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[工廠艦というよりどうみても小型のメガフロートといった感じの「せと」に乗り込むとハッチを開けて船上へと降り立つ。
HUDを切りヘルメットを外すと潮を含んだ風が髪を揺らし心地がいい。
サシャ・クレモトから転送されてきたカタログをPDAで閲覧するとどうにも珍妙な兵器なのか工具なのかはたまた玩具にすら見えるような変わり種の数々。
どうみてもアードウルフ用の兵装には見えない。]
こんなの何に使うんだ。
[苦笑いとも微笑とも取れる表情を浮かべるがデータを転送してきた少女は何やら慌ただしい様子だった。]
やれやれ、極東のティーンエイジャーは落ち着きがないな。
あー、待て待て。
見た目ほど大した損傷はないから放っておいてくれ。
[アードウルフに梯子をかけようよとしていた整備員を制止する。
権限がないと言ったのは半分方便であり、本来ならば機体の修復はある程度までは操縦者の判断で行える。ただしそれは軍事技術の流出に繋がらない程度の話ではあるが。
だが、サシャ・クレモトの提案を断ったのは呉基地でコレを担当している整備班が極端に他人の手を嫌うからで、特に極東のよくわからない者に任せたとあってはへそを曲げることは目に見えている。しかも先のカタログを見る限り真っ当な整備になる保証もない。]
おい!だから触るなって!
サシャ・クレモトには俺から言っておくから。
職人か……仕方ない、そもそも損傷らしい損傷なんてないんだがな。
[受けたダメージといえばシャックルターンとバーニアを合わせた回し蹴りによって右脚部の装甲が砕けたぐらいなものだし、駆動系の調整はバラさないと無理だろう]
脚部の装甲だ、それだけやってくれ。
両腕はパージしたものだから基地に戻ればスペアがある。
あとはハードポイントの整備ぐらいだ。
[兵装の使用に多少の無理をしたので恐らく歪みが出ているだろう]
言っておくが蟻から受けたダメージなんて無いからな。
─ セト船上 ─
ん?……クライナー・テラー?アリスの艦か?
へえ、水上もいけるのかあれは。
『こんなところで奇遇だなアリス。
相変わらず傭兵稼業に専念か?』
あとはこちらの位置情報付ければわかるだろう。
[PDAを取り出すと手慣れた様子で艦首たる彼女へとメールを送信した。]
『まだ"艦が私の恋人"なんて言ってるのか?
そろそろ行き遅れるぞ。』
[昔と変わらね軽口を叩いて見せる。
実際のところは彼女が未だに独身であるとは限らないのだが]
たぶん独り身だろうな
[知れずクスリと笑みが零れた]
[そんなくだらないメールのやり取りをしてると、少女(本人曰くオーバー20)が何やら微妙な面持ちでサンドイッチを運んできた。
見た目通りというか中身まで少女の様だと口には出さないが、フっと顔を緩めてしまう。]
(そういうことか)
あー、わざわざすまないが、ギア乗りは作戦行動中に食事は取れないんだ。
装甲機に乗るとどうしても過大なGがかかるからな。
困ったなー、せっかく作ってもらったのに。
捨ててしまうのは失礼で勿体ないなー。
だれかかわりにたべてくれる人はいないものかなー
[わざとらしく芝居染みた、いや芝居なんていうのは烏滸がましいぐらいにわざとらしくサシャが持ってきた食事を本人へと勧める。
だが嘘はついていない。作戦行動中を含めて前後12時間は食事に制限がかかるのは本当のことだった。
だからサシャの事情はともかく折角の食事も受け取るわけにはいかなかった。]
《こちらストーンヘッド、アンデッド今どこだ。》
[レシーバから聞こえが通信に緩んでいた気を締め直す。
明らかにストーンヘッドの声色はふざけ交じりのそれではない]
こちらブラボーワン、民間船セトの船上だ。
呉港の近くまできているが、どうした?何かあったのか?
《ヒロシマシティの北西から黒蟻どもが進軍してきた。
現在はシティの中心部で暴れてはいるが、住民の避難は進んではいるから心配はいらない。
が、どうやら奴らの目的地は呉のベースらしい》
[たまに見られる現象だ。それまでのネストを捨て群れ全体で別の場所─多くは人間の軍事施設を狙って移動し、そこへ新たなネストを構築する。なぜネストを変えるのか、なぜ軍事施設を狙うのか。分析官の中でも理由については特に意見が分かれてるのだが]
了解した。あと2,3分で入港できるらしい。
マチスに両腕のスペアを用意するよう伝えてくれ。
《オーケイ、アンデッド。なるべく急いでくれよ》
[何とも賑やかな通信を耳にしながらも、クレーンアームが外れると同時に飛び出す様にしてダッシュを掛ける。機体の調整や修理に2〜3時間を要するとして少しでも早く戻らなければならない。]
すまない、蟻どもが呉のベースに向けて進軍中だ。
すぐにでもベースへと帰投しなければならない。
サシャ・クレモト、支援に感謝する。
……デートは次の機会ってことでどうかな?
[戦地に赴くのに次の機会も何もない。明日生きているのかさえわからないのだから。
それでも至って真面目に、ふざけた約束を取り付けるのは"次の機会"を必ず得ると、そう自分とそして相手へのちょっとした願掛けの様なものだった。
そしてサシャの返答がどうあれ、今は少しでも早くベースへと機体を急がせる。]
こちらブラボーワン、ストーンヘッド応答せよ。戦況を伝えろ。
《こちらストーンヘッド、現在ヒロシマシティ南部でレッドドッグスが蟻と交戦中。今のところ拮抗しているようだが、ソルジャー級の数が増えてきているとの報告有り。恐らくここは破られる。後方には第1〜第6機甲大体のMBTが待機、ただしギアの数が足りていない》
支援爆撃はどうした、それと援軍のあてはあるのか?
《爆撃は交戦前にやってるよ、やった上でこの状況だ。レッドドッグスが抜かれたら再度爆撃をしかけるようだけどな》
[戦況は概ね把握した。慢性的な戦力不足に度重なる出撃で稼働できる機体の数がどんどん減っているのは誰もがわかっていることだった。さらにドリームランドの作戦の裏を突くようにこの襲撃。まさかとは思うが蟻どもはこれを狙っていたのか?]
ストーンヘッド、あと2分で到着する。戻り次第すぐさま再出撃の用意に入るぞ。
《おい、8時間のインターバルを取らないと出撃の許可は下りないぞ》
言ってる場合か。ベースが落ちたら休むどころの話じゃないだろ。
[ベース内を全速力で駆け抜け整備区域へと機体を滑り込ませる]
─ ハンガー ─
マチス!すぐに修復と調整を頼む!終わり次第出るぞ!
「ちょっと、焦りすぎじゃないかしら?損傷はどの程度なの?」
民間のクレモトの船で脚部の装甲は付け替えてある。
あとは右の足回りが微妙におかしい。
[機体を触らせたこと伝えるとマチスは眉を吊り上げて明らかに不服そうな表情を作るが、切迫した状況であることをマチスも理解しているのか追及はなかった]
「あらら、珍しいわね。ハードポイントも歪んじゃってるし、FPMの消耗は?」
60%から70%程度、全部替えたほうが早い。
どれぐらいでいける?
「そうね、ざっと見積もっても4時間は出られないわよ」
遅すぎる、2時間までしか待たないぞ
「そんなこと言ったって、出られないものは出られないのよ」
[こんなナリだがマチスの腕は確かだ。そのマチスが4時間出られないというならそうなのだろう。
4時間、マーティン…ストーンヘッドの言う戦況通りなら恐らくヒロシマシティの防衛線が突破される頃か。]
わかった……できるだけ早く頼む。
「判ってるわ」
[ハンガーには愛機と同様に出撃できない機体が軽く20体は収容されている。
これら全てが出撃できる体制にあるなら今回のの防衛線もなんとかなるのかもしれないが]
……ん?あれはなんだ?
[ハンガーの奥、濃い青を基調にカラーリングされたそれは周りに整備兵もなくただその場に佇んでいた。アードウルフの1.5倍ほどの大きさのギアはまるでその威容を隠すよう、またはただ静かに眠っているように見えた。]
マチス……あれはなんだ?
「目ざといわね……XA023"ガルム"、対ミュルミドン用の第三世代ギア。 この呉基地に先行配備された……貴方の機体よ。」
俺の?使えるのか?
「無理ね、BMIの調整もしていないし、貴方第三世代のギアなんて扱ったことないんでしょ?」
俺の話は聞いていない。アレは動くのか?
「……動くわ。搭乗者、つまり貴方用のチューニングさえ済ませばいつでも稼働できる状態よ」
そうか。
「ちょっと!なに考えてるの?!まともな訓練もなしにBMIなんて使えないわよ!」
だが、俺の機なんだろ?
アードウルフが動けないなら……動くモノを使うだけだ。
[もうマチスの返答は待たずに機体へ走りこむと搭乗用の足場からコクピットへと移る。
まるで俺を待っていたかの様にシートに置いてあったヘルメットをかぶると一瞬の後に視界がクリアになる。]
《搭乗者を確認します……クリア、リエヴル・アールシー中尉のデータと照合し一致しました。システムを起動します。BMIスタートアップ…………………クリア。リエヴル中尉の脳波とシンクロを開始しました》
[視界に各種データが流れる、視認できる様な速度ではないが不思議とその全てが頭の中に入り込んでくる。これがBMI─ブレインマシンインターフェース、脳波コントロールによるインターフェース。]
オーケイ、ガルム。早速初陣といこうか。
ストーンヘッド応答せよ、こちらXA023 ブラボー…いや…。
ストーンヘッド、こちらリエヴル中尉だ。機体変更に伴いコールサインの変更を申請する。
新規のコールサインは
───アンデッド
《こちらストーンヘッド、コールサインの変更を承認する。やっとそれにしたか…てお前XA023なんて使えるのかよ》
マーティン…お前、この機体のこと隠してやがったな。
《ち、ちげーよ、一昨日着いたばかりだったし、作戦もあったから戻ってきたら見せて驚かせようと思ったんだよ》
[それを一般的には"隠す"というので何の申し開きにもなっていなかったが。]
まあ、いい。
《本当に大丈夫なのか?BMIなんて初めてだろ》
ああ、……だが、やってみせるさ!
[要はVCSと同じだ、ただ声を出さず思考を以てシステムに仕事を与えてやればいい。それに第三世代機には従来の操縦系統もあればVCSもあると聞いている、動かせないことはないだろう]
XA023、アンデッド──出るぞ!
「あーあー、ほーんと、男って新しい機体に目がないわよねー。まるで新しい玩具を手にした子供と変らないわね。
…おい!お前ら!何さぼってんだ!中尉の機体はあとまわしでいい!損傷の少ないギアから片づけるぞ!」
[アイサー!とストーンズで一番の整備班は班長の号令の元、これから先、いつ終わるかわからない不眠不休の戦いへと入った]
マーティン…… このカラーリング、お前の指示だろ?
『へへへ、バレたか。8年前お前がエースになったあの中東戦線、あのときの機体と同じカラーリングだぜ。懐かしいだろ』
ああ、そうだな。
なら今回も…俺たちが守るこの基地は落とさせやしない。
『そうだ、俺たちは常勝無敗、鉄壁のストーンズだぜ!』
[あのときだって絶望的な戦力差を耐え抜いた。制空権も制海権も取られ退くこともかなわなかったあの時に比べれば、ただ戦力が劣るだけの今回なんてちょろいものだ]
さあ、派手に暴れよう。
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