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[少年が片手を紙面に添えれば、
少女の手が伸びてきてその上に重なった。]
先生、せんせい、
『ワタシたちにキセキをお与えください』
[この双子は生まれかわった“モノ”だから
かつての記憶は無いけれど。
かつての“なにか”は魂に刻まれているから
おまじないに願えばキセキは起きる。]
…… 森は我らの料理
…… 『不思議は我らのスパイス』
いでよごはん!
『いただきまーーす!』
[今日は新しい年の始まり。
ならご都合にイイコトが起きたっていいじゃない?]
( 未練なんて今更何も無いんですけど、ね )
( だから、きっと少し迷い込んだだけです )
( ほら。光子ワームホールの生成に成功したでしょう? )
( それが混線して墓下のドアもノックしたようです )
[モニターのひとつがチカチカと明滅して、悪戯に
不安定な人影にピントを合わせたりぼかしたりする。]
( ああ僕のこと忘れたなんて )
( 寂しいこと言わないでくださいね? )
( …… )
( いいえ嘘です )
( さっさと忘れてくださって結構ですよ )
[あの時のまま…
もう時を重ねることのない顔が、モニター越しに
かつて先輩と呼んだひとの寝顔を穏やかに見つめている。]
( 新しい時代を忙しく歩んで味わって )
( “今”や、“これから”が )
( 先輩の中で数多く重なってくれる方が良いですから )
( ああ、でもこれだけは言っておきます )
( 朝と昼と夜の全部は寝すぎです )
( サボリ厳禁 )
[働き方改革だ何だと甘い顔ばかりしていたら
調子に乗るんだからこのひとは。]
( 寝すぎて見過ごさないでくださいねいろいろと )
( 見守ってますから。ときどきくらいは )
[勝手ばかりの内容の──…
これがゆうれいのみるゆめ、
*みせるゆめ*]
[彼の飛び起きた姿が、可笑しくて。
彼の紡ぐ自分の名が、懐かしくて。]
( おや。いつも寝覚めが悪いのに )
( 今日はあの台詞がないんですね )
[自然に綻んでゆく口元を、ゆうれいは隠さなかった。]
( …────はい、 )
( … …… は い、 )
[積み重なる言葉のひとつひとつが、
曖昧な存在の影の中に、
──── 確かに染みる。]
( ……… )
( まったく、先輩はほんとうに )
( ひとが欲しいと思う言葉を紡ぐのがお得意ですね )
[これ以上近づくことの出来ない、
画面の隔たりが恨めしい。]
( …、 厄介なひとたらしだ )
[今でもそう思わせる、
この有能な先輩が恨めしい。]
[用意された、懐かしい安物の珈琲とチョコレートに、]
( “これから”も傍で支えることの出来る
( やっぱり、少し羨ましいですよ )
[チリリとする胸の痛みは溶かしてしまおう…。]
( では、目覚まし時計のベル代わりにでも )
( 時々思い出してやってください )
[珈琲の湯気がモニターに映る影を揺らす。
温度差で生まれた水滴が、すこしだけ目元に滲んだ。]
( いつもの、ですね )
( 有難うございます。いただきます )
[カップに手は伸ばせない。
物理的に傍にはゆけない。
でも先輩と一緒に飲む安物の珈琲は
美味かったし、
お徳用のチョコレートは極上の味がした。
────思い出が、味の記憶を再生してくれる。]
( 僕はしあわせものですね )
( …ああ、安心してください )
( 僕は、手を繋いだひとと
自由をはばたいていますから )
[この宇宙に、
宇宙を越えた先に、
繋がる数多の世界に、
そして先輩、あなたに。]
( 今年もさいわいがありますように )
[明滅するモニターが完全にOFFになる寸前。
ゆうれいは静かに… *祈った*]
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