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私は…また…生き残ってしまったよ。
[処刑どころでは無かったから、生き延びた事は
喜ばしい筈なのに。
その声は苦痛に満ちて白い闇に響く]
カタリナ……?
[思わず名を呼んだが、当然返る聲は無く。
人狼の中にある、お伽噺の神聖な狼だと気付くまでどれだけ掛かったか]
カタリナ。
[確かめるようにもう一度名を呼んだ。
やはり聲は返らない**]
― 深夜 ―
[傷付いた錆色の狼はひたすら戦っていた]
カタリナを告発すれば。
自分は助かるかもしれない。
罪を持たない。
赦された狼を。
生贄にしてでも生き残る価値がある?
あれは神聖な狼。
仲間を指した男を護った敵。
それでも。
大切な…村の一員なのだ。
[予期せぬ月色の狼を見た衝撃と。
僅かだが牙を濡らした同胞の血と。
傷付いた痛みが、ただの獣に落ちようとする意識を繋ぎ止める]
なぁ、ルビー、ボルドー…ブラッド…私は…私は。
[痛みは絶える事は無いが、数度の深呼吸で
多少マシになったように思えた。
震えそうな脚を叩き、呑まれそうな意識を叱咤し立ち上がる]
良かったな、ルビー、ボルドー。
リーザはお前達を悪い人狼だとは思ってないそうだ。
[牙の通らぬ…相容れぬ存在なのにな。
静かに赤い虚空へと聲を投げて]
静かに…暮らせたら…どんなに良かったかな…。
[緩慢な歩みで進む宿の中、
笑い声と共に駆け抜ける幻を視た]
ディーター…。
[フリーデルと共に駆けて行くディーター。
また悪戯をして大人に怒られているのだろう。
フリーデルは楽しそうに、ディーターは半泣きに見えた]
[そしてまた新しい声が談話室から聴こえてくる]
ああ、あれはヨアヒムとヤコブか。
[新しい画材を買って貰って、喜んでいるヨアヒムと。
そのモデルをやっていたヤコブ]
まだ子供だったか…あの時は…。
[子供達の笑い声に混じってレジーナの笑い声も聴こえた。
ここは、幸せの詰まった場所だった]
[不思議とゲルトへの憎悪や怒りはもう沸かなかった。
判っていたからだ。
誰よりその憎悪と怒りをぶつけたかったは、自分自身と言う事に。
ただ、自分の心の平穏の為に誰かを恨み、殺したかっただけだ]
[飢餓や渇きが丁度よく自分の心と溶けあって
ゲルトを襲っただけだ。
それを覚ましてくれたのはカタリナだった。
御伽噺の人狼でも更に御伽噺の存在。
人を餌では無く、護るべき存在だと信じ、道を別った同族。
本当にいたのだ。
恐らく人間が人狼を見て、そう思うのと同じ様に]
そうやって…生きていけるなら…私は今迄…。
[カタリナの母と娘の運命を知る事は無い。
だが、人を襲わずに護り続けて生きていける事が出来るなら。
ヨアヒムやディーターが、自分では無く、カタリナと出会えていたら]
[どれだけ考えても…過去は変わらない。
変わらないからこそ、考え続けて]
お前達に…もっと違った未来を見せてやれなくて…。
本当にすまなかった。
[彼らに言えるのはそれしかなかった]
私の役に立つとしたら…ルビーとボルドーが
笑っていられる様に…傍にいて貰う位しか無くてな。
[聲が届いたら文句を言われそうだが。
返って来ないからこそ、好き放題に口にする。
その口元に、少し寂しげな笑みを浮かべ]
[一歩、一歩処刑台へ歩く。
不思議と怖さは無かった。いや。
出血と寒さから来る疲労と痛みで。
まだ暴れたいと、生きたいと吼える獣を抑え付けるのに
必死でそんな余裕は無かっただけだろう]
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