情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新
……師父。
[寄り添い慰める声の温もりに、顔うずめるようにもう一度呼ぶ。
溢れる思いをどうしたらいいかわからない、と途方に暮れるような魂のいろは、続けられた言葉に耳を傾けるよう、少し顔を上げたようでもあった。]
…、 消えて、 おられないのですか?
[語られる理を全てのみ込むには、今だ天使というものの在りようを深くは知らない。けれども確かに、影の天使が"果たす"と言ったことを違えるとは思えなかった。]
マレンマ、マレンマ。 愛しい子よ。
顔を上げなさい。
最初から完全なるものなど、
いかに神とてお求めではないのだよ。
何故なら人の子とは”成長する”ものであろう?
[歌うように名を呼んで、
微笑み零すのは少し心の襞に近いところで。]
……… お前が無事に戻ること。
[ それは何より喜びでもあるのだと ]
[何より天の務めの果たされねばならぬのは自明の理。
故にその言葉の先を、音に乗せることはないけど]
師父、私は、 私は、
あなたを喜ばせたかったのに、
私の方が、こんなに嬉しくなってしまって…
[歌うようなそのこえに、
ここではもはや隠しようもない喜びがあふれた。]
あなたはまこと、私の導き手です。
あなたが望んでくださるから、認めてくださるから、
私は迷わずに進んで行けます。
[未完成であることを許され、成長を期待されている嬉しさは、
なによりも己を動かす力になるのだと、
心の目いっぱいを使って、感謝を伝える。]
[その先に伝えられる真情に、ひとつ息を吞んだ。
指先でそっと触れるよう、心を寄せる。]
……無茶をするなと言われたお言葉が、
今、心に染みます。
あなたの喜びが私の喜び。
あなたを悲しませることのないよう、努めていきます。
[天の御使いよりは枷無くある心は、
ごく素直に、師父と呼ぶひとへの感謝と親愛を綴った。]
[弾むような喜びが、隠されることなく伝わって来る。
その伸びやかな心は、伸び行く若木のそれ。
撓められることなき素直な思いに、大天使の心も和らぐ。]
───────……、
[ふ、と。微笑む気配がした。
傍らに寄り添う子を見下ろし、微笑むかのような。]
……人の子の成長は早いな。
いや。お前だからか?
喜ばせることを言ってくれるものだ。
[そうしてまた一つ、学んだ愛しき子の髪撫でるかのように。
穏やかに静かな気持ちを寄せた。]
[声にならない言葉は、心の奥にわだかまる。
人を
親しき人の夢が叶うのを期待する心。
人が審判を超えた先の、
師父のありようを案ずる心。
いくつかの小さな漣が心をざわめかせたのちに]
[師父を、
この美しく眩く力強い大天使を、人が超えることなどあるまいと、
確信に近い想いが、滑らかに心を覆った。*]
[けれど。
いとし子の様子はどこか、常とは異なるようにも見え。
大天使は僅かに首を傾いで彼を見遣った。]
…… 何かあったか…?
[問いは穏やかに、案ずるように。
彼が首振るならば、問い詰めることもしないが。]
───── 顔が、見たくなった。
[天の御船で、と。
そう約していたにも拘らず、先に空駆けてきてしまった理由を、
秘密のように明かして、少し笑った。*]
師父、実は ───
[そ、と手に触れたまま、心の声も繋ぐ。]
先ほど、コンラート・フリーデルと話をしました。
[悔しさ滲ませて、先の出来事を語る。]
私の幸福を願うと言われました。
立場や生まれが違っても、愛する事も信じる事もできると。
ですが、目の前に幸せに至る道があるのに、
なぜ、苦しみの道を選ぶのか、私には理解できません。
───私は、彼を救いたいのに、
なぜ受け入れてくれないのでしょう…。
[力不足を嘆くように、言葉を絞る。]
私も、あなたと直接お会いできて、
───触れられて、良かった。
[自分を求めて来てくれたことには、ただただ喜びを返し、
胸に積もった苦さを、いくらか手放した。]
[そう。
まだ自分が何者かもわかっていなかったころ。
地上に、降りてくる前、
自分はたくさんのきょうだいたちと繋がっていた。
清らかなる世界で、大切に育まれてきた。
いつか地上に降りたらなにをしようかと
きょうだいたちと、夢膨らませてさざめき合っていたのだ。]
[きょうだいたちから離されて、温かな手に抱かれ、
その手からも離れて暗い場所に置かれた後のことは、
あまり、よく覚えていない。
けれども、救世主として二度の目覚めを超え、
天にもっとも近い場所にいる今は、
少し───… 思い出した気もする。
自分は、あの、
遙かに高い空の向こうで生まれたのだと。
きょうだいたちは、おそらく今もそこにいるのだと。]
[自分の役目は、この地上にある。
この地でこそ、自分は求められている。
それになにより、
心繋いだ御方のため、
その隣に立って、力を尽くすは、
他のどんなことよりも、嬉しく喜ばしいことなのだから。]
― 少し前>>=21 ―
コンラート・フリーデル?
………、ああ。
そなたが地上に在りし時に、親しくあった者。…だな?
[天の種子を地上に置きてより後、
気に掛けてたとはいえ全てを知っていたわけではない。
ただ、マレンマが彼の名を知っていること。
また、フリーデルの名を冠する意味を思えば答えは繋がる。]
そう、か…。
[やむを得ないと思った。
いかに親しき者であろうと、所詮人の子。
御子の教えを理解し得ないのも、仕方あるまい。
とはいえ、それをそのまま伝えるのは哀れに思った。
大天使は愛しき子の嘆きを包むように、
彼の手を柔らかに握り、]
なれば愛しき子よ、
わたくしが、かの者へと祝福を与えよう。
共に、正しく新しき世界に在れるよう。
天の慈悲にて導こうぞ。
……マレンマ、お前はその手助けをしておくれ。
[その嘆きを払うために、力を添えて寄り添わんと。
心通わせて、目を見交わした。*]
ゆるりとお休み、いとし子よ。
[マレンマが夢の縁へと辿り着く頃。
穏やかな声が柔らかに、愛しき子へと降り注ぐ。
それはあたかも、幼き子への子守歌に似て。]
…… 良き夢を。
[穏やかな微笑みの気配を残して、声は消えた。*]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新