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そうだよ。ウェルシュ。
忘れちゃうなんて酷いなぁ。
今までずぅっと一緒に居たのに。
ここは、お家。急いで作ったから少し出来が悪いけど、前の家よりもずっといい所だよね。
[抱きしめる手を離して、うんうんと一人で勝手に頷きながら話し出す。
姿こそ人に戻ったけれど、明らかに様子がおかしい。だけども、そのことに本人は気づかない。]
狭いって思う?
これから子供も増えるもんね。
ねぇ、子供の数どうしようか?
こっちは1〜2匹でいいと思ってるんだけどさ。おまえがもっと欲しいんなら、頑張るよ。
[力が入らず動けないのをいいことに、フレデリカの身体に触れ始める。腹の辺りに手が触れると、慈しむように撫でた。]
…そ、そう、ですよね。
ごめんなさい…。
[様子が、おかしい。
かつて誤って酒を飲ませてしまったときに似ていたかもしれないが、呼気からアルコール臭は感じ取れない。]
家…。
[草木で編まれたドーム状の住居を見渡す。
…前の家とは、自分たちが住んでいた領地の館のことだろうか。
確かにガタついていてところどころ雨漏りしている有様だったが…。]
子供?何を…
[困惑と混乱は未だ解けない…どころか、まずます混迷を極める。]
何を…言って…、
[向けていた笑顔が引き攣る。
喉がからからに乾く。
じゃれ合いで触る以外の接触を断っていた掌が少女のしなやかな肢体を撫でる。
男の掌に収まる大きさの慎ましやかな二つの膨らみの下、”今は”何も収まっていない下腹部―]
何を…頑張るんです、か。
[優しさも愛しさも、湧かない。
生理的な嫌悪感だけがこみあげ、肌を粟立たせる。]
…私に、何をする、つもり、で…
[問う唇から一切の血の気が引き、蒼褪めていた。
今の状況が、彼の言葉が、何を意味しているか。
知らぬほど…初心ではなかった。*]
そりゃあねぇ…。
言わせないでよ恥ずかしいなぁ。
フレデリカ、大丈夫?寒い?
[鳥肌の立ったフレデリカの腕を、温めようと撫でていく。少女の内心の嫌悪や恐怖には気がつかないのか、はたまた知らぬふりを決め込んでいるのか。]
…これから温かくなることしようね。
[腕を掴んだまま、服のボタンに触れる。浮かぶ笑顔は悪意からでは無く、ただ純粋な喜びから湧き上がった。**]
―……うぇる、
[せめて。
せめて否定してほしかった。
はっきり言われるよりも辛い、現実を目の当たりにして暗闇に意識を埋めそうになる。
常ならば歓迎し、心さえ寄せる筈の慰めが、今は恐怖心しか煽らない。]
…・……い、イヤ…
[息の仕方を忘れてしまった。
どうやって息をしたらいいかわからない。
目の前にいるのは誰だ、此処は何処だ、
どうして、
どうして、私は。]
…っいやああーーー!!
こないで、やめて!!
[決死の思いで叫び、掴まれていない方の腕でボタンを掴む腕を払い、彼の傍から離れようともがくが、その成果は出ただろうか。**]
なぜ…何故なのですか!?
何処の誰とも分からない男に身体を開こうとしているのに!
私は…私は姫様が幼い頃より、ずっとお慕い申してきました。
私の方が姫様に相応しい!
[予想外の抵抗に目を見開いて、声を張り上げる。
食いしばった唇から血が滲み、仇敵を見るように睨む。
一度鎮静した闘志が、舞い戻ってきた。
空気中を電流のように敵意が伝う。]
…私と共に生きてください。
私を受け入れれば…、生き延びられるはずです。
この騒動の原因…魔王は…仰っています…。フレデリカが、瘴気で焼かれ、死ぬ…のを。
何故…何故、私ではいけないのですか…?
[搾り出すように掠れた声で訴える。何故、と問う彼の目から涙が零れる。それと同時に空間に張り巡らされていた緊張の糸が切れて、先程までと違う、縋り付いて泣く男だけが残された。]
…ウェル、シュ。
[予想外の反論に身を竦ませた。
いつもは対等で、体格差はあれど決してそれを、こちらに言うことを聴かせる為に用いたことがないからこその、信頼だった。
二人を包む空気が一変、肌を差し身を焦がす物へと変化していく。]
…魔王、…瘴気、
[泣きだしてしまいそうだ、心が折れてしまいそうだ。
だが、涙をぐっと堪えて、彼の言葉の断片を拾いあげる。
突如変わってしまった景色、満ちる瘴気、そして、頭の中に直接響いた声。]
…そういうことか、魔王。
貴様が、私の…敵、か。
[こんな状況だというのに、笑ってしまった。
お伽話でよく聞いた名前だ。
恐れを感じない、と言えば嘘になってしまう。
…だがそれを上回る怒りが滾っていた。]
<b> ―パシン!!
</b>
[左頬に向けて、右手で平手打ちを繰り出した。]
…ウェルシュ!
貴様は悪魔だろう!強いのだろう!
魔王如きに屈してどうする!
[掌には光の粒子が散っていた。
平手打ちをお見舞いすると同時に、彼の躰へと、瘴気に蝕まれ失い始めている光の力の欠片を注ぎ込んだのだ。]
こんな風に我らを罠に貶めて自滅を狙う卑怯な奴だ!
そんな輩の言う事を真に受けるほど、貴様は腑抜けたか!!
[泣き崩れる男に向ける言葉ではない。
しかし、激は止まらない。
怒りは目の前の男に対して、同時にその後ろにいる魔王に対しても向けられていた。]
…私の知るウェルシュは、
私が好きになったウェルシュは!
こんな風に腑抜けた男では、ありません!
[光は、闇の中でこそその真価を発揮する。
何者にも屈せず、折れることのない視線をぶつけた。]
…目を覚ましてください、ウェルシュ…!
[いつの間にか、姫騎士ではなく素の、少女としての口調に戻り、両肩を掴んで揺さぶる。
…先程、彼に流した光は、己が持てるほぼ全ての光だった。
空いた部分に、闇が迫る。
ぐらぐらと意識が揺れる―]
パリンッ…!
[巣が、二人の世界が破裂する。
光を遮っていた枝が、蔦が、崖の下へと落ちていく。
そこは、先程までいたものと同じあの崖。状況は相変わらずのままで、崖下には湿地が、上には蠢く森がそびえている。]
姫様…、申し訳ありません。
少々悪い夢を見ていたようです。
お乗りください。今度は…、大丈夫です!
[空間が開けると、大鷲の姿へと変化する。羽を大きく広げ、辺りの瘴気を軽く吹き飛ばしながら、主人の指示を待つ。]
…父と義母が持ってきた縁談です。
私は、結婚相手の声どころか顏も知りません。
[正気を取り戻したように見える相手、油断はせず視線を逸らさぬまま、事実を伝える。]
勝手に突っ走って、勝手に拗ねて。
…ずっと一緒にいたから、私に似てしまったのでしょうか。
[ふ、と笑みが零れる。
何をするにも一緒に居た。
どんな時でも傍に居てくれた。
そんな彼だから、自分は―]
[ガラスが割れる音と共に、世界が崩壊した。
光あふれる渓谷の空…なんて奇跡までは起きなかったが。]
…おはようございます、ウェルシュ。
ええ、信じていますよ。
[大鷲の姿へと変化したパートナーを優しく暖かい目で見つめ、頷く。
既に瘴気がこの身を蝕み、甲冑を出せる程光の力は残っていなかったが、きっと大丈夫。
彼が守ってくれるだろう。]
私のパートナーは、貴方以外考えられません。
さぁ…共にに行きましょう!!
[いつものようにその背に飛び乗ると、首元辺りの毛を掴み、空を見上げた。
何処に行けば良いのか見当すらつかない。
だけど、二人でならきっと、大丈夫だ。]
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