情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新
[それを手にしたのは、さて。どれほど前のことだったか。
寿命などに縛られない魔にとって、年月はさほど重要でもない。
さりとて、数年という短さでもなかったはずだ。
ふとした折に、配下が一匹のエルフを捕えた。
女のエルフだった。
しかも、あろうことか、身ごもっているらしかった。
本来なら森の奥で守られているだろう存在が、魔の手の届くところに現れた理由は知らない。追放されたか、あるいは伴侶を追っていたのかもしれない。
いずれにせよ、女は魔の手に落ちた。]
[胎の子の命を盾に、女にはすべてをしゃべらせた。
森のこと。国のこと。
魔が、モンテリーという国に興味を持ったのはこのときだ。
未だ魔軍の支配を拒み続けている人間どもの国。
踏み潰してみるのも面白かろうと。
魔はその国をいかに潰すかの方策を定めることに没頭し、女はしばらく生かされた。]
[やがて時満ちて、女は双子を産み落として死んだ。
尋問と虜囚の日々に弱った身体では出産に耐えられなかったのだろうが、産んだ子を女の目の前で引き裂くのを楽しみにしていた魔は、聊か興を削がれた。
もはや価値もない子も潰すつもりだったが、ふと別のことを思いつく。
双子は生かされ、狡猾なる蠍の一族に預けられた。
純粋無垢なエルフの姿形のまま、魔性の魂持つものを育て上げるべく。]
[育ちゆく双子の魔性を、魔は戯れに愛でた。
初めて人間を狩ったといえば褒めてやり、毒の扱いを学んでいると聞けば激励のようなこともした。
人間を仕留め損ね、逆襲されて逃げかえってきた時には「出来損ないだったか」と冷ややかに言って背を向けたが、双子がその人間の首を獲ってくれば、よくやったと笑顔で迎え入れた。
年月が経ち、思い描いたとおりに成長した双子へ、魔は己の血をもって印を刻んでやった。
それぞれの胸に、魔を示す闇の
魔が望むときに、いつでも双子の見たものを見、聞いたものを聞き、言葉を交わすための印を。]
[かくして、双子はモンテリーのミュスカ森林へと送り込まれた。
そこで集められた情報は、魔王の侵攻に実によく役立った。
さらに、その後の働きも、魔王にとって満足いくものであった。
気を良くした魔王は、双子に更なる指示を下す。]
レオヴィルの人間どもは、どうも賢しらで気にくわない。
連中の中に潜り込んで、弱点を探ってこい。
ついでに、王でも将軍でもいい。連中の頭を潰せ。
[自分の声が"絶対"と知る魔王は、特に力を籠めるでもなく、夕食のニューをリクエストするほどの気軽さで命を下した。]
[父というモノも
母というモノも知らない。
それらは単なる記号であり特別な要素などない。
生まれた時から周りにあったのは魔であり…
更には魔が与えた蠍であり、毒であった。
他の者とは異なる長い耳を揺らし
闇の褐色に染まらぬ白い肌を保ったまま。
けれど裡は確実に魔性に染まり
闇の心地よさを覚えていった]
[魔が戯れに訪れてくれるのを
双子はいつも首を長くして心待ちにしていた。
焦がれていた――と言ってもいい。
それほどまでに魔は双子にとって絶対的な存在であり
世界のすべてであり、拠り所だった。
誉められれば天に昇るほどに喜び、
失望されれば見捨てられる恐怖に震えた。
魔に必要とされたくて、
ただひたすらに毒の扱いを覚え、魔術を訓練し、
人間という名の獲物を仕留め続けた]
[ある年の誕生日。
魔がプレゼントしてくれた闇の“
双子はただただ、魂を歓喜に打ち震わせた。
なによりも大切な魔との、確かな繋がり。]
ボクらはアナタの目であり
『アナタの耳であり』
アナタの手であり
『アナタの足です』
――――… ボクらのすべてはあなたのもの
[それは 永久の誓い]
[ミュスカ森林のお役目を終え、すぐさま下された次なる指示に
双子は嬉しそうに返する。
お仕事があるのは、役に立てる証。
必要とされている証拠。
だから。]
はい、先生!任せてください。
『先生の気分を損ねるなんて悪いやつらだわ』
ほんとだよね。たっぷりお仕置きしなくちゃ。
『頭をぐしゃぐしゃにしちゃうんだから』
[いってきます、と最後に声を揃えて双子は言った]
[“目”の役目として、陣地の場所の詳細をまず報告し]
またヨセフに会ったんだ。
『彼も王国軍の陣地に居たの』
このまま様子を探ってみるね。
『潰しちゃうカボチャ頭も探すの』
[今はまだ仕込み段階。
お仕事の本番はこれからだ。
先生に誉められるためにも、双子は改めて気合を入れ直した*]
[魔王は時折、意識に双子の視界を重ねる。
映った場所は、どうやら人間どもが集まる場所のようだ。
彼らが会話交わす相手の名が、意識に留まる。
それと同時、ふたつの"声"が届いた。]
うまくやっているようだな。
そのまま続けろ。
良い報せを期待している。
[ほんの微か、
声とも言えぬ思念の揺らぎで双子の精神を撫でていった。]
[進軍を続ける城塞の上で、魔王は意識を前へと投げる]
我はこれよりそこへ行く。
人間どもが逃げ散るようなら、共に行け。
おまえたちは我が人間どもに遣った毒だ。
内側より侵し腐らせ、無様に踊り狂わせてみせろ。
さぞ楽しい見ものだろう。
[機嫌のよさを映して、響く"声"は饒舌だ。]
にしても先生がご機嫌ってことは
『お城がうごいているのね、きっと』
あーあ、ボクらも見たかったなあ。
『もう少し待てば此処にくるわ。もうすぐよ』
そうだねローズマリー。
[そろそろ夜の――魔の時間だ。
ニンゲンは今度はどんな風に慌てふためくだろうかと
そんな想像をするのも楽しかった]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新