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運動場へ行こうなどと贅沢は言わないな?
危険はこんな日常の続きに潜んでいるものだ。
[“小鴉”と揃いで誂えた黒鞘からナイフを抜く。
刃引きなどしていない真剣である。]
場外はなしだ。
抵抗できなくなったら好き放題するぞ。
― 回想:6年前/帝都 ―
[抜かれた短剣を目にして短く息を呑む。
未だ真剣を手にした相手と正面から向かい合ったことはない。
ない、が。]
…構いませんよ。ここで。
あなたがけがをしたりしないかだけが心配ですが。
[平静を装って嘯く。]
場外無しはいいですが、
好き放題とはなんです、かっ
[会話の途中から真っ直ぐ踏み込んで最短距離でナイフを突きだす。
開始の合図も、試合前の礼もない。
あなたが「日常の続き」と言ったのです、とばかりに。]
― 回想:6年前/帝都 ―
[白刃を前にしてルートヴィヒが息を呑むのがわかる。
そこに見出しているのは自分が場に乗せようとしている感情だぞ、と心のうちで思う。
恐怖か、不安か、焦りか、沈着か、苛立ちか──刹那、真っすぐに銀光が突き出される。]
好し。
[悠長にお願いしますなどと頭を下げていたら、こちらから先手を繰り出すつもりだった。
突きの狙いをずらすべく、ナイフを握ったルートヴィヒの腕に左手を添え、踏み込んでくる身体に向って無造作に足をあげる。相手の勢いを利用した前蹴りであった。]
― 回想:6年前/帝都 ―
[突き出した手が捌かれる。
それと同時に足が伸びてくるのが見えた。
咄嗟に腰を落として左腕を出し、上から受けに行く。]
……っ。
[痺れるような衝撃が前腕中心から肘にかけてを襲ったが、歯を噛みしめて堪え、立ち上がる勢いを加えて今度は彼の左わき腹を狙って斜めに切り上げた。]
― 現代 ―
[ゲオルグとの会談を終え、彼の自宅に招かれる。
穏やかな歓待を受け、部屋に通されて一息ついて、
寄ってきた猫を撫でながら、意識を遠くへ飛ばした。]
終わりましたよ、トール。
ウルケルとは3つほど条約を結ぶことになりそうです。
人の交流もこれから積極的に行えるでしょう。
ああそれと、
ゲオルグ・ヒューベンタールは執政に就いたようです。
今後一年間は、彼だけを相手にできます。
[会談の様子や成果を詳しく伝えて聞かせる。]
─── それと、
この戦い、公式にも帝国の敗北として記録いたします。
[最後にぽろりと重要事項を付け加えた。]
― 回想:6年前/帝都 ―
[ルートヴィヒの身体が沈み込んで蹴りを左腕で止める。]
お、
[洩らした声は、ルートヴィヒの堅持を認めてのものだ。
非力ゆえに受け流すだろうと思っていたが──跳ね返し立ち上がって反撃する姿に、好しと頷く。
自身は、ルートヴィヒの勢いを利用して後ろ宙返りで距離をとった。
振り抜かれた一閃を躱し、左の手刀でルートヴィヒの手首を狙う。]
― 現代 ―
[ルートヴィヒの”声”を聞いたのは、帝都へ向う複葉機の中だった。
もろもろの報告はさておき、最後に付け加えられた”重要事項”に眉根を寄せる。>>*17]
それは、降伏文書に調印するということか?
協議停戦を経ての条約締結ではダメな理由を説明しろ。
― 回想:6年前/帝都 ―
く……、
[切り上げた手を打たれて、衝撃と痛みが手首から肘までを走り抜ける。
力の抜けた指からナイフが零れ落ちたが、それを追うことも、打たれた手首を押さえることもしなかった。
不十分な体勢のまま、ともかく足だけは前に出す。
右肩から、乗せられるだけの体重を乗せてぶつかっていった。]
― 回想:6年前/帝都 ―
[あくまでも戦うことを諦めない、そんなルートヴィヒの全力を受け止めて床に倒れ込む。]
って…!
今日はここまで、だっ
― 現代 ―
["重要事項"に関するトールの反応は想定済みだった。
なので、笑みを崩さないままに理由を並べる。]
降伏は致しません。
敗北を認めたうえで、
相手側からの停戦要請に応じる形を取ります。
[協議停戦ではあるが、前提として敗北を認めるのだとまずは説明する。]
我が方が敗北を認めることで、ウルケルの民の不満をひとつ減らすことができます。
また賠償金を支払うことで、金にうるさい連中を黙らせることもできます。
あなた方は勝ったのだと示すことで、ウルケルの民の自尊心を損なうことなく、海峡を開くことに対する負の感情を減らすことができるでしょう。
[ここまでは、ゲオルグにも語った内容だった。
勝ったのだからと海峡を開くことを渋る声も出るだろうが、そこはゲオルグの手腕に期待しておく。]
そして、この戦いでの敗北を認めることは、今後の帝国にとっても有益な効果をもたらします。
[ここからは、交渉の中では語られなかったことだ。]
一つ目は、帝国が敗戦を経てさえも強力な同盟国を得るような、強かな国であると周辺諸国に印象づけられることです。
これまでの我々は、こと、あなたの代になってからは敗戦を知らぬ国でした。
周辺諸国は、手痛い敗北を喫すれば勢いが落ちるに違いないと予測していた節があります。
今回の結果は、その予測を覆すものとなるでしょう。
二つ目は、既存の領土、植民地の地盤固めができることです。
我々が敗北したと知って、叛意を抱く者が必ず現れます。
今であればあなたを討って、帝国に打撃を与えられると考える軽率で愚かな領主が、一人や二人は出るでしょう。
それを討ってしまってください。
そうすれば国内の害毒を洗い流せますし、帝国はやはり敵に回すべきではないと国内外に印象付けることができます。
以上が理由ですが、
なにかまだ他に理由が必要ですか?
[しれっとした顔で問うが、]
─── 一番の理由は、
私が気持ち悪いと思ったからですね。
"決戦"は、…まあ引き分けといたしますが、
[時間さえあれば、折れぬ心は最後まで押し通っていただろうからと認める]
客観的に見て、損害数損耗率共に帝国の方が上です。
だから私は、確かに敗戦だと認めておきたいのです。
二度と、このような無様な戦いを繰り返さぬよう
戒めとして。
あなたに次なる勝利をもたらすための
自省の糧として。
私たちは、認めるべきです。
この敗戦を。繰り返してはならぬものとして。
― 回想:6年前/帝都 ―
[体当たりの勢いのままもろともに倒れこんで、床の上に転がった。>>*21
ここまで、との声を聞いて起き上がろうと床に手をつき、痛みに呻いて今度は仰向けに寝転がる。]
それは、私の勝ちを認める、ということでいいですか?
[荒い息を吐きながらも、笑みを浮かべて問うた。
あれほどの短い立ち合いだったにも関わらず全身がひどく疲れているのは、真剣を前にして強張った身体を無理に動かしたからだろうし、まともに打撃を受けた両の腕はきっと後で腫れるだろう。
けれども、態度ばかりは不敵を通した。]
― 現代 ―
おまえらしい潔癖さと計算だな。
俺は、おまえの理屈を否定する材料を持たない。
降伏するわけではないなら、呑める。
だが、その上で、俺の考えを言っておく。
「勝てなかった」と「敗北」は別物だ。
対ウルケルの利は、ウルケルが「勝った」と自覚するだけで達成できるものだ。
公的に認める必要はない。
逆に、認めることで「敗北」を歴史に刻まれた帝国臣民には傷が残る。
その代償は永続的だ。
また、植民地の独立の気運をあえて誘い、戦争を起こす必要を俺は感じない。
軽率な連中は武力蜂起する前に潰す。
俺は、世界の海をひとつにするためにウルケルに戦争も辞さず挑んだ。
だが、国内の害毒を洗い流すために戦争をしたいとは思っていない。
俺たちの望んだ未来は──もっと輝かしい。
違うか?
帝国は「勝てなかった」が、「敗北はしていない」
正しいか過ちかの問題ではない。
俺の自省を促すのに、公的文書は不要なことは言うまでもない。
両立は可能だ。
[無理を言うのも扶翼相手ならではのこと。]
― 回想:6年前/帝都 ―
[荒い息を吐くルートヴィヒの不敵な笑顔が清々しい。]
技ありくらい。
[もう少し堪能していたかったけれど──と跳ね起きる。
と、不意に数人の人影が周囲をとりかこんだ。
顔は布で覆われているが、いずれも筋骨逞しく、手に武器を持っている。]
言っておくが、これは稽古ではない。
[ルートヴィヒを引き起こして宣言し、背中合わせに立つ。*]
― 現代 ―
─── ……。
[トールの言葉に、暫しの沈黙を以て応える。
不服だったのではない。
ただ、言葉が出なかったのだ。]
……陛下。
[ややあっての言葉は、改まったもの。]
あなたはまことの王、
まことの太陽です。
[国の民を、国の未来を見つめる目に、一点の曇りもない。
彼が指し示す道は、輝きに満ちている。]
───…私は、太陽を地に落としてしまうところでした。
ええ。あなたに敗北は似合いません。
結果だけ、心の中にあればいい。
[素直に誤りを認め、威に伏したように、頭を下げる。
その姿勢とは逆に、胸に湧き上がるのは高揚だった。
この人が作る未来を、もたらす世界を見てみたい。
共に、どこまでも飛んでいきたい。]
御心のままに、
[彼の意思を形にするためにこそ、
自分は存在しているのだから。]
……では、帝国の公式記録には、艦隊決戦を経て講和とのみ記しておきましよう。
ウルケルに支払う金銭も、戦時賠償金ではなく損害補償金の名目にしておきます。
[事務手続きの書き換えをさらりと告げたのち、
ひとつ、息を落とす。]
─── はやく、あなたに会いたいですね。
ほんの少し離れているだけで、
こんなにも揺らいでしまうのですから。
[ぽつ、と零した。]
― 回想:6年前/帝都 ―
… 点が辛いですねえ。
[顔をしかめたのは、技あり判定に文句を言いたいからではなく]
───…まったく。
無粋な連中です。
[こんな時くらい大人しくしていられないものか。
引き起こされながら、囲む相手の人数を数える。]
[正直に言えば、今の自分は足手まといだろう。
いざとなれば囮になって彼を逃がして、後で迎えに来てもらおう。
そんな思考もよぎるけれど、
───結局、彼に引っ張られて
どこまでも付いていくことになるんだろう。
そう考えると、少し*楽しくなってきた*]
― 現代 ―
[ルートヴィヒの感服の態度は世辞に非ず。
その熱が伝わってくる。
「御心のままに、
おまえにしかできないことだ。
成し遂げよ。
[負傷をおして交渉に当たっているだろう腹心に今、手を伸ばしてやることはできないけれど。]
おまえの帰る場所はここにある──待っているぞ。
[翼ある太陽の刻印に手を重ねた。*]
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