情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新
[天のいと高きところ、清浄なる神の木にそれは実る。
人の形を成す命の種子、聖なる神の種。
あたらしき人の子を、完全なる人を宿す生命の木に。
その種子を預かって、地上に降りた。
赤子の形に姿を変えた種子は、あたたかで柔らかかった。]
[あの子は覚えていまい。
天の樹から離されて、不思議そうに天使を見上げてきた子は、
小さな、その小さな手を差し伸べて来たのだ。
その手に触れた時から不思議な心地がした。
何故だか、心までがぽかりと温まったような気がした。
あの時に繋がれたのだろう、この絆は。
あの時に、小さな手に繋がれてしまったのだろう、この心は。]
( ────… 繋がっているよ )
[今も。あの頃>>2:=27と同じに。
糸は、光の糸は───、心は。今もなお。]
( だから、泣くのはおよし )
[愛しい子。と、繋ぐ響きは宇宙をこえて、
かつての幼子にも響いたろうか。
そうして語りかける、天使もまた───…]
( お前に 会いたかった )
[本当は。
本当は…会わぬままあれば良かったのかも知れぬ。
地上に撒かれた希望の種、
これは人の子が不遜を為さずに地上にあったなら、
種は芽吹くことなく、そのまま人としての生を終えただろう。
天使降臨の奇跡が顕現することはなく、
人々は、依然として無知なる幸福の裡にあったのだろう。]
[けれど。]
[人の子らはやはり、大いなる過ちを犯した。
そのあまりなる無知と思い上がりは、粛清されるに値する。
既に裁定は下された。
人間は地より粛清されねばならぬ。
それが、いかなる悲嘆と苦しみの先にあるのだとしても。
人の子らには不服だろう、不満だろう。
地に満ちる嘆きと混沌の渦は、
人として育てられてきた、愛し子をも巻き込むだろうか。
苦しむだろうか。……悲しむ、だろうか。]
──── 良かった、と。
お前に会えた幸運を喜んでしまうこの心は、
天の御使いとしての道を外れてしまうだろうか。
自らの心で、この争いを……
人の子の不遜をさえ、喜びの裡に捉えてしまうこの心は。
わたくしには天の軍を率いて地に赴き、
人の子を粛清し神の声をあまねく地に響かせる使命があり、
……───お前との再会など、
取るに足りぬ”ついで”に過ぎぬ。
そう、分かって … いるのだが な。
[独り言に返る音はない。
この声は誰にも響くことはない。
そうと知るがゆえに、柔らかなこころは、
隠されることなく零されていく。]
今度はあべこべだよ、マレンマ。
[囁き落とす声は柔く、やさしく。]
今度はわたくしが、お前を待つ番だ。
[深い眠りに落ちた子の安らぎを破らない音量で。]
待っているよ。だから、
…… 早く、目覚めておいで。
[優しい子守歌の如く。
囁いて、大天使は祈るように目を伏せ微笑んだ。**]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新