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― 天上宮門前 ―
[ 一夜明け、伝令に従って門前へと集まった志願者と己が眷属から成る探索隊を前にして、漆黒の神は静かな視線を巡らせる ]
良く集まってくれた。
天星仙花は、吉兆の花…しかし花開く前に地上の妖魔に喰われれば、妖魔に大きな力を与えることにもなる。
故に、ただ花を探すのみならず、妖魔より守ることも必要となろう。
ここに集ったのは腕に覚えのある者ばかり、と見たが、くれぐれも己が力を過信はせず、力を合わせて探索に当たれ。
[ 低く告げる言葉に熱はなく、しかし、率いる者達の無事を願う心がその内に潜む事には、近しき者なら気付いたか ]
では、参る。
[ 何の予備動作も無く、ばさりと漆黒の長衣を翻せば、そこから一団を包むように霧が広がりふわりと浮き上がるような感覚が足元に伝わる。例外はただ一人 ]
カスパル、お前は自身の翼で降りられよう、地上で待っている。
[ 朱翼持つ朱雀のいとし子に、そう告げて、霧の繭とでも言うべきものに包んだ一団を地上へと運び、自らは、その霧の後を、ただゆっくりと落ちていく。
自らの身内の水気と、大気の内の水気を繋ぎ、落ちる速度を微細に調節している、と、一見して分かる者は稀だろう。神ならばこその術、ではあった* ]
[ 霧の繭が降り立ったのは、険しい山の中腹。そこには、大きな洞窟が口を開け、その奥に清らかな水の湧く泉がある ]
仙花が落ちたは、この岩山の周囲と八卦に出ている。
故に、ここを拠点として探索を行う。
皆、この八角鏡を、肌身離さず持っていろ。
私を含め、離れていても互いに声を交わし姿を見ることも出来る。天上の水鏡へ声と姿を送ることも可能だ。
仙花の気は、強い天の気、地上では近づけば、それと分かろう、見つけたなら、速やかに私に報せを。
[ 手のひら程の大きさの八角鏡を各自に手渡してしまうと、玄武神は七星剣を抜き放つ ]
『凍気招来…水陰霊巡…』
[ 天地に印を描いて広く放たれる術は、周囲を冷気と陰気の結界に包み込むもの。近づく者はその結界に触れれば自然と足を止め、結界の内に入り込んだ人や普通の獣は、遍く眠りに誘われる筈だった** ]
― 地に降りる前 ―
[ 霧の繭を地へと降ろす術を行使した直後、玄武神は、一度だけ、天上宮を振り返り、緩やかな一礼を贈る。
それは、天帝に対する出立の礼であると同時に、常の如く、ただ視線を交わすだけで後を任せ…任されたと伝わる朋友たる蒼龍神、その傍で大きな支えとなろう当代応龍への信を示す礼であり、更には、未だ顔も合わせぬままに、けれど伝えるべきはすでに伝わったと信じる対極たる朱雀神への礼でもあった ]
[ 出立前の一夜のみは共に過ごした、妻の無事を案じる気持ちは微塵も無い。
供として連れていた冬花を探索に駆り出したことで、寂しい思いをせねばいいが、とは、気に掛かっていたが、それは一刻も早く任を果たして戻ることで埋め合わせるしかないだろうと心は定まっていた ]
……幸運、だな。
[ 幾千年、幾百度も地上への転生を繰り返した玄武神であったが、これほど心安んじて、後顧の憂い無く降臨するは稀な事。
地に近づくにつれ天穹の清涼なる空気とは異なる香りを含む風を感じながら、漆黒の神は柔らかな笑みを唇に浮かべた** ]
― 洞窟 ―
[ それぞれに決意と真摯な使命感をもって、仙花探索の任を果たそうとする者達の様子に、玄武神は仄かな笑みを唇に刻む。
やがて、朱雀のいとし子も、追いついて、遅参を詫びるを聞けば、笑みのままに静かに首を振った ]
遅れて来いと言ったのは私だ。詫びる必要はない。
[ カスパルの父母は、玄武神の古き友でもある。地上にある彼らの奥津城を天の護りを務める一人息子が滅多に訪れる機会の無い事を、朱雀神共々、常々気にかけているのは互いに承知の事だった ]
…そうか、喜んで貰えたなら届けた甲斐もあった。
[ そうして伝えられた言伝には目を細め、柔らかな声を返す。天で待つ妻への土産話が出来たとの思いは、内心のみに畳んでおいた ]
[ やがて、それぞれの準備が終わるを見計らい、連れ来た者達に、再び声をかける ]
地には様々な気が重なり合っている。その中には悪しきものもあるが、其方達ならば惑わされはすまい。
だが、決して己の力を過信はするな。疲れ傷ついたなら、助け手を求めれば良い。
[ 声音も言葉も、やはり甘いものではなかったが、その本意は確かに伝わったろう ]
……ここより北方の湿地と東方の森林には妖魔の気が濃い。探索に当たるならば一人にはならぬようにしろ。
[ 最後にそう忠告して、探索に散る者達を見送る。自らは、当面この場で結界の維持に努めるつもりだが、探索隊の手に余る妖の影が見えれば、即座に動く心算だった** ]
[ 玄武神は、各々行く先を定めたらしい、探索隊の面々に静かに視線を巡らせる ]
夜の間は、仙花も眠り気配も消えよう。そうなれば妖魔にも我らにも探す術は無い。
日が暮れたなら安全な場所を探して休むか、ここに戻ってくるがいい。
[ 最後に、そう告げて探索に散る者達を見送った** ]
………
[ 八角鏡を通じて伝わる各々の声と状況を暫し黙って聞き取り、玄武神は、控えていた洞窟の泉の中に携えていた七星剣の切っ先を浸し印を切る ]
七星招来…
[ 人里近い地においては天に喚ぶわけにはいかない七つ星を泉の内に喚び出して、その泉の水が滴る剣をそのまま宙に振る。
剣先で描かれた八角の印…剣に纏われた水の軌跡は散りも弾けもせず、そのまま宙に固定され、輝く神印と成る ]
文曲降臨…!
[ 七星のうち木気に寄る文曲星、その星の力が八角鏡を通し、カスパルへと送られたのは本人にも感じ取れただろう ]
[ 妖魔に対峙しようとする者へは、助力となる力だけを送り、戻ってくる者達を待つ。
己が眷属と朱雀のいとし子、二人掛かりで倒せぬ妖魔とあれば、自ら動くしかないだろうとは思っていたが、そうはならぬだろうとの確信もあった* ]
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