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ひっ……!!
[少女は青年を見てはいなかった。
小さく悲鳴があがり怯えたように相手に縋り付く。
だが、直ぐに虚空を睨むと叫んだのだった]
……わ、私が、私が全て引き受けますから!
だから、だから、……それじゃ、ダメなんですか?!
私が魔族だから?!
人間ではないから?!
……………っ!!!
シェットラント様のものは渡さない!
私を全部持って行って!
[虚空に必死に訴える姿は、相手にはどのようにうつっただろう。
それでも少女は必死で。
それが、相手の求める答えではなかったとしても、必死に。
虚空に、その彼方の相手に訴えていたのだった]
シュテラ、落ち着け、シュテラ…!
[声をかけても、戸惑う少女は弱々しく暴れ続ける。それと同じく、風の嵐もまた、止むことを知らなかった。周囲で鳴り続けるゴウゴウとあう風の音に声もかき消されそうなほどだ。
不意に怯える少女に訝しげな表情を浮かべるものの、守るように抱く力を強める。
だが、自らにも聞こえてきた声に、男もまた虚空に向かって叫んでいた。]
ふ……ざ、けるな…っ!!
僕はそんな言葉にはのらない!穢らわしい魔のものになど、体を明け渡すつもりはない!
…………っ?!
[叫んだ言葉は、少女にはどう届いていたか。だが、視線は明らかに少女以外に向けられていた。
答え終えると共に再び聞こえてきた声にびくり、体を揺らす。
瞳は揺れ、片手で顔を覆い、俯いた。体を奪おうと間断なく襲いかかる得たいの知れないものに全力で抗う。]
や、め………っ!ぐ…っ!
シュ、テラ………っ、にげ…………!
[もし、負けてしまえば。一体どうなるのか予想もつかなかった。必死で抵抗しながら、せめて少女は逃がそうと声を絞りだし促していた。]
[穢らわしい魔のモノ。
その言葉にギクと身を強張らせたものの、相手の抱き寄せてくれる腕の力と、そしてその言葉が己と同じ虚空に向けられている事に気付けば哀しげに眉を顰める。
何か彼にも聞こえているのかーー?]
シェットラント様……シェットラント様!
[自分は魔の者だ、確かに相手からすれば穢れてもいる。
それでも、そうだ。相手を護りたいという気持ちも。共にありたいという気持ちも。どちらも本物で。
ーーそう、あんな首輪が無くても、自分はとうにーー]
シェットラント様……!
[逃げろ。そう言われても、首を横に振る。
相手の腕の中なのだろうか、そうでなかったとしたら常の通り下から見上げただろう。
いつの間にか風は収まり、相手を瘴気から護る風のみが取り巻いている。
血塗れで、ボロボロの衣服で。
それでも、相手に腕を伸ばすとそっと抱き締めた]
ーー気をしっかり!
私をここに置いていく気は無いのでしょう?
二人でここから出て、二人で考えるんでしょう?
…シェットラント様…。
[また涙が溢れる。これは、自分の選択がもたらした事なのか。
だとしたら、相手のこの苦しみようは自分のせいなのかもしれない。
自分だって、キリキリとまだ頭の痛みは続いていた。だが、それよりも。
護りたい。
そんな相手を、涙を零しながら確りと抱き締めていた]
[邪霊の支配せんとする力に、必死で抵抗していた。それは、少女の自らを呼ぶ声が届かないほどに。荒い息を吐きながら、何とか少女へと向けた忠告はあっさりと拒否されてしまった。
眉根を寄せながら、しかし共にここから出るのだろうと言われてしまってはそれ以上逃げるように言い募ることは出来なかった。]
だが………このままここにいるわけにもいかない、だろう……
[邪霊は諦めたのか。支配しようと暴れる力は徐々に弱まり、話す余裕が出てきた。
渾身の力で抵抗したせいか、わずかに汗が滲む。ため息と共に髪をかきあげ、少女にされるままに抱き締められていた。]
シュテラ…、もう大丈夫だ。
[いつのまにか荒れ狂う風も収まり、相手にかけてもらった風の魔法のみが残っていた。少女もまた誘惑を退けたのか。
緩慢なしぐさで相手をみやる。]
[もう大丈夫。そんな言葉を聞いてもなお、相手を抱きしめる腕の力は抜ける事がない。
『エアリー・クリーン』と小さく唱えれば、せめて、2人についた血を綺麗にさせた。服に染み込んだものはどうにもならないが、自分のせいでついた血だ。血の匂いはまた狂気を齎すかもしれないと。
自身もまたそうだったからだろう、血の色と匂いをできるだけ払っては少しだけ腕を緩め顔を上げた。相手を、まだ涙の気配の残る瞳で見上げる]
…本当に大丈夫ですか?
わたしは、…まだ頭が痛いです。でも、私は。
…シェットラント様。
…少ししたら、空を飛んで移動しましょう?ここは、危険過ぎます。
それまで、瘴気を吸いすぎないようにしてくださいね?
地面より空の方が瘴気は薄い筈ですから。
…ここ、を、抜け出して…。
もしそれが叶ったら、一つだけ、お願いを聞いてください。
[相手の汗を拭おうと手を伸ばしながら、少しだけ笑みを浮かべる事ができた。
少女の中にはまだ狂気は残る。
それでも何とか、今は気持ちを落ち着ける事ができた。先ほど自分を傷つけた事で大きな魔力を使ったのと、回復されたとはいえ失血はかなりの量で回復しきっていなかったため、逆に暴走の不安が消えたからかもしれない。
ただ、相手は気づいていないかもしれない。
エアリーシールドは、もう少女にはかけられていない事に]
シュテラ…?
[未だ力が込められたままの腕に、問うような声音で名前を呼ぶ。
小さな詠唱と共に新たな風が体を撫でれば、煙るような血の匂いはこびりついた血と共に風に散っていった。]
ああ、心配するな。少々…疲れただけだ。
たしかに瘴気は強いが…、いつまでも飛び続けているわけにはいかないだろう。魔力がつきれば本当に動けなくなるぞ。
………シュテラ。お前だけなら、あの結界は破るなり通過するなりできるのか…?
[本意は告げないまま、可能かどうかだけを問う。正直、内面での邪霊との攻防で精神的にかなり疲労し魔法を使うだけの集中力などつきかけている状態だった。
このままでは共倒れ必至。ならば、とあまりまとまらない頭で考え始めていた。
相手の笑みは、男を安心させていた。それゆえ、少女を護る風がいつの間にかなくなっていることも気付かず。]
……私と。2人で戻れたら。
契約し直してください。
今度は、私自身の意思で、あなたに。
……いえ。忘れてください。
[相手からの答えや問いがないまま願いを告げようとして、途切らせた。
自分の中の渇望が、願望が、欲望が頭をもたげそうになったから。
ただ、誤魔化しては笑う。
つ、とその顔に汗が一筋垂れていただろう]
……確かに空を飛び続けるにはもう少し、休まないと。でも、ここには魔力が溢れていますから。
私は魔族ですよ?だから、ここの環境はーーあの声さえなければ、大丈夫なはずなんです。
だから、貴方を一人置いてはいきません。
あの声さえ、なければ……。
……きっと、大丈夫。
[表情が一瞬暗くなるものの、それでもと笑みを浮かべ直した。
悲観すればまた囚われてしまいそうで。
自分の中の渇望を、必死に抑えてきたそれを暴かれた今、また囁かれたら暴走しないとも限らないから。
だからただ、笑みを浮かべ]
でも、一つだけ、謝らせてください。
私は、貴方を…貴方が助かる可能性を、蹴ったのかもしれない。
私のワガママで。
…ごめんなさい。
………いいのか?
僕は…、お前の意思に関係なく無理矢理契約したのに。
[もちろん、相手が対等な関係を望んでいることは先のやり取りでわかっていた。それでも。
怪しげな道具まで使って少女を繋ぎ止めようとした自分のそばに、まだいてくれるのかと思えば知らず小さな笑みが浮かんでいた。
忘れてほしい、そんな言葉に首を振り]
駄目だ。僕は…お前に側にいてほしい。首輪がなくなった今、それでも契約して側にいてくれるのなら……。
いや、契約、してくれ…シュテラ…。
[気だるい体で相手を見つめ告げる。命令でなく、懇願という形で告げるのはもしかしたらはじめてのことかもしれない。
魔力が溢れていると聞けば、納得。それでも、少女の回復はまだ済んでおらず、自分のそれを分け与えることもできない。
自らを包む風を維持することで、回復を妨げているのだろうと思えば自己嫌悪で表情は苦いものとなった。]
いや…お前はお前が最善だと思う選択をしたんたろう。
それに…僕だけが助かっても意味はない。だから、それでいい。
[相手が姿なき声から何を言われたかはわからない。だがそれはきっと、自分に囁かれたあの甘言と同じようなものなのだろう、と。そうであるならば、助けると言った言葉も本当であるかどうかすら怪しいのだ。きっと、少女の選択は正しかった。
そう信じ、告げていた。]
[側にいて欲しい。そんな事を言われたのは、ましてや懇願の形で乞われたのは初めての事だった。目を見開き、微かに震えーーそれでも。
首を横に振る姿がある]
いいえ、できません。
貴方は人間で、私は魔族。
私、思い知らされたんです。貴方が、どんなに大切か。そして、どんなにーー執着してしまっているか。
シェットラント様は人間で、いつか、誰かを…人間を愛するでしょう?
家庭を作り、その幸せを守ろうとするでしょう?
……その時に笑顔でいられる自信はありません。
今よりもっと時を重ねてしまったら、今よりきっと離れ難くなる。
その時に…貴方の敵になるような事はしたくない。
だから、……いま。
[離れたほうが良いのだと思う。
相手が自身を求めてくれ、とても嬉しいのに。だが、今を逸しては離れる事が出来ないだろう。
ーー狂気はいつでも訪れる。
それを自覚させられた今、頷くことはできなかった]
さっき、契約し直すといったじゃないか…。
僕は…、初めてお前を見たとき、とても綺麗だと思った。
お前は力を使いきり、倒れてから僕が通りかかったと思っているが、実際は違う。
ほぼ暴走が終わりかけてはいたが、倒れる前に居合わせていた。
風を操り、敵を切り刻む姿は…
汚れていたあのときでさえ、綺麗だと思ったんだ。
あんな風に、道具を使ってでも側にいてほしいと思ったのは初めてだった。
これから先も、たぶんない。
おまえだけだ、シュテラ…。
[元々女は苦手だった。それでも何故か相手を初めて見たときから綺麗だと思い、どうしても側て見ていたいとおもったのだ。
従属に失敗し、今度は自分が切り刻まれることになろうとも本望だとすら思った。
これ以上の想いなど、おそらくない。もしも、まだ側にいたいと少しでも思ってくれるのなら。
今度は自分が従属してもいい。それも本音だった。
それゆえ、拒否されたことに強い胸の痛みを覚え。思わず、目を閉じてしまっていた。]
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