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さて、どなたのことでしょうね?>犬のような
この村には犬っぽい名前の人がけっこういる気がします。
五人……ですかね?
― テラス ―
[双子が去り、仔もまた揚々と出かけていった。
背後では鳥籠の中で領主夫妻が嘆き怯えているが、それだけだ。
城の中からは、配下のものたちが騒ぐ声も聞こえてくる。
街の広場から天へ伸び、驟雨となって降り注ぐ矢の技は目を楽しませ、届く音と悲鳴は気を高ぶらせた。]
私も、行きましょうか。
主催が動かぬままというのも、よくありませんからね。
[言い訳めいて口に出し、立ち上がる。]
せっかく開いた盛大な宴です。
楽しむとしましょう。
―――ね?
[囚われの領主らに笑みを投げ、テラスの端から仰向けに身を投げ出す。
一拍の空白を挟み、沸き立つようにコウモリの群れが飛び立った。*]
― 街中 ―
[渦を巻いて飛ぶコウモリは、極小の竜巻のように人間を攫う。
隠れていようと屋内だろうと、お構いなしだった。
上空に攫われた人間は地上に戻らず、
紅い灯火が連なって夜空へ昇っていく。]
……少々、華が足りませんね。
[どこからか声を出し、黒い竜巻は思案するように止まった。]
もっと多くの光があれば街全体を彩れましょうか。
人間たちが集まっている場所を探してみましょう。
[良いことを思いついたと、コウモリたちが揺れる。
人間の気配がいくつも重なる方向へ、再び動き始めた。
途中、崩れた家にとりついている人間たちも、ついでに拾っていく心算で。*]
[渦為すコウモリは時折人間を拾い上げながら、歩くほどの速度で街の中心に向かっていく。
戦う双子らを遠望しながら、向かうのは鐘楼の欠けた教会の方向だ。
空から触手を伸ばすように人を攫っていくコウモリの群れは、多くのものがごく最近目にしているだろう。
城の前の広場から吸血鬼を連れ去ったものだ。
気づいた民が逃げようとするのを、無造作に拾っていく。
異様なものの接近に気づいた騎士が警告の声を上げたが、直後に彼も渦に吸い上げられて消えた。
僅かな間があったのち、剣だけが落ちてくる。
またひとつ、紅が空へ昇った。]
これは……
まだ騎士が生き残っていたのですね。
[声が先に降り、コウモリたちがなだれ落ちるように集まって人の形を為していく。
黒一色の人型に色がつけば、宴の主催が端然として現れた。]
絢爛公と呼ばれております。
どうぞ、お見知りおきを。
[周囲にいる人間たちに向けて一礼して見せる。
その視線が、瓦礫をどかしていたものたちに向いた。>>197]
何をなさっておいでですか?
[小首を傾げ、不思議そうな声音で問う。
まったく意味がわからないという顔だった。**]
[騎士の前に立ちながら、ふと微笑する。
掌を出してなにか持ち上げる仕草をした。]
貴方のお望みのままに。
[闇に乗せて囁いて、己の指に軽く口付ける。
教会へというのならば、ちょうど上を通るだろう。>>231
甘やかな血の香を感じて、もう一度舌先で触れた。*]
[周囲で沸き起こる怯えた声は気にも留めず。
真っ直ぐ見つめてくる騎士の視線を、感嘆の面持ちで受け止める。
歯を噛みしめる筋肉の動き。
紅潮する頬。ひそめく吐息。
やはり、人間は美しい生き物だ。
その命散らすのもまた美しいのは、言うに及ばず―――]
家族を、ですか。
その下に?
[律儀に答えは返ってきたが、やはり、首は傾げたまま。]
あれは、私に仕えてくれているものたちの技です。
見事なものでしょう?
[客、というのを訂正したのち、視線を瓦礫に向ける。]
ですが、そこにはなにもいませんよ?
それ以上は、ただの骨折り損です。
[変わらぬ端正な笑みを浮かべ他まま、ゆったりと騎士に歩み寄る。*]
[苦々しく、口惜しく、無力感を押し殺し、
肯定する騎士の内心を思い描く。>>265
苦悩になお磨かれよ。美しき人間よ。
自身の配下の力を認められるのは嬉しいこと。
それより喜ばしいのは、彼らの心が軋むさまを間近で見ること。]
私には、人間の命の光が見えています。
その色も、輝きも。
[否定し、叫ぶ子供の声は耳に障る。
けれどもその嘆きの色は良い。
さらに磨き、輝かせてあげたいと願う。]
[構えられた長剣の切っ先に、白手袋の指を伸ばす。>>269
それをつまんでしまえるほどの距離で、騎士の目を見つめた。]
――― 苦しいですか?
[問いかけの声は、染み入るように穏やかで柔らかい。]
認められたい。
なにかを為したい。
そうでしょう?
なにも為せぬまま、手からこぼれ落ちていくものを、もう見たくはない。
そんな表情をしていますよ。貴方は。
[揺らがぬ視線は、心の奥底までをも覗き込むかのよう。]
[今は騎士から視線を逸らさぬまま、降りてくる白に意識だけを漂わせ寄り添わせる。>>277
ふわりと一羽のコウモリが舞い上がり、出迎えるような顔でひとしきり淑女の周囲を巡ったあと、膝の上を求めた。*]
宴は楽しんでいただけていますか?
貴方の心を歓ばせるものがあれば、嬉しいのですが。
[囁く声は、コウモリを通じて響く。]
ええ、面白いわ
[コウモリの喉を撫でて、ふわふわと微笑んだ]
まだ主菜をどうするか決めかねているのだけど
……私もなにか、槍でも持参すれば良かったかしら
[くすぐられてコウモリは小さく鳴く。>>292
クルクルと、喉を鳴らすような音を立て、四つ足でドレスの布地にしがみついた。
この姿なればこその役得を堪能するがごとく。**]
槍持つ貴方は麗々しくありましょう。
ですが、槍などなくとも貴方であれば、
指先ひとつで身を差し出すものもいるでしょう。
私もまた、そのひとりですよ。
[柔らかな笑い声が、コウモリの立てる音と混ざる。]
主菜、といえば。
牢に、なにかを置かれましたか?
あのあたりから、貴方の気配となにか…芳しい香りを感じるのですが。
あら。貴方の身なら
畏れ多くて……奪ってしまえないわ
[コウモリの被毛は軟らかい。アズリウの羽毛とはまた違う感触を愉しみ、混じり合う柔らかな声にとろりと目を細めた]
牢?
なんだったかな……
ああ、そう
味の良い処女がいたのだけど、振られてしまったの
それで、仕方がないからもう少し醸成させて美酒に仕立てようと思ったのだったかしら
[忘れるところだった、くるると笑う]
でも玉を磨くのに貴方ほどの才はおられない
お気に召しそうだったら、見てあげてくださる?
長く生きていれば、様々なものが見えてくるものです。
貴方の鬱屈も、苦悩も。
[吸血鬼の力といえば、そうだろう。>>300
人は、これほど長い生を持たない。]
それはあなたの魂を磨き続けるでしょう。
手に入らないものを求める度、
手にするはずだったものを失くす度、
貴方は打たれ、鍛えられる。
この剣のように。
[震える剣先は、彼の心の表れだ。
これが止まるとき、きっと彼の魂は輝くだろう。
けれども、剣すら持てず地に落ちてのたうつ魂もまた、かけがえのない美味。]
[この青年はどちらに傾くだろう。
騎士という鎧にすがって、己を保とうとしている彼は。
その鎧は、今にも砕けようとしているのに。
悲痛な叫びのような言葉と、荒く乱れた剣閃を半歩下がって受け流す。
返すのは、言葉の毒だ。]
あなたがなんと言おうと、手遅れかもしれませんよ。
ごらんなさい。
[彼の視線を導くよう、白い手を掲げて彼の背後を示す。
慈母のごとき麗しい表情で、子供を抱く魔女の姿を。]
私は城に戻り、聖女の様子を見てくるとしましょう。
貴方が彼女に何を注いだのか、味見してみたくなりました。
[告げる言葉は、白磁の魔女へと向いている。
彼女の元へ遣ったコウモリは、どうやら胸元から出る気はない。>>308]
それでは。
お愉しみを。
[端然とした笑みと礼を残して、長身がほどけて散る。
無数のコウモリが羽ばたき舞い上がったが、すぐに夜に紛れて溶け消えた。*]
― 牢 ―
[狂気と獣欲の渦巻く地下牢に、コウモリが一匹漂い降りる。
充満する爛熟の香に鼻をひくつかせ、笑った。>>282]
かくも美しき光景かな。
男の欲に奪われてなお、貴方は美しい。
[滔々と声が流れる。
梁に下がったコウモリは、顔を洗って、また鼻を動かす。]
ですが、貴方はまだ堕ちきっていない。
奪われ尽くしてはいないのでしょう?
選びなさい。
このまま奪われ尽くされるか、
奪う側に回るのか。
どちらであれ、貴方はもっと美しくなれる。
[梁の下で、コウモリが翼を動かした。
糜爛した性の匂いに混ざり込んで、別種の匂いが漂い出す。]
[それは濃く深い血の匂い。
人間を夜へと誘う、魔性の香り。]
貴方には、それを為すだけの力が、
既に与えられているはずですよ。
[彼女の身体に残された白磁の気配を嗅ぎ分けて、コウモリは嬉しげに牙を剥いた。]
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