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[急に双子から
「「あのね、きょうから“先生”とよぶことにしました!」」
と言われて魔がどう思ったかは定かではないが。
拒否はされなかったので、以降、双子の中ではその呼び名で定着した。
お仕事がこなせるくらい成長して。
そのひとが魔王と呼ばれる偉大なひとだと知ってからも双子の態度は変わらない。
いや…変わりたくなかったからそのままでいた。
ちいさな我儘を無邪気さに包み込んで――――*]
― 回想 ―
[魔に染まったエルフを作ってみるのも一興だろう、と蠍の一族に預けた双子だったが、これが存外に面白いものに育っていった。
細く穢れのない指で毒を操り、無垢な笑顔で人間の首を掻き切る。
そのさまは見ていて楽しく、飽きないものだった。
そんな双子は、時に突飛なことを言った。
あの時も、そうだ。
『きょうから“先生”とよぶことにしました!』なんて声を揃えて言われた時には、さすがに少し面喰った。]
ほう。
なるほど?
我のことを、先生と呼ぶのか。
[不快ではなかったし、むしろ少し新鮮でもあった。
背後で蠍の一族が狼狽えているのも好い。]
好きにしろ。
……だが「先生」は、悪い子供に仕置をするぞ?
[なんて言って脅かして、結局はそのまま呼び名が定着した。]
[実を言うと、「仕置」をしたことはない。
双子が失敗した瞬間に、切り捨てるようにして突き放すことが常だったから。
己を崇拝し、求めてやまない双子には、
それがなによりも効果的な「罰」であると、理解していた。]*
聞こえるか?
無事でいるか?
[モーザック砦が消滅したあと、双子に声を投げる。
確認せずとも、糸を手繰れば双子がまだ生きているのはわかっていた。]
わかっていると思うが、
ロー・シェンなる人間が生きて戻った。
あまつさえ、我を侮辱して逃げた。
あれを殺せ、とは言わない。
あれは、我がこの手で引き裂こう。
おまえたちは、あれを苦しめてやれ。
毒を盛って苦悶にのたうたせるのでもいい。
奴が大切にしている人間を殺すのでもいい。
方法はおまえたちに任せる。
[指示の声は普段と変わらぬ滑らかさだったが]
我は、あれを苦痛と悲嘆の沼に突き落とし、
生きていることを後悔するほどに痛めつけてから
時間をかけて、ゆっくりと奴を殺してやりたいのだ。
我が受けた屈辱と痛みは、そうでなくては収まらない。
おまえたちなら、分かってくれるな?
[低く甘く付け加えられた言葉には、ぞっとするような怒りと愉悦が混ざり合っていた。]
はい、無事です先生。
[魔王様からの声が届くや、条件反射で背筋をピンと伸ばした]
『先生を…? なんてヤツ…!』
まったく不届きものだね。
[生きていたまでは知っていたが、まさかそこまで…と色めく]
…はい、はい。勿論です!
『アイツが苦しみでのたうつように』
アイツが先生に楯突いたことを後悔するように。
『―――全力を、尽くします…っ』
[怒りの矛先はこちらではない。
…分かっているのに、それでも相手の声の端々に滲んでいる感情が、あまりに闇深くて…息苦しくて。
冷水をぶっかけたかのように、双子の背筋をさあっと冷やしていった]
― 回想 ―
[双子は魔のことを"先生"と呼んだが、魔にとっても双子は新しい物事を持ち込んでくる存在だった。
誕生日>>1!9、という概念を教えたのもこの双子だ。]
おまえたちが生まれた日?
───なぜそれを聞く?
[曰く、誕生日には美味しいものを食べてお祝いするんだとか、プレゼントたくさんもらえるんだとか、どこぞの本で読んだのだろうことを口々に言ってきゃあきゃあと騒ぐ。
くだらないとは思ったが、双子が飛びあがるほどに喜ぶさまはなかなか面白かったので、毎年の、夜が最も長くなる日を誕生日と決めて、些細なものをくれてやっていた。]
[先生の誕生日は、と聞かれたこともある。
己が世に存在を始めた瞬間など、今まで気にしたことは一度もなかった。
在ったから在った。
それ以上のことは、魔にとって無意味であったが、]
我は、世界が始まったときに在ったのだ。
[そんな風に、適当に答えておいたものだ。]*
―回想―
[“誕生日”はトクベツの日なのだと本で読んだ。
生まれたことを祝う日。素敵なモノがもらえる日。
けれど蠍の一族は誰ひとり誕生日など気にしていなかった。
…魔物は、そういうものだと言われた。
誰かの生誕を祝う習慣なんて無い。死を悼む習慣もない。
ただ存在し、偉大なる魔のために生き、やがて消える…]
…――そんなの、つまらないな。
『先生のために生きるのはいいの』
でもせっかく生きるなら楽しみたいし。
『美味しいものも食べたいわ』
[そう口答えすると、異端だと罵倒された。
やはり光側の…エルフの子だからか――――と。]
[エルフだからなんなのだろう。
魔物だって、ニンゲンだって、生まれた時から何もかも決まっている訳ではないと思う]
そりゃあ周りの影響は避けられないけどさ。
『でも、少なくともワタシたちは“選んだ”つもりだわ』
そうそう。先生のお役に立ちたいってね。
[小生意気ではあっただろう。
けれど躾をするほど蠍の一族は親身ではなかったし、魔は寧ろその生意気さを面白がっている風だったから、双子の性格はそのままだった]
[だが一拍置いて今度は腕組し、ううーんと悩み顔になる]
…だけど困ったな。
『先生の誕生日もお祝いしたかったのに』
世界が始まった日っていつだろう。
『本にも書いてなかったわ』
なら――…
あのっ、
…ボクらと一緒の夜が最も長くなる日でもいいですか?
『わあ。先生と一緒の誕生日なんて素敵だわ』
[魔の誕生日を祝おうなどと、それこそ愚かな話だったかもしれないけれど。
それでも双子は、魔にもお返ししたいと真剣だった。
双子が用意できるものなどたかが知れている。
それこそ魔にとってはガラクタだろうが、双子は自分たちなりに珍しいものや楽しいものを探してきては、年に一度お披露目した*]
あ。ヨセフといえばさ…
『そういえばロヴィンって結局どうなったのかしら』
[魔王様に献上した以上、彼がどうなろうが別にいいのだが。
ふっと思い出されたので、返事を期待せずに名を口にしてみた*]
[双子の声が届いたとき、魔王は浅い眠りのような状態にあった。
睡眠の類は必要としないが、深い瞑想の結果、似たような状態になることがある。
だから、双子への反応は、少し遅れた。]
─── …。
…ああ。おまえたちか。
[意識呼び覚ますための一拍を置いて、声を返す。]
ヨセフ……
モンテリーの生き残りか。
[名前を思い出すのに時間がかかったのは、別に寝ぼけているわけでもなく、人間の名を覚える習慣など無いためだ。]
なるほど。峡谷か。
人間どもはつくづく狭いところが好きだな。
そのヨセフは、逃げ出したわけではないのだろうな。
なにをしようと構うまいが……… 祓魔剣か…。
[あれが動く先など対して思いつかなかった。
先日、確保しそびれた聖剣を思い出して、わずかに不機嫌を漏らす。]
───?
ロヴィン…ああ。ヨセフの息子だったな。
あれなら、そう。まだ生きている。
近いうちに、ヨセフに会わせてやりたいものだがな。
[こちらも名前を聞いて己の企みを思い出し、愉しげに笑った。]
[双子はニンゲン社会に紛れてお仕事をすることが多いので、逆に名前呼びに慣れてしまっていた。その癖が抜けず、しばしば標的を名前で指し示してしまう。
祓魔剣という聞き慣れない言葉には長耳を傾げたが、説明されないので知らなくていいモノだろうと結論づける]
あはっ。会えたらヨセフも喜ぶと思うよ。
『息子にとっても会いたがっていたもの』
先生もなんだかご機嫌。
『ワタシたちも嬉しくなっちゃうわ』
[先刻の怖い雰囲気はひとまず引っ込んだようだ。
勿論まだ怒りは静まっていないだろうけれど――愉しげな様子に、双子はほっと胸を撫で下ろした]
……、…ねえ、先生。
『…お願いがあるの』
次の誕生日の…おくりもの、
『おねだり――してもいいですか…』
[途切れ途切れになりながらも、繋がりたくて…声を、紡ぐ]
あのね、…このお仕事を終えたら、
『先生のお傍に…もどったら、』
ボクと…ローズマリーの……頭を
『……なでなでして、ほしいな――』
[それはニンゲンの…ヨセフの家で見た光景だった。
ヨセフが、ヴェルザンディが、息子二人の頭をいとおしそうに優しく撫でている風景――。
なぜか、それがずっと心の底に残っていた]
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