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[魔力が生み出した剣が、吸血鬼の命を断つべく弧を描く。
その動きが緩慢だったのは、操る者の力が弱められているからもあり、
時間をかけて少しずつ首を離断される痛みを眺めるのが、まだ少しは楽しい観賞事だからでもあった]
……このようなゴミを食う気はしない
[冷笑を浮かべる青年へ兇暴な紅を向ける]
食事ならばお前がなれ
[宙に浮いたままじりじりと、酷く遅く進む刃はアルビンの気管に裂け目を作る。
長く苦しめて殺すための緩慢]
…ハッ
[失笑。
碧眼に相対する手に剣はない。
銀の軌跡を紅に映し、腕を上げる。
ナイフを突き出す手を、重い銀の手枷で撥ね上げるように。同時深く踏み込む足は、青年の腹へ膝をめりこませようと動いた]
ち──クソ
[打ち込んだ膝が躱される。
後方へ回り込んだ青年の動きを、知覚は捉えるのに。
深く抑え込まれた力を行使しようと欲すれば、枷は反発して獣の身を苛んだ。
速く精密な戦闘術に即応できない身へ、殴打が振るわれる]
………がッ!
[獣が崩れ落ちると同時、魔力に紡がれた黒い剣が霧散した]
[喉元に切り開かれた口は命を奪う深手ではなくとも浅くもない。
失血を塞いでいた形の凶器が消えれば、吸血蔦に苛まれるアルビンの消耗はさらに増えていくことになる]
…、 ゥ、
[鎖に巻かれた体が軋んだ。銀が肌と肉を灼く。
獣は薄く瞼を開いて虚空を睨む。
あの。くたばり損ないの爺共
まきれもなぎな牙は未だワタシを御せぬというに
千年を越えて尚、斯様なくだらぬ玩具が邪魔をするか]
ハ…
[的確に脳を揺らした痛烈な殴打は、腕ならず下肢さえ思うようにさせない。
じりと動いた爪先は無為に床を躙った]
……、 …れる
[見上げる碧眼の口許へ、定まらない視線が泳ぐ。
言葉にならない文句の代わり唇は嘲笑の形を象った。
高潔な精神が聞いて呆れる、と]
…、
[首筋へ寄る気配に我慢ならないという表情を浮かべたが、
牙が埋められるのを無抵抗に受け容れ]
く、ククッ
[宣言通りの"ひとくち"で離れた青年が噎せる様に歪んだ嗤い声を零した。
息を殺した嘲笑も、
苦しむ青年の腕から床に落とされて、つまり後頭部が思いきり床とランデブーすれば止まったことだろう]
…何の茶番だ、是等は
[低く軋む声。
割って入ったつもりらしい男を半眼で眺めた。
両手をあげて、碧眼に牙たてられた首筋へ触れる。
既に牙痕は残っていない。
意識を飛ばしかけた間には両手首や胸腹を焼け爛れさせた銀鎖の禍も、元通り。灼けた先から快復していく]
お前、それを守ろうというのか、ワタシから?
出て行くとも。欲しいだけ穂を刈り取ってから
["ゲーム"などという枠を守る気がないだけ。
ふらつき、噎せながらも立ちはだかろうとする様子を眺める眼差しは翳りを帯びた]
健気だな
…羽虫。ワタシは気が変わった
お前が血を差し出すならば、男は見逃す
[腹立たしいことに、どうやら制約の多いこの身には、魔力を要しない武器が必要だ。それも充分な鋭さをもつ刃が。
それを得ないうちは、消耗の少ないよう立ち回らなければならない]
― 廊下→小部屋 ―
[滑らかな歩容でも、鎖の音は時折響く。
廊下には巧妙に隠された罠や、あるいは単純な袋小路、空間の歪む扉等、仕掛けがあちこちに施されているようだった]
つまらん
[対峙していた気配が遠くなった後、
足をあげ、通りかかった小扉のひとつを蹴り飛ばす]
[清潔に調えられた小客室へ踏み入り、見回す。
息を吸い、
壁際の暖炉へ腕を振り上げた。
手枷を力任せ、マントルピースへ叩き付ける。
烈しい破壊音と共に砕け散るのは、枷の金属ではなく大理石の方]
く……評議会の蟲
度重なる屈辱、不羇たるワタシを束縛し…
地に蔓延る屍共
[虚空を睨む]
───この封印を解き、次は 全て滅ぼす
贖いの血河に沈め
[暖炉から持ち出した火掻き棒で壁を等間隔に叩きながら、廊下を歩く]
…
[鋭い刃でなければ駄目だ。兎の牙よりも]
……どこだ
[武器を集めた部屋くらい隠してあるだろうと。
叩いた壁の音が変われば、空洞を探すように視線を動かした]
― 廊下 ―
[壁に仕掛けの発条を探しているうち、近付いて来るひそやかな音]
…
[獣はそちらへ顔を向けた]
おい
此処に、空間がある
[短く声を掛ける。
経緯がどうあれ敗北を喫したという経験が、獣の行動に変化を及ぼしている]
狭き門より入れ というだろう
[火掻き棒で壁を叩いてみせる。
響く音の違い]
隠してある部屋の方が、まだしも"中身"を期待できる
違うか?
[姿見せた男へ視線を這わせた。
獣の方は濃紫の簡素な衣服に、上半身と腕を鎖で封じられた姿]
開閉の細工がないようだから
蹴破ろうかと思っていたところ
…
[探していたスイッチを如何にも容易く見つけ出してみせた男に、瞼を細めた]
お前、ここに詳しいのか?
[動く壁へ顔を向けて尋ねる。
開いた空間は、広大ではないがそれなりの奥行きのある部屋。
灯りの射さない奥の闇も透かし見て、武器庫ではないと判じた]
[近くにある男の腕を束ねた両手で無造作に掴み、部屋の中へ引き込む]
[廊下から隠し扉の内側へ入れば途端に周囲は暗くなる。
深紅の瞳には兇暴な翳りがあるが、
掴んでいた腕をすぐに離した]
何がしたいか?
お前を襲って血を奪いたい
[温度の低い声は、
次いで吐き捨てるように吐露する]
だが見ての通りだ
襲いたくともこのザマでは侭ならない
[鎖を示し、反応を冷ややかに見つめた]
──力が足りず弱っている。お前はワタシに血を分ける気があるか?
…先程?
[では、この男は兎と逢ったのか、と思考を回し、
だが話したというほどでもないのだろう。
鎖ならば何百年単位の昔から巻かれたままなのに、はっきりとは把握していない様子に]
口にはあうだろう
[半ば以上、断られたうえでの振る舞いを想定していたか、
拍子抜けしたように冷笑を浮かべた]
ワタシのクチには な
― 隠し部屋 ―
[隠し扉がゆっくりと閉まり始め、部屋がますます暗くなる。
獣は、差し出された男の腕を両手で掴んだ]
ではいただこウ!
[軽い接触は次の瞬間には爪を食い込ませる強さになり、
深々と腕へ噛み付いた。
血管だけを狙う動きではなく、
腕の肉ごと抉る目的。
貪るどころか喰い殺すつもり、先制攻撃で大きく相手の力を損なわせる吸血の牙]
[鳩尾に打ち込まれた暗器が胸の鎖に阻まれ、鋭い音を立てる。
蹴られる勢いも助けに、二の腕の肉を喰いちぎった]
……はッ
[音立てて咀嚼し、開いた扉から廊下へ逃れる男を追うべく跳ね起きる。
頭上に、火花が収束して黒い剣を為し。
飛び出そうとした足が、 そこで縺れた]
― 廊下→小部屋 ―
[持ち上げられてもうんともすんとも言わなかった兎は、
ベッドに転がされるとヒスヒスと鼻を鳴らし]
…
[灯された蝋燭の匂いをしばらく嗅いで、薄く眼を開いた]
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