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…かえさないからね?
[大事な花をぎゅっと抱きしめ。
もうこれは俺のだって、彼の思いを受け止め言う。離さない、離れないで。そんな気持ちでいっぱいの心を伝えるように花束を大事に大事に抱きしめて、立ち上がれば、残った薔薇の花を一本とって。
彼に向けた]
―その後―
おはようございますー。
[コンテストからしばらく経って。
自分はあれから何事もなかったかのように通常の生活になった。
もちろん何事もなかったわけではなく、ダーフィトという同居人がいる生活なのだけれど、それを他の人が知るはずもないので、ただ、なぜか自分が機嫌がいいねということだけが評判になっていたようだ]
あれ、こんにちは!
しばらく見なかったような気がしますね。
[コンテスト会場で見かけてそれっきりとなっていた“彼”に職場で会った。
自分も彼もコンテストで成果を出せずにいて、支度金を出してくれた花屋には申し訳のないことになってはいたのだけれど、二人とも別賞のように審査員の特別な栄誉みたいなものを得られたという連絡はあったらしく、お互い面目がつぶれることはなかった。
過去に確かに好きだった人だけれど、こう見ているとその思いはやはり憧れだけだったのだと思う。
ダーフィトのように、そこにいるだけで愛しくて、彼が何をしてても好きだと思うような恋しさは特別なものだと思えたから。
彼を見て、ああ、本当にダーフィトが好きだなと自覚するのもおかしな話だ]
え、店、辞めるんですか?
[どことなく幸せそうな彼が切り出した話に驚く。
彼はあの日に出会った人と恋人になり、専属として働くそうだ。
好きな人のためにその才能を存分に発揮できることがとても嬉しそうだ]
そうですか。
おめでとうございます。お幸せに。
[そう微笑んで、素直な気持ちで未来を祝福した。
店に置く花を1つ1つ確認しながら、そういえば……とダーフィトのことを思い出す。
今日はここに来るのだろうか。
もうお目当ての彼はいないし、自分だって家に帰ればいつだって会える存在だから、彼は来る必要はないのだけれど。
でも、彼がきたらその時はこの花を渡してあげよう。
1つの花を取り出して、小さな花束を作り始める。
その花の名前はクレオメ。
小さな蝶がたくさん止まっているようにも見えるけれど、おしべが蜘蛛のようにも見えて、あの人を思い起こさせるから。
そして、楽園の花とも言われているのだから、自分と彼にはぴったりだろう]
[彼に渡した後にこうささやくのだ。
花言葉を知っているか?と。
彼はそれを聞いたらどんな顔をするだろう。
この花の花言葉は色々あるけれど。
――貴方の容姿に酔う。
もう一つは
――私を連れていって
ああ、これは本当に貴方のための花だと見つけた自分にほくそ笑む。
何より俺を夜な夜な天国に連れていってくれる彼にぴったりすぎるから。
彼がいつものように顔を赤らめたら、今夜も俺を天国まで連れていって、とおねだりをしよう*]
[彼に会いたいと思った。
彼が家に帰れば会えるけど、きっかけは彼が勤める店にいったことだ。最初は彼ではない存在に目を奪われた。そのことが嘘のよう、とは言わない。それもまた自分の気持ちだったから。
でも思えば、自分は彼を見ていたのだと思う。]
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