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− 現代 −
帝都のことだが──
宰相──義兄はよくやってくれている。
が、姉の動向がいささか不穏だ。
[帝都の”小鴉”からの報告を、ルートヴィヒに伝える。]
件の芸人だか俳優だかのパトロンになって、ご寵愛ぶりが甚だしいと。
姉は父のもとで政略結婚の駒に使われて、不憫ではあるんだが。
複葉機のとんぼ返りで釘を刺しに行くくらいで片付けばいいが、どうも長引きそうな予感がする。
決戦は、我らにとっても必要だ。
− シコン アンティーヴ邸 −
[後刻、ルートヴィヒのもとに顔を出す。]
まだ起きてるだろうと思ってな。
[トレーに乗せてきたティーセットをサイドテーブルに乗せ、手ずから注ぐ。]
ジンジャーと蜂蜜とレモン、どれ混ぜる。
あと、林檎を切ってやろう。
海に落ちたなら、身体を温めないと。
おまえは俺ほど頑丈にできていないんだから。
― シコン アンティーヴ邸 ―
ああ───
あの御方にも、困ったものですね。
[伝えられる宮殿内部の事情に嘆息する。]
ご寵愛なさるだけならいくらでもお好きにしていただければいいのですが、それ以上となると。
───確かに。これ以上長引かせるわけにはいきませんね。
[早く片付けないと足元が危うい。]
― シコン アンティーヴ邸/後刻 ―
[深更に誓い時刻まで書類に向かっていたら、扉が開かれた。
ティーセット持参のトールを招き入れて、一度デスクから離れる。]
あなたがそんな優しいことを言うなんて、
どんな風の吹きまわしですか?
…ジンジャーと蜂蜜がいいですね。
蜂蜜はたっぷりで。
[海に落ちたことも、身体が頑丈にできていないことも反論しようがないので、そこは黙って受け入れる。]
― シコン アンティーヴ邸/後刻 ―
いつも通りだろ。
したいようにしているだけだ。
[キャンプで飯を作ったりはするので、手際はいい。
が、味と量に関しては繊細さを求めてはいけない。
その場でザクザクとスライスした生姜を投入した上に、たっぷりと言われたので、制止されるまでハニーホッドを傾ける。]
釣りを諦めて、素潜り漁に転向したか?
[作業に集中しているふりをしていたが、やはり聞いてしまう。]
― シコン アンティーヴ邸/後刻 ―
ええ、確かに。
[いつも通りだというトールに笑って答える。
蜂蜜は、かなりたっぷり入れてもらった。
そんなトールの手元を見ていたら、問いが飛んでくる。]
素潜りで、何か獲れるとも思いませんが…
[冗談めかした言葉を、途中で止めた。]
─── 会いに行く、と約束したひとが、
結局、会わないままに、いってしまったんです。
[捨てそびれ、また懐にしまったドッグタグを引き出して、手の中で弄ぶ。]
思った時に会いに行けばよかったと。
アイグル少佐の時も同じことを思ったのに、
続けざまで、 少し …
[後悔がいくつも重なって、苦しくなったのだと息を吐く。]
― シコン アンティーヴ邸/後刻(葬儀前夜) ―
[ルートヴィヒの吐息が紅茶の湯気を乱す。
その掌でかすかに光を反射する金属片。]
運命は時に意地悪だ。
おまえでも計算できないことは、ある。
…泣くか?
― シコン アンティーヴ邸/後刻(葬儀前夜) ―
泣きませんよ。
そんな恥ずかしいこと。
── 雨に打たれてきましたから、もういいんです。
[視線を落としたまま、首を横に振る。]
……あなたのことに関してだけは、
なにひとつ後悔しないように、したいですね。
[ぽつりぽつりと、そう呟いた。]
― シコン アンティーヴ邸/後刻(葬儀前夜) ―
ああ、
何をどれだけ失おうと、傷つこうと、
おまえは俺のために生きていていい。
俺は太陽だ。
おまえひとりのために生きてやれはしないが、
おまえだけを住まわせている場所が、ある。
― シコン アンティーヴ邸/後刻(葬儀前夜) ―
[トールの言葉に顔を上げた。
青天の太陽が目の前に降りてきた心地がして、目を細める。]
─── はい。
あなたのために、これからも、
生きていけることが、嬉し い …
[彼の存在に、彼の言葉に、体が熱くなる。
ついでに目頭まで熱くなって、慌てて顔を伏せた。]
− 現代 − >>146
好きだったり気になったりしているのにツンケンするのも嘘のうちだと思わないか?
― 現代 ―
その間と笑みが不穏なんだ。
何が改まって「陛下」などと。
[こちらも、いつも通りの調子で揶揄う。]
― 回想:9年前/帝都 ―
[家を継ぐのはやめます、と宣言された。
そういう選択肢を考えたこともなかったアレクトールは目をしばたたく。]
おまえが俺専用に? 思い切った賭けだな。
[声が弾む。脈が早打つ。]
ああ、昼寝つきは保証できないが、同じ釜のパンを一緒に食おう。
実家にいるよりもおまえの才が発揮できる場を用意してやる。
[リストの末尾に自分の名を書くつもりなのかと手元を覗き込む。]
― 回想:9年前/帝 ―都
商家の仕事より、あなたといる方が面白そうですから。
[これまで、家の仕事を継ぐのだと当然のように思ってきた。
その未来予想図がこうも短時間で覆るとは、自分でも信じがたい。
多感な15の年に出会った刺激的な出来事と相手に惑わされているだけかもしれない。安定した道と両親の期待を捨ててしまう愚かな選択かもしれない。
けれども、こうするべきだと魂が囁く。
触れ合った熱さが、新たな道を指し示す。]
あなたが作る国を、間近で見てみたい。
[だから共に行くのだと宣言する。]
…どうしました?
[手元を覗きこまれて、不審の目を向ける。
ペンを置いて、インクの乾きを確かめ、
自分の名は書き加えぬままにリストを懐に入れた。
そこでようやく、トールの疑問に思い至る。]
別に私はここには加わりませんよ。
[当たり前だという顔をトールに向ける。]
象徴もなにもなくとも、
私は、あなたと繋がっていますから。
― 回想:9年前/帝都 ―
[「あなたが作る国」とルートヴィヒは言った。]
ああ、
俺はいずれ帝国を”受け継ぐ”だろう。
そこから先を生み出すには、おまえがまだ足を踏み入れたことのない地まで連れて行ってやらないとならないか。
大仕事だな。
だが──見せてやる。 俺を扶けよ。
[海峡の彼方へ向かう意志は、この時、確かに蒔かれたのだ。]
[そんな誓いを交わしたルートヴィヒは”仲間”には加わらないと言う。
出自の違いを気にしているわけではなかろう。]
繋がっている──確かにな。
[遠くに居ても感じる熱と声。情。
それは特別なものだ。 けれど、]
おまえが、こういうものがあれば絆がより強くなると言ったのだから、
俺はおまえと
それも──牢に入れられようと取り上げられぬものを。
[誂えられた黒革の短剣をルートヴィヒの胸に擬した。]
― 回想:9年前/帝都 ―
あなたは、"受け継ぐ"だけで満足はしないでしょう?
きっとあなたは何かをする。
新しい、おおきなことを。
私は、それを見たい。
[未来への種を、共に握りしめ]
─── はい。
私は、あなたの翼になってみせましょう。
あなたを高みへ駆け昇らせる力に。
[誓うように告げる。]
[取り上げられぬ証が欲しい、と短剣を向けられて、
困ったようにしばらくその切っ先を見つめた。]
…… 痛いのは好きじゃないんですよ?
[文句を言いながらも、服の前を開く。
空気に晒された躰は、ここ暫くトールに連れまわされて多少は鍛えられたものの、年相応に細くなよやかだ。
一点の曇りもない白い膚は、新雪の風情を宿していた。]
― 回想:9年前/帝都 ―
[文句を言いながらも晒される肌は透けるような白さだった。
穢すのは惜しい、と同時に、嬉しいと思う。]
一緒に、だ。
おまえはあまり身体が丈夫ではないから、キツいかもしれないが。
ちゃんとした師に彫ってもらおう。
俺とおまえの絆の象──何がいい。
[誰にも奪えない、なくしたりしない。秘密をそっと身体に刻む。]
― 回想:9年前/帝都 ―
[どうやらトールはここで無茶をするつもりはないらしい。
止血をどうするか、まで考えて構えていた身体から力が抜ける。
と同時に、そんな無茶も受ける気だった自分に驚愕した。]
……絆の象、ですか?
[いささか疲れた気持ちを取り繕いながら、首をひねる。
程なくしてペンを手に取ると、紙の上にさらりと滑らせた。]
こういうのは、どうですか?
[示してみせたのは、翼の生えた太陽の図柄。
胸に感じた熱さをそのまま絵にしたら、こうなったのだ。]
― 現代 ―
なかなか船の釣りもうまくいかないものですね。
[ぼやく口調で声を飛ばす。]
例の小型戦艦がそちらへ向かっています。
すぐに追いつくつもりですが、気を付けてください。
― 現代 ―
食えんシロモノだ、そう残念がるな。
[別状のない声に安堵して、息をつく。]
ああ、確かに早いしコンパクトな戦艦だ。
実検しておく。
― 回想:9年前/帝都 ―
[服の前をそのままにペンを執ったルートヴィヒは、紙の上にインスピレーションを残す。]
ああ、 これだ。
[自分にも、ビジョンが見えた。
デッサンを半分に折り、ルートヴィヒに対しては振るわずにおいた刃でカットする。
片翼の半円がふたつ。太陽で月で未来を向く横顔で比翼。]
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