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― 回想 ―
[最初の記憶は随分古い。
ローランドの家は古くから続く騎士の家柄だったけど、少し変わっていた。変わっていたのは最近のことだったかも知れないけど、ともかく、ラルスの母が商家の出だったことからもそれは示されている。
騎士の誇りは忘れることなく、しかしてその見識は広くあれ、と。伝統のしがらみに捉われることない在り様は、しかし伝統を重んじる一派からは変わり者と見られるのが常だった。
それでもルヴェリエ家との交流が許されてきたのは、旧い家柄であったが為か、或いはルヴェリエ家もまた変わった───開明的な家風であったが為だっただろうか。両家は何かと行き来があって、だからその家の子どもたちが顔を合わせるのも自然の流れだっただろう。]
『ねえ、クリフはこの戦術ってどう思う?』
[実を言えば、ラルスは昔の方が余程騎士の家の子息らしい。剣のけいこは欠かさなかったし、乗馬もすれば戦術論だって学んでいた。
だからルヴェリエ家の長男ヒースとの仲も悪くはなかったけど、より話が合っていたのは次男坊のクリフの方だ。たまにはそんな話をして互いに本を覗き込んで、またある時はヒースの絵を二人揃って眺めては目を輝かせて、ある時は一緒に馬を走らせて駆けっこもした。]
( ふしぎだよなあ。 )
[そんな風に思うこともある。クリフとの間には、聞こえない声を伝え合うことだって出来た。馬に乗っていても、家を離れてたってだ。]
( クリフ、クリフ!!! 今日は師範に勝った! )
[自然と一番嬉しいこと、伝えたいこと。そんなことを真っ先に伝える相手は彼になった。声は時構わず響いたから、ひょっとしたら彼は迷惑だったのかも知れないけど、今日までそんな苦情は聞いてはいない。……確か、記憶する限りは。]
クリフ、僕さあ。
騎士になる前に、商人になろうと思って。
[そんなとんでもないことを言い出したのは、ヒースが家を出た後の話だったか。すっかりのんびりした顔つきに成長したラルスは、声を響かせて親友に語ったものだ。]
いや、騎士になるのをやめるつもりはないぜ?
だって僕は跡継ぎだからね。
この家だって嫌いじゃないし、僕らはこの地の守護者だ。
だからその勤めを放り投げるつもりはない。
けど……、けどさ。
騎士として勤めはじめたら、きっとそればっかりになってしまう。
それも悪いことじゃないかも知れないけど、でも、僕はそうなるより前にもっと違う世界を見てみたいんだ。
教会に行って、巡礼してみることも考えたんだけどね。
それならおじいさまのツテで、商人やってみるのもいいんじゃないかって。
きっと、あちこちを歩ける。
今まで知らなかったことだって知ることが出来る。
それはきっと、将来騎士になっても活かすことが出来ると思うんだ。
……だからさ。
待っててくれよ。
君に必要になる時には、きっとここに戻って来るから。
[ヒースは既に騎士よりも絵筆を取る選択をしていたから、ルヴェリエ家の跡継ぎはクリフだろう。では騎士団領領主となるであろう彼を支えるのは、自分の役目だ。
だから、と。約束を告げて家を出た。
それから数年。色々あったけど、家に戻って来たのはクリフがいよいよ騎士団に入るという話を聞いたからだ。そうして1年前、彼が家督を継ぐにあたってラルスもまたローランドを継ぐことになった。
しっかりやれ、と。そんなことを親から後押しされるまでもないのだけれど。心通わせる彼との夢、それを実現するのは既に自分自身の夢でもあるのだから。**]
[一つ目の役目は果たせた、と。
安堵の気配は絆にも伝う]
……ラルス。
今、マルールの司令官と話をしてる。
[唐突に飛ばした声は落ち着いたもの]
そ……、っか。なら良かった。
[声が返るのには、少し時間を要した。
もう少し早ければと言うも詮無く、響きは苦笑めいた色を乗せる。]
ならこっちも引き上げるよ。
お疲れさま、クリフ。**
うん、ラルスもお疲れ様。
……大丈夫?
怪我してない?
[返答に時間がかかったのを案じ、問う声を向ける。
怪我の有無は後で会えば分かることだが、問うてしまうくらいには気が急いていた*]
― 回想 ―
[その声は、物心ついた時から傍にあった。
自分より年上、兄と同じ年頃の、いわば幼馴染。
最初は兄と一緒にいたところに混ざり込んで、事ある毎にくっついて歩いたりもした。
幼い頃から騎士に憧れを持っていたクリフはローランドと話が合った。
剣の相手をしてもらったり、一緒に乗馬をしたりして。
友であり、兄のような感覚をクリフは抱いていた]
『うーん、地形によっては有効、かなぁ?』
[8つも歳が離れているため、ローランドの知識に追いつけない時もあったけれど、言葉を重ねるうちに徐々に物事を覚えていって。
齢二桁になる頃には、父に「どこで覚えてきたんだ」と驚かれることがままあったと言う]
(うん、ふしぎ)
(でもラルスとお話出来るの、うれしい)
[どうして秘密の会話が出来るのか。
不思議には思っていたが、原因なんてどうでも良かった。
話せる事実が、ただただ嬉しかった]
(えっ、ホント!?)
(ラルスすごーい!)
[師範に勝ったと報告が届けば、一緒になって喜んだ。
クリフもまた、あれが出来た、これが出来た、父に褒められた、などなど。
取りとめのない話であってもローランドに伝えたりもした]
[時には]
(ラルス、宿題教えて!)
[そんなしょうもないことも伝えたりしていたのだから、迷惑や苦情はお互い様だったのだと思う]
[商人になる、とローランドに打ち明けられた時、クリフは大いに驚いた]
えっ、何で!?
騎士にならないの!?
[騎士になる前に、と前置いているのにそんなことを言ってしまったのは、それほど衝撃的だったからと思って欲しい]
あ、そっか……。
[跡継ぎだ、と言われれば、安堵のような声が落ちる]
[商人になる、と言い出した理由を絆結ぶ声を介して聞く。
見識は広くあれ。
そんな教えの下に育ったローランドの選択は、今でこそその大切さを理解出来るが、まだ歳若い時のクリフには少々納得が行かなくて。
けれど、ローランドの選択が間違ってるとも思わなかったから、我侭を言うのはぐっと堪えた]
……絶対、戻ってきてよ。
待ってるから!
[疑っているわけではない。
その約束が果たされるよう、無事に戻ってきてくれという願い。
声は届くのだから、逐次確認は出来るのだけれど。
約束として交わされるものは特別となり得た]
[そうして、彼はクリフが騎士団に入る時に、約束通りに戻ってきた]
お帰り、ラルス。
待ってたよ。
[送り出した時よりも心身共に成長した姿で出迎え、ローランドを抱擁する。
それから共に騎士団で地位を上げ、
重ねた夢の実現を目指し、これからも
はは…、ごめん。
少し、しくじったかなあ。
これはナネッテさんに叱られる。
[怪我よりそっちの方が怖い。とは、本気で返した。>>7]
うわ、マジか……。
一緒にいた方が良い?
[うわ、と言った時の表情は、きっと友も想像出来たことだろう。
続けたのは、少しでも緩和出来れば、と思っての言葉]
あ〜……。
ふふっ、ありがとう。
でも一緒にいたらクリフまで飛び火しないかなあ。
[とは言ってみたものの、幾ら容赦のないナネッテだって今のクリフを叱ったりはしないんじゃないか。そんなことを思いながら、でも気遣ってくれる友の声が嬉しくて言葉を紡ぐ。]
でも、うん。
こうやって話してたら、少し気が紛れてきた。助かる。
[続く礼は心から。
やっぱり痛いものは痛いと、情けない顔で笑った。]
飛び火したらその時はその時だ。
[まぁきっと大丈夫なんじゃないかな、なんて楽観的な思考で紡ぐ]
そっか。
気が紛れてるならいいけど、無理だけはしないでよ。
[痛いものは痛い、と言ってくれる分、余計な心配はせずに済むけれど、案ずる想いが消えるわけではない。
無理をさせるのも本意ではないから、と願う声を乗せた]
[結局、叱られるなんてことはなく。
温かい手に、肩に手を触れられて。>>130]
何やってるんだって、叱られるのかなって思ったんだけどさ。
…生きて、帰って来て嬉しいって言われて。
やっぱ大事にしないとなあって ……
[完全に息子の感慨を零して少し笑った。]
クリフ、あとでそっちに行っていい?
この怪我だから、酒は飲めないんだけど。
お土産、渡してなかったからさ。
[それはいつぞやのリクエスト。>>1:=0
メレディスに届けて取り分けておいた>>2:136素朴な焼き菓子。彼には直接手渡したくて、ずっと持ち続けていた小さなお菓子だ。]
僕もまだ食べていないんだけどね。
きっと美味しいと思うんだ。
あとで、お茶を用意して待っててくれるかい?**
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