情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新
― いつかの艦上 ―
は?俺の歌ですか?
[ オルヴァルでの負け戦の後、数年を経るうちに、男は周囲からも、そしてゲオルグ本人からも右腕として認められるようになっていった。そうして戦場を巡る内には、酒場や艦上の宴会で酔いを過ごすこともあって、当然にゲオルグも男の鼻歌の被害に遭ったわけで ]
すみません...実は俺、歌い始めた後の事はあまり記憶に残らんのです。そんなに酷いですか?
[ 酒の席の一種の余興の内だろう、と、これまでタカを括っていたが、尊敬する上官にトラウマを植え付ける程となると大問題だ。
本気で禁酒するべきかと悩む男に、ゲオルグは何と答えたか。少なくとも酒をやめろとは言わなかった筈だ。
代わりに、声は良いのにという話が出て男は苦笑する ]
酔ってなければ、それほど酷くはないと思います。お袋にせがまれて子守唄を歌わされたことがありますが、ちゃんと眠ってましたから。
[ 母が持病を悪化させて亡くなる前の数日、男は母に付ききりでいた。病で熱に浮かされた母は、男と、若くして亡くなった父の姿を混同したようで「貴方の子守唄が聴きたい」と言われて、男はその望みを叶えようとしたのだ。
歌ううちに母はそれが息子の声であることに気付いたようだったが、それでも嬉しげに安らいだ表情で眠ってくれた。と、それまで誰にも告げた事のない話を思わず口にして ]
誰にも言わないで下さいよ?
いや、俺には似合わないってのは、充分に自覚してますから!
[ してしまってから、急激に羞恥心に襲われた男の慌てる様は、ゲオルグにどんな感想を抱かせただろう?** ]
新造艦は完成していました。
俺の目で見る限り「使えます」
[ 限り、という条件をつけながら、男の声にはその目に対する自信の響きが乗る ]
命名はウェルシュ殿に頼もうかと...構いませんよね?
[ 男はウェルシュと彼の姉の間の事は知らない。それ故に、彼が本当は軍艦ではなく、姉を迎えに行ける船にこそ名付けたいだろうという配慮は働きはしなかった。
まして、ウェルシュが名付けた艦が彼の姉を狙う事になるかもしれないなどとは、想像すらしていない ]
艦隊編成については出来る限り急ぐつもりですが...恐らく提督がリオレ島に着く前に追いつくのは無理でしょう。
[ 事実を淡々と告げてから、一拍の間が空いた ]
もし...いえ、
俺がついてないからって、羽目を外しすぎないでくださいよ?
[ 結局最後に届けられた声は、殊更に軽い響きを帯びたものになった** ]
― いつかの艦上>>=3 ―
[元々、ゲオルグの率いる艦で戦闘前の宴会を開かない──という風習はなかった。そのようになったのは、タクマが常に身近にあるようになってからのことだ。
彼の歌声はそれはそれは「素晴らしい」もので、ゲオルグも初めて聞いた折には酒を思わず取り落とした。耳を塞いでも聞こえてきた響きに、遂に鼻までつまんで止めさせて大騒ぎしたのも随分昔の話である。]
なんだ、覚えてないのか?
[驚いた表情は演技ではない。
驚いた顔で彼を見遣り、そうして続く情けなさそうな顔が見返してくるのに、思わずくつくつと笑みを零した。]
なんだ…、勿体無い。
[くっくと笑う。あれは確かに特筆もので、思い出してしまえば今も軽く頭を抱える程だというのに。]
聞けば分かるだろうけどなあ。
[だが当人は酔っていて分からないのだから、仕方ない。
大体、鼻歌を歌い始めるまでのタクマは非常に楽しく酒に酔うのだ。それはもう、見ていて嬉しくなるほど気持ち良く酔う。
だからと酒を勧めて、勧めすぎると後悔する羽目になるのだが。]
───ひどいな。
歌が始まれば、俺は鼻をつまんでやる。
…まったく、声は悪くないってのに。
何故あれだけ歌えるのか、才能だな。
[また楽しげに肩を揺らす顔には、仕方ないなと書いてある。
実のところ、ゲオルグはタクマの”悪癖”が嫌いではなかった。
いや正確には聞かず済むならその方がありがたい。
ありがたいのだが、鼻歌を歌いだすタクマは本当に楽しげで、その歌を聞けば皆が賑やかに騒ぎ始めるものだから、どうもその祭りめいた陽気な雰囲気も相俟って嫌う気にはなれなかったのだ。
…もっともそうした者ばかりではないからと、やがてゲオルグの率いる艦において戦闘前の「景気づけ」は行われなくなったのだけど。]
お袋さんが?
[ふと語られる昔話>>=4
それにつと視線を向けた。
どこか穏やかに懐かしく語られる話に目を細める。
優しい思い出だと思った。そんな表情に気付いたからか、急に恥ずかしくなったとばかりに慌てる男へと笑みを深めた。
それは、からかいの笑みではなく。]
────いい、思い出だな。
[心から口にした。頷き、そして戸棚へ向け踵を返す。]
ならば今日は酔う前に聞かせてくれ。
たまにはいいだろう。
[一杯どうだとばかり、取り出した瓶を傾けてみせ*笑った*]
そうか。
それは──…良かった。
[ほっと、幾分隠しようのない安堵の響きが音に乗る。
他には聞かせられない響きであった。彼が保障するならそうであろうと、そこはそれだけの信を置いたならばこそ彼を差し向けた。
そしていかにウルケル海軍が精強を誇るとはいえ、やはり戦力をいかに調えるかは戦いの前の戦いであり、最終的な勝敗の行方を分ける大事でもある。]
船の名前を?…ああ、それは構わないが。
[ほんの短い間が空いた。少し気が逸れたのかという程度の間だ。
それは男がウェルシュをタクマよりは古くから知る故であり、しかし頷くのはウェルシュならば恐らくは手塩にかけた新造艦の命名をもきっと喜ぶだろうと思うがために。]
構わない。
それも含めてお前さんに任せた。
前線は俺に任せて、しっかりと──…
…。任せておけ。
[少し、音が途切れる。
その隙間に、こちらも音にならぬを響きに置く。
続いて少し長く吐かれた息の音は、声の響きに乗らなかった]
タクマ、
[密やかな声を投げる。
かつて、どうしても放っておけなかったと言った子ども。
恐らくは今、彼が最も気に掛けているだろう者の消息を知らせる為に]
──── シュテルン・シエルは生きていた。
[シンプルに、それのみを伝える。]
[少しの間。
彼がその言葉を受け取るだけの間を置いて、言葉を続けた。
続く音には僅かに笑みの調子が乗る。]
無事だそうだ。
顔は見ていないが、フリカデル沖封鎖作戦に同行したらしい。
タクマ。お前さんの養い子は…しぶといな。
[笑み浮かべる調子で告げるそれは、けして悪いものではない。
戦いは結局のところ殺し合いで、戦いに勝つのは常に生き残った者だけだ。
ゆえに男は、シュテルンがしぶとく生き延びたことを喜んだ。もっとも艦が沈んだ以上、彼を逃がした者の力もあったのだろうがと、これは殊更音に乗せることはしないまま。]
[ 男がその言葉を受け取り、見ぬようにと蓋をしていた胸の奥に染み込ませる間を待つように、置かれた時間が、じわりと、男の目元に僅かな色を乗せる>>=18 ]
ありがとうございます、提督。
[ 返した声は掠れも濡れもしていない。ただ、心からの感謝の響きはまぎれもなく ]
はは...あいつはあれで、気が強いですからね。
[ シュテルンが既に最前線を飛んでいるという言葉は意外でもなんでもなかった。
沈められたのは確かに彼の乗艦だった筈だ。
だとすれば、それが軍務である、という以上の意味と意志をもって、一歩も退かぬ決意を固めているだろう ]
それ、ついでで言うことですか?
[ 忘れていたとばかりに付け加えられたリオレ島到着の報告に、男は呆れた声をあげ ]
こちらも順調に艦隊編成を終えて航行中です。あとは天候と潮と...あちらさんの出方次第、といったところですね。
[ 返したのがこちらも忘れそうになっていた報告だったのだから、世話はない ]
ああそれと...ウェルシュ殿を同行しています。
本人がそう希望したので。
我が子を見送るばかりじゃ嫌、だそうですよ。
[ そのうえ付け加えたのがこの台詞だったから、或いは男の方が呆れられるに相応しいかもしれない* ]
[柔らかに緩む気配>>=20
紛れもなく喜びを含んだ声に、男の口元が弧を描いた。
彼の思いの全てを知るわけではない。
が、間近に見てきた絆の強さは理解しているつもりでいた。]
…───、なに。ウェルシュが?
[驚きの声が上がったのは、その後だ。
ストンプ領主同行の報告>>=23に意外そうな響きが返った。
しているということはもう乗っているのだろう。
些か呆れて、そうして、続く間に笑った。
ウェルシュらしい言い方だと思う。]
そうか、分かった。
… 楽しみにしている。
[それはただ再会を願うだけの言葉ではなく。
ストンプ最新鋭の艦、そして何より片腕たる男の戦線への到着を待ち望んでいると、それは言葉にすることもなくただ微笑んだ*]
[ 楽しみにしている、と、そう締めくくられた声に>>=25男は密かに笑みを零す ]
すぐに、追いつきます。
[ 音には乗らぬほどの小さなこえの調子、置かれた間、そういった事柄から、ゲオルグの気分を察することが出来るようになってから、どれほどの年月が経ったろう?
最初は、ただただ憧れ、敬愛を捧げていた海の「英雄」
だが、
他の数多の人間と同じく、悩み苦しみ、傷つきもすれば悔いも抱く...泣いたところだけはまだ、見た事がなかったけれど ]
[ 尊敬も憧れも、消えてはいない。いつか彼のように、海の如く広く自由な魂を持つ男になりたい、と、今も願っている ]
[ けれど、同時に、余りにも多くの者の命と、重い責務を追うその背を、護りたい、と男は思う。
英雄としてのゲオルグではなく、人間としての、ただ一人の絆の相手を* ]
タクマ、
[そう呼びかけて伝えるのは、受け取った情報。
シロウの飛ばした伝令の齎した情報、それに己の考えを乗せる]
ヴァンダーファルケ艦隊は出撃する。
そちらも直接、リオレ北西海域へと向かってくれ。
到着の方法は任せる。
派手にでも、好きにしてくれ。
[僅か笑み含むのは、どちらにせよ彼らが間に合わぬと思うからだ。ならばいっそのこと伏兵として扱ってしまえば良い。上手くタイミングが噛み合えば、効果的な登場になるだろうと冗談混じりにそう告げて。]
…但し。遅れたら宴会はお預けだぞ。
[つい先日、別れた折>>132の言葉を引いて笑みに落とし。
そうはなるまいとの確信を胸に口を閉ざした。]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新