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ー昨日/村内ー
なんだ?…………?
[何かいいよどむ少女に訝しげな視線を送るものの、言及することはなかった。
肉塊となったものに僅かに残っていた魔力は相手のもので、それらが元々持っていた魔力はすでに失われ、少々の魔力に紛れており
結局気づけないままだった。
それゆえ相手の死の匂いに過敏な理由もよくわからないまま、己が甘いものが苦手なように相手も死の気配が苦手なのだろうというなんとも単純な考えで自己完結してしまっていたのだった。
買い物が済めば一旦宿へと戻り、改めて荷物を整理し。休憩も軽く済ませて渓谷へと向かうのだった。]
ーそれはシェットラントと出逢う直前のことー
[どうして私がそんな目に遭う羽目になったのか分からない。
私はただ、風に誘われるままいつも通りにフラフラとしていた。
魔族とは言え年若い私は、世の中の事をあまりにも知らな過ぎた。
家族という家族もなく、自由気儘に風と共に旅をして。
そんな毎日だったのに]
[魔族だから。人間ではないから。そんな理由で私は狩りの対象となったらしい。
そう、彼らが私を嘲笑いながら言っていた。
降魔士の指示で隷魔が私を罠にかけ、魔術を封じーー私なんて魔法を封じられれば体の少し頑丈なだけの、人間の少女とそう変わらないだけの力しかなくて。
どちらに屈するか。
どちらに従うか。
そんな賭けの為に、私は弄ばれた。
死霊使いは死霊を呼び出し。
降魔士は私を罠にかけた隷魔を使い。
只管に私を辱めた。
クスクスと笑いながら。
ーー彼女たちが、同じ女性なんて、思いたくない。
ーーあの時の隷魔が同胞だなんて信じたくない。
ーー死霊なんて、以ての外だ。
私を、モノとしか見ていない彼奴らなんか。
辱め、弄び、それを楽しんで。
彼奴ら、なんか。
死んで当然だったのだ。
切り刻まれて当然だったのだ。
なのに]
なんのことだ…?
[気付いても聞こえてもいない。その言葉に訝しげな表情を返していた。悲しげな表情に困惑しても、放った言葉は戻らない。
そして、続けられた言葉とその行動に目を見開いた。首輪を嵌めた自分でなければ外せないはずのもの。少女が自分のものであるという証。
それがなければ自分は―――――――。]
シュテラ。さっき苦しんでいたのは…っ、
く………っ
[強い風が巻き起こり、それとともに砂や砂利が巻き上げられる。顔を腕で覆い、目に入らないようにしながらも、視線は少女を捕らえていた。]
――――シェルプロテクト。
[小さな声で呪文を唱え、薄く透明な防御壁を生み出す。元々自分はそれほど強い術者ではない。相手の魔力にどこまでこれが耐えてくれるかわからなかったが、ないよりはましと思えた。]
『繋がりは毀たれよ。欲望を解き放て。
闇に染まり、絶望に咽び、略奪を楽しみ、強者となれ』
…そんな声が響いてきました。
きっとアレは、私のような従属者に対する甘言だったんです。現にその言葉と共にその首輪は役に立たなくなりました。そして、私は。
ーー命を簡単に摘み取ってしまえそうな、そんな、気持ちに。
それも、あの声と同時にです。…今もそう。私が気を緩めれば、きっと狂気に囚われて貴方の命なんて簡単に。
[風は吹き荒れるものの、それでも刃へと変化することはない。
辺りの湯気は散り、視界が大分開けただろう。
溢れる涙をそのままに相手へと手を伸ばす。叶うならば防御壁に手を伸ばし、砕く為に指先に魔力を込めただろう]
ーー結局、私はモノでしか無いんですね…。
優しくしてくださるから、すっかり騙されてしまいました。
…でも、私がモノならば。
ーー貴方は私よりも脆弱な、私がいつでも命を奪える存在なんですよ?
[言葉は淡々と紡がれる。だが、溢れる涙は止まることは無い。
それでもまだ、相手を傷つける事はしなかった]
たしかに、罠だったようだな。僕たちが巻き込まれたのか狙われたのかはわからないが……
[相手の言葉に深くため息をつきながら答えた。強い風は相変わらず吹き荒れている。それはまるで、少女の心を現すかのように。
一応、と張った防御壁は少女の指先で触れられただけであっさりと砕け、パリンという硬質な音が微かに響いていた。あまりにもあっさりとそれが砕かれてしまったのは、この地に溢れる魔力によって、少女の力が増強されているから、なのかもしれない。
ただでさえ力の差がある相手に、さらに環境までが相手に味方しているとなれば勝ち目はほぼないと言っていいだろう。
あまりといえばあまりな状況に、思わず渋面となっていた。]
――……そうだな。僕はお前に比べればずっと弱い。攻撃魔法などほとんど持っていない上、魔力自体もお前の方がずっと多い。
それでも。いま、やろうと思えばすぐにでも俺を殺せる状況で、そうしないのはなぜだ?
お前は……、僕を、どうしたい。
[そう、何かに囁かれ理性を飛ばされそうになりながらも、少女は理性を保ち続け攻撃することもない。
これ以上下手に魔法を使って刺激するよりも、話し合いをした方が得策と思われた。]
なぜって。騙されていたと思ってもそれでも、貴方は優しかったから。
あんなヤツらみたいに、私を蔑ろにはしませんでした。
…だから、殺したく、ない。
[声が震える。理性を抑えるのに精一杯で、荒ぶる風を抑える事は出来ないでいた。
ぐいと乱暴に涙を拭ってもなお、更に溢れる涙。ぐしぐしと袖でそれをまた更に拭い]
私がどうしたい、と言うよりも…。
少しでも私を認めていて欲しかった。
モノではなく、個人として。
貴方だけは違うと思っていました。
…どちらに屈するか、どちらのモノになるのか。そんな賭けの後に助けられたとは言え、隷属させられモノ扱いされて本当に絶望したんです。
でも、貴方は優しかったから。
……違うと、錯覚してしまった。
[ゴウ、と風が吹き相手の足元をすくい上げようとする。それと同時に、ドンっと相手を突き飛ばした。
叶うならばそのまま、相手の腹へと馬乗りになろうとし]
でも、貴方が彼奴らと同じ、私を他者をモノとしか見ないのならば。
私も、同じところに堕ちましょうか。
この狂気を散らす為に、せめて貴方を生かす為にも。
ーー貴方が、私のモノに。
シェットラント……さま。
[暗い表情で相手を見つめる。馬乗りになれたなら、ポタポタと涙が相手に落ちていたかもしれない。
馬乗りになれなかったとて、相手の肩を両手で掴もうとはしていただろう]
[殺したくない。その言葉がどこまで本当なのか、それはわからなかった。ただ、今だ攻撃すらされてないことを思えばたしかにそれはシュテラの本心なのかもしれない。
溢れる涙をやや乱暴に拭う姿を見つめながら、ただ吹き荒れる風の中心に立つ少女を見つめる。]
助けた、というほどのことはしていない。私が見つけたときにはすでに気を失っていて、肉塊と血だまりの中で倒れるお前を浄め治癒しただけだ。
………っ?!
[話の最中、急に風の流れが変わった。足元を掬われ、よろめいた瞬間を狙い肩を押される。抵抗する間もなく、視界はぐるりと回り背中は地に着いていた。腹の上に、少女の重みと熱。
自然と見上げるかたちになりながら、まっすぐに従者だった者を見つめていた。]
そう言いながら、なぜ泣く。
僕をお前のモノにしたいのなら、そうすればいい。
僕がお前をそうしたように。…いや、自らの力によらない分、僕の方がずっと卑怯か。
[自嘲するような苦笑と言葉。相手が馬乗りになってさえ、男は抵抗しようとはしていなかった。
首輪という繋がりが断たれ、それでも新たな繋がりを求めるのなら。それに否やをとなえるつもりなど、なかった。]
[普段ならば見上げる相手の上に乗り見下ろすと、涙が相手の顔に服にポタポタと零れていった。
相手の真っ直ぐな視線に、そして何の抵抗も示さない態度に戸惑いを隠せずその目が揺らいだ。
お前のモノにしろ。その言葉にブンブンと首を横に振り]
……っ、違う!違います…。
私はただ、認めて欲しかっただけ。あんな鎖が無くても、首輪を嵌められてなくても、私はきっと貴方を護っ……た、のに。
貴方がただ私をモノとして、ずっと信じてくれなくて、首輪を外そうともしてくれなくて。
ただの友人にも、旅の仲間にもなれなくて!
それがっ、……悔しい……!
[どうにもならないものなのかもしれない。自分は魔族で、相手は人間で。より強い力を持ったこちらを相手が信じられないのも、ある事なのだろう。
普段はそれで良かった。甘んじて受け入れていた。
だが今、その心の枷はない。ないのだ。だからこそ耐えられない。
そっと相手の頬を両手で挟み込み、そっと顔を近づけた]
本当は、こんな事したいのか、私にも…分かりません。でも、でも、シェットラント様…。
[それでも。繋がりが断たれてもなお、相手への呼称は変わらない。
そっと唇を重ねようとするが、1度目は鼻先が。2度目はカチリと歯が当たり、3度目でようやく柔らかな唇同士を重ね合わせる事ができた。相手の頬に触れる手が細かに震えている。
触れ合わせるだけで直ぐに唇を離すと、相手の足の上に乗ったまま足先の方へと移動し、衣服を寛げさせようと指先を伸ばした]
[まるで、塩を含んだ雨のように。パタパタと馬乗りになった相手の両目から涙が落ちてくる。頬を滑り落ち、地面へと吸収されていく液体。少女が首を振れば、その滴は周囲に飛び散ったか。]
お前が絶対に側にいる、と何故信じられる?
人間が従わせる魔族を見下すように、魔族も人を見下す。魔力や力が弱い分、人間の方が見下されやすいだろう。
首輪もなにもなく、ただ危機に居合わせたというだけで護ってもらえるなどと思えるはずがない。
そばにいれば…その時間が長ければ…それだけ、失うことも怖くなる。
最初は…もう一度、見られれば。ただそれだけだったのに…、。
[心の叫びとも言うべき少女の言葉に、男もまた普段見せない本音を見せ始めていた。言葉を紡ぐ間、まっすぐに見つめていた瞳はわずかに揺れ、視線は下へと滑り落ちていた。相手へと告げる言葉はいつしか独白のように。
相変わらず相手の口調も呼称も従属していたときと同じものだ。相手の申告がなければ、首輪が機能していないなど、今でもわからなかっただろう。
相手の唇が寄せられ、何度かの失敗のあと口付けられた。頬に触れる手が震えるのは緊張ゆえなのか。
だが、それでも過去の、出会った原因ともいうべき出来事を思えばこれ以上はないだろうと思っていた。しかし、少女が下へと移動し衣服を脱がせようとその両手を動かしているのを見れば、さすがに押し止めようと身動きし始めていた。]
シュテラ…?なにを…………
そうですね。それを、否定しません。
その。自分より力のある相手を屈服させるのが好きだったんでしょうね、彼奴らは。
…私はそんなの、関係なかったのに。ただ、風と共に旅が出来ていれば良かったのに。
……?
もう一度、何を?見られれば良いと?
[独白に混じり、相手の言葉を拾えば訝しげに眉を寄せた。
そんな話聞いた事もなかった。思えば、旅の理由だって自分は特に聞いていなかったと思う。相手の事を何も知らないのだと思う。
今更ながらそれを痛感してはまた新たな涙がこぼれた]
……?
だって、人間は、自分のモノにする時はここを使うのでしょう?
自分のモノにしろと仰ったのは、シェットラント様、あなたです。
いけませんか?
それとも……。
[涙に濡れた目で相手を不思議そうに見つめる。下着を露わにさせたところで身じろぎされその動きを止めた。だが、ざわっと辺りの風がざわめいた]
矢張り、私のモノになるのは嫌ですか?
魔族に降るのが嫌ですか?
それとも、……私のような汚れた、汚された、女に触れられたら、汚れるから。
…イヤなんでしょう?
[声のトーンが低くなる。顔を伏せその表情は見せないものの、2人を中心に巻き上がる風が急に強まった。辺りの湯まで大きく波立ち飛沫を飛ばす。幸い、かかった湯は体に害はなく、ただ少しだけ互いの衣服を溶かしてしまっていた]
[問われた言葉は、意図的に黙殺していた。
言いたくない、と言うよりは言い辛い。言ったあとのことが怖い、と言う方が正しいだろうか。
だが、質問をあえて避けようとせずともその後に続く少女の言葉と行動に慌て、答えるどころではなかっただろう。]
そういうのは、特殊なモノたちだけだ!
[この場合のモノというのは魔族や人間等を指すのだが、相手に伝わったかどうか。]
僕も首輪を使っただろう?!
お前もそうするなり、力で屈伏させるなりすればいいと言っているんだ!………っ!
[風が、まだ一段と強くなった気がした。目の前の少女は今、とても不安定で、少しのことでも一気に魔力を暴発させる可能性があった。下手に言葉を誤魔化すのは危険。
その事を改めて痛感し、眉根を寄せる。言ったあとが怖いだとか、男のプライドが、とか。そんなことを言っている場合では、ない。]
お前に触られるのが嫌なんじゃない。
こういった行為自体が苦手なんだ。その………
昔、嘲笑われたことがあるから……
[ふい、と顔をそらした。このような行為は初めてではなかった。だが、不馴れな己は馴れた相手に散々嘲笑われ、行為は出来たもののとても苦い思い出となっていた。それゆえ相手を従属させても性処理をさせることはなかったし、させようと思ったことすらなかったのだった。
急に強まった風が衣服を濡らし、溶かす。濡れた部分が妙に寒く、自らの体を見下ろし惨状に言葉を失った。]
[相手の強い口調に、暗い影を落とした表情だったものの一瞬怯えたように震えて顔を上げた。
相手の告げる言葉。
泣きそうな顔になりながら…否、実際に涙を零しながら。濡れ、衣服が辛うじて身に纏うような状態になっていても構わずに。
震えながら相手を見つめていた。
涙は止まる事を知らない]
…でも、私はそれしか知りません!
人間を従属させる術式なんて知らない、貴方のように人間を縛る首輪もない!
力で屈しさせろと言われても…。
これだけの力の差があって。
…貴方は、私のモノになっているんですか……?
[両手で顔を覆う。どうしたら良いか分からない。
自分はただ、相手に自分と同じ傷を負わせようとしていただけなのか。
相手もまた、嘲笑われたと、傷を負っていたのに。
ひく、ひっく、と泣きじゃくる声が風の音の合間に混じる]
『ならば殺せば良いだろう?』
『手に入らないならば、壊してしまえ』
『お前は魔族だ、人間など、全て殺せ』
『そして、魔に帰るが良い』
うる……さい、です……ね……!
[少女にしては怒気を孕んだ声は、目の前の青年に向けて放たれたものではなかった。
ゆらり、立ち上がると二歩、三歩と頭を抱えながら相手から離れていく。頭に囁きかける声に、ズキズキと酷い痛みが伴っていた。
眉を顰めきつく目を閉ざし、はあっ、と震える息を吐く]
私は……、それでも、幸せだったのに!
シェットラント様と旅ができて、幸せだったのに!!
モノとしか見て貰えなくても、いつかは、信じて貰えるんじゃないかって!
いつかは、……いつか、は……。
だから、私に……。
私に、シェットラント様を殺させないで!!
『シルフィード・ステップ!!』
[短い詠唱と共に、後方に勢いよく飛ぶ。より、相手から離れるように。
ギリギリと締め付けられるような頭の痛みは限界だ。
あいてが、自分のモノにならないなら。
それを。相手を殺す理由にするくらいならば]
[ーーいっそ、じぶんが]
[ただ、最後に一言]
[サヨナラ、と]
[小さく呟かれたその言葉は届いただろうか]
[空高く飛んだ少女の周囲に生まれた無数の風の刃は、少女自身を切り刻む]
[悲鳴すら、あがらない]
[自らの風の刃でその身を、切断出来ずとも切り刻んだ少女は]
[血を滴らせながら、ドサリ、地面へと堕ちただろう]
[混乱と共にあげた声は、相手を怯ませたようだった。はっと我に返り、自己嫌悪に眉根を寄せる。そして、首輪がないという相手を再びまっすぐに見つめていた。]
……あの首輪は、魔族だけにしか使えないものじゃない。
お前が望むなら、僕につけることで従属させることも可能だろう。
……僕に売り付けた店主の言葉が正しければな。
シュテラ…
[怪しい露店商の言葉を信じるのなら、取り付けた相手は取り付けた主に服従するということだった。それは魔族であろうと人間であろうと思いのままだ、と。だご、それが本当かどうかはわからない。そう告げながら肩を竦ませていた。
涙を流し、しゃくりあげる少女を見上げ、その頬に手をあてようと腕を伸ばし。
しかし、急に怒気を孕んだ声をあげる様子に、挙げられかけた手がぴたりととまる。立ち上がり、ふらふらと後ずさっていく様子を見ながら男もゆっくりと体を起こしていた。]
シュテラ…?どうし…………、シュテラ!
[相手の紡ぐ言葉は、自分に向けられているのではないようだった。まだ、何か自分には聞こえない声が聞こえているのかもしれない。今まで何度も聞いた短い詠唱呪文が叫ばれるのを聞けば、引き留めるように相手の名前を呼んでいた。
このまま飛び去ってしまうのかもしれない。そんな思いに囚われていた。だが、事態はさらに酷いものとなっていた。]
シュテラーーーーっ!!
[自らの体を切り刻むように、少女の操る刃はその細い体に襲いかかった。糸が切れたように落下してくる体を受け止めようと走り出す。間に合え、と強く念じながら。
間に合ったにしろ間に合わなかったにしろ、その風のように軽い体を抱き起こしては回復呪文をかけようと詠唱を始めていた。]
………キュアーズ。
[柔らかな光が掌から溢れるように拡がっていく。翳した相手の体にもその光は降り注ぎ、わずかに暖かな温もりを感じられたことだろう。]
[首輪が本当に効いたのだとしても、違うと思うだろう。
違う、違う、そんな事を望んではいない。そんなんじゃない。
信じて欲しかった。
でも、どうすれば良いのか分からなかった。
…哀しい、と思う。
でも、矢張り分からないのだ。
どうすれば良かったか、なんて]
[相手に受け止めてもらえた事を、少女は知らない。
多くの血を流し気を失っていたからだ。そのまま、死んでしまうつもりだった。殺したくはないのだ。どうしても。どうあっても。
少しでも、彼によって自分は希望を見出せたのだから。
幸せ、だったのだから。
だからきっとこれは多くを望みすぎた罰なのだと。
相手の衣服も体も血に染まったかもしれない。
無数の傷口はそれでも、ゆっくりと閉じていく。この地にいた事が、幸い魔族の少女の自己治癒力そのものを高めているのだろう]
う……っ。
[全身が軋む。暖かな何かに包まれている気がした。眉を顰め小さく呻いては薄っすらと目を開きーー生きていること。そして、頭に響く声が続いている事に絶望する。
ぐっと相手を両腕で突き放そうとしたが、そもそも筋力は人間の少女のそれとほぼ変わらない、しかも全ては回復していない腕ではどれだけの力が込められていたものか]
だめ、やめてください……っ!
私は、…シェットラント様を……っ。
きず、つけ、る……。
[先程の言葉も。何より、こんな事に魔力を使ってはいけないのだ。
自分が居なければ自身で身を守らなければならないのに。
ぐっと拳を握り、ふるふると頭を振った]
…私なんかに、魔力を使うのはいけません。温存、しないと。
だから、やめてください…。
[なんとか少女を受け止めることは叶ったようだった。頭上から落ちてくる少女を辛うじて受けとめると、その場に膝をつき少女を支える。明らかに回復呪文だけではない治癒速度で、少女の傷は回復していく。
回復呪文を何度か続けてかけると、少女は息をふきかえしたように小さな呻き声をあげた。小さく安堵の息をはいては、じっと少女の顔を覗きこむ。]
よかった……、シュテラ……。
お前が僕を傷つけたことなど、一度もない。
首輪が外れていてさえ。
それに……僕はまだお前に従わされてはいないから、僕の好きにさせてもらう。
[傷つける。そうはいいながらも、未だ一度もやいばを向けられてはいないのだ。
それが少女の理性によるものだとしても、男を傷つけるよりも自分を傷つけることを選んだことを思えば、やはりこれでいいのだろうと思えた。]
僕は、お前を置いていく気はない。二人でここから出るんだ。
どうしたいかわからないなら、これからゆっくり考えればいい。
[生きて、帰ることができたのなら。その言葉は口にはできなかった。正直、二人生きてここから出られる確率はかなり低いと思われた。それでも絶望を口にすることはなく。ただ、言葉少なに、相手へと語りかけていた。]
[良かった。そう言ってくれる相手]
[そして、脳裏に響く暗い声]
ダメ、いや、やだ……!
[譫言のように呟いては頭をイヤイヤと幼子のように振っていた。
しかし今は自身が弱っているからか、魔力が回復していないからか、弱い風が辺りの湯気を軽く散らすのみである]
考え、られないん、です……。
怖い、この声は、狂わせる……私を……。
手に入らなければ殺せって、奪えって、……いやっ、や、だ、…!
[魔力が回復しきっていないのが幸いだろう。それは攻撃的な風に変わることは無いが、弱り切った少女は青年の腕の中で小さくなり頭を抱え込む。
2人で抜けるにしても。
この声の影響は強すぎた。ただ只管小さくなり涙を零し耐える少女が]
[果たしてこのまま、いつまで保つものなのかーー]
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