろう。
この高さまでは、赤い霧は昇ってきていない。]
ようこそ。
こちらにおいでなさい。
[現れた彼女を、片腕を開いて招き入れる。]
ここからは、街がよく見えます。
綺麗でしょう?
[吸血鬼に支配された街は、今は明かりもほとんど無い。
けれども、満月の赤に照らされて、人々の蠢くのは見えるだろう。
狂乱の喧噪が、微かなうねりとなって届く。*]
― テラス ―
[従順に振る舞う彼女の姿は、紅に染まる百合を思わせた。
純白の百合が注がれるままに赤を吸い込み、内側から照り輝くような朱を纏っているかのよう。
傍に添うさまも、風に揺れるがごとく嫋やかなもの。]
なるほど。
白磁の魔女は貴方に相応しいものを贈ったようだね。
今の貴方は、とても素晴らしい
―――ですが、
[月を見上げる花のかんばせに、指先を伸ばす。>>22
顎の下を柔らかく持ち上げるように。]
貴方にはもっと、相応しい糧があるのでしょう。
容易に狂うような、下等な男たちのものではなく。
もっと希少なものを奪ったならば、
貴方はさらに、美しさを重ねることができるはずです。
貴方なら、私たちと同じ場所まで、
独力で昇れるかもしれません。
私は、それを見てみたい。
[囁きを注ぎ、秘密を教えるように笑む。]
今、この城に、貴方に相応しいものが訪れています。
吸血鬼と、人との間に生まれた鬼子です。
行ってご覧なさい。
あのものの血を全て飲み干したなら、
貴方はまたひとつ、私たちに近づくでしょう。
口を開けてごらんなさい。
私からもひとつ、貴方に贈らせてください。
貴方の力になるでしょう。
[促して、彼女の上に手を翳す。
乙女が口を開けば、白金のナイフで突いた指先から浮かんだ紅の珠がひとしずく、彼女の舌の上に零れ落ちるだろう。]
― テラス ―
[乙女の舌に血の珠が溶ける。>>42
もっとと求めうねる舌先を軽くつついてから、解放した。
変容する彼女を慈愛の眼差しで見守り、一礼した頭の上に手を翳す。
洗礼を与えるかのように。]
楽しみにしていますよ。愛らしいひと。
[微笑みと共に言葉を受け取る。
それで終わったはずなのだ。余計な声がなければ。]
お見事ですね。
さすが、私の見込んだ方です。
[うるさく囀る籠の鳥に彼女が苛立ちを見せる。
生み出した刃は、見事な異能の発現だ。
血の馴染みのよさと華開いた力に軽く賞賛を投げる。
だが、謝意を述べた彼女をそのままにはしなかった。
立ち去ろうとする彼女の腕を掴んで、素早く抱き寄せる。]
ですが、私のものに勝手な手出しをしたのですから、
まずは罰を受けなさい。
いいですね。
[穏やかな瞳の奥に、苛烈な光が宿っている。
怒りの片鱗を見せつけたあと、彼女の服に手を掛けた。]
[胸元を引き裂き、豊満な乳房を露わにする。
白く柔らかな肌の上に指を置けば、異音と煙が上がった。
焼きごてを押しつけるように、指先で肌を穿って行く。
指を離したときには、簡略化された絢爛公の紋章が、黒々と刻まれていた。
それは、罪を犯したものへ与える呪縛の印だ。]
では行きなさい。
次はありませんよ。
[優しげに囁いて手を離し、去るを許す。**]
[堕ちた聖女が去った後、金の鳥籠へと歩み寄る。
囲われた空間の中で、領主は底に倒れ、冗談か何かのような勢いで胸の傷から血を噴き出させていた。
傍らの夫人は、今は時折弱々しく呟きながら、すすり泣いている。]
勝手に死んでいただいては困るのですよ、領主殿。
[鳥籠の外から中へ、格子の存在などないもののように歩み寄り、今宵の支配者は領主の胸に手を当てた。
それだけで、噴き出す血が弱まり、止まる。]
貴方がたには、生きて、見届けていただかなければならないのですよ。
私たちとの盟約を疎かにすれば、何が起こるのか、
そして、教会がいかに無責任かを。
[白金のナイフを手に取り、領主の胸に当てた手を上から貫き通す。
夫人の引きつった悲鳴と、領主のくぐもった叫びが、不協和な二重奏を為した。]
特別ですよ?
貴方に注ぐには惜しいものですが、
貴方に死なれてしまっても困るのです。
お喜びください。
あなたは長命を得るでしょう。
代わりに陽光に少々弱くなりますし、
聖堂騎士には、悪と判定されるかもしれませんが。
普通に生きていくには、困ることはないでしょう。
[白手袋ごと手の傷が癒えていくのと同様、領主の傷口も目に見える速度で塞がっていく。
血を介して分け与えたのは、吸血鬼の治癒能力のみ。
領主の声が止み、戸惑ったように身を起こすのを見届けて、鳥籠の外に出る。]
夜明けまではまだ時間があります。
どうぞ、お楽しみいただきますよう。
[柔らかな声を掛け、鳥籠の傍らを離れる。
手すりに拠って街を見下ろせば、狂騒の宴はますます熱を帯びていくようだった。*]
[届く声は燦々と煌めくかのよう。]
待っていますよ、可愛い仔。
なにをしてきたのか、貴方の口から聞かせてくれますね。
[囁きは、彼の耳元で響く。]
― 大広間 ―
[仔の呼びかけからいくらか経って、一段高い場所にある領主の座にコウモリたちが舞い降りる。
降り積もったそれらは、親たる吸血鬼の姿へと変わった。]
よく戻りましたね。
さあ、ここへ来て私の足に口づけをなさい。
[柔らかな笑みを浮かべ、仔を呼び寄せる。*]
[転がるように傍へ来た我が仔が足下に擦り寄る。>>276
やはり、仕草も興奮の様子も、仔犬のようで愛らしい。]
狼のことは気にせずとも良いのです。
あなたが無事であれば。
聞きましょう。
あなたがどのように勲しを立てたのか。
[細く柔らかな髪に手を置いて話を聞く。
時折頷いては、軽く撫でた。**]
[我が仔の髪を撫でながら、彼の物語に耳を傾ける。>>285
一つ一つ頷き、時折笑みや感嘆を差し挟んだ。
彼自身が言ったとおり全てコウモリを通して見ていたのだが、我が仔の語り口は耳に心地よい。]
狩人相手に、良くできましたね。
[欠けた部分を指摘することもなく、賞賛の言葉を掛けた。]
では、貴方が連れ帰った少女とも会ってみましょうか。
貴方からの献上とは、嬉しいものですね。
[微笑んで、もう少し寄るようにと手を伸ばす。]
[城内をさまよう少女の前には、侍女が現れた。>>286
よく見れば、肩にコウモリが乗っている。]
「
こちらへどうぞ。」
[一礼する彼女の後に付いていけば、大広間に到着するだろう。*]
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