情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新
[そうしていくらか、馬が森の奥へたどり着くほどの時間のあと、
湿り気の残る声が意識を渡る。]
エディが死んだ。
見事な、最期だった。
『我が主の征く道を王城に繋げる』
そう言っていたと聞いた。
[低い声だった。
けれども、凝り固まっていた重石を脱ぎ捨てたあとの、
しなやかな強さが声に戻っていた。]
…… 俺のために大勢を死なせた。
大事な、友も死なせた。
それは、こんなにも辛いことだと
覚悟していたよりもずっと辛いことだったと、
思い知らされた。
[淡々とした述懐が流れていく。]
けれども俺にはおまえたちがいる。
支えてくれて、案じてくれるものがいる。
俺を信じてくれる大勢のものたちがいる。
これは、とても幸せなことだ。
ありがたいと、思っている。
[それを感じた瞬間、打ち寄せるのは安堵の想いだ。
泣けること、悲しめること。…心を自由に解き放てること。
それもまた、強さなのだ。
そう教えてやれれば良かったのだけれども。
それをそのままは教えそびれていたのかも知れない。
……けど。
やはりこの子は得ていたのだ、と。
それは心であったり心許せる仲間であったり───…
すぐに、こう。と言えるものではないのだけれども。]
[もっとずっと昔。
初めてこの場所で寝転がった時のことを思い出す。
星空は、あの時もまったく同じだった。
推し包むような、自分の小ささを教えてくれるような、
圧倒的な存在感で輝いていた。
ずっと空を見上げることなんてしていなかった。
その間にも、星空はずっと頭上にあっただろう。
改めて見上げるそれに、息を呑む。]
[星空に奪われた心に、チャールズの言葉が染み透る。
泣いても笑っても、弱さを見せても構わないと。]
父上も、泣いたのか?
[強くて、大きかった父。
その背中をずっと見上げていた父。
その父が泣く姿など想像できなくて、目を見開く。]
[そんな父も泣いていたのなら、
自分が、泣いてもいいのなら。
愛していた、大切にしていたと語る手が頭を撫でる。
その感触が懐かしくて温かくて胸が苦しくて、
細い月がなぜか、ぼやけた満月に見えた。]*
…───── っ …
[エディが死んだ。
その言葉が響いたのは、未だ森の奥に至るよりも前のこと。
思いがけない言葉に息が詰まった。
そうして得心する。若き主の、この様子に。]
我が主の征く道を……、
[音をなぞるように繰り返す。
馬鹿な。立派なことを言うようになって。
馬鹿な。
…───まだ、早い。早すぎる──… ]
──── 堪えますな。
[ぽつ。と、置くのは己の感慨。
悲しみを共有するような、静かな音が揺れる。]
堪えますなあ…。…、いい、若者でした。
ダンクラード様と一緒に、良く叱りつけましたな。
[元気な悪戯っ子二人並べて、良く雷も落としたものだ。
他愛もないそんな思い出も、今は全てが懐かしい。]
……、ふ。
しかしダンクラード様、
( つよく、なられましたな。 )
[同時に。ほんのりと嬉しいような思いが心を満たす。
悲しみに拉がれるのではなく、受け止めるしなやかな強さを。
健やかな強さを、これほどまでに身につけていたのだと。
そう思えば嬉しくも、また思う。]
我らもそろそろ、年でしてなあ…
[ちゃっかりマーティンを巻き込んだ。
年下の弟分ひっくるめてそんな風に口にして、微かな笑みを声に乗せる。]
あまり、無理させんで下されよ。
[彼のためなら二人とも喜んで無理でも苦労でもするというのに。
わざとこんなことを言って、少し音を切り、]
───── 分かりました。
… 年寄りの涙は、また別に取っておきましょう。
[古い話を持ち出して、茶目っけ混じりに言い返した*]
お前さんの自由さが。
ディーン様…いや。
ダンクラード様と森で出会い、魂響かせあってみせたお前が。
その在りようが、儂は少し羨ましかった。
[告げて、またくつりと笑う。]
……なんだ、その顔は。
儂がいつでも自信満々にでも見えたか?
──── まさか。
そんなことがないことくらい、お前にも分かるだろう。
…若いもんが思うほど、年は大きな助けにはならんことをな。
[そうだろう、と。
自分よりは若い、けれど年重ねてある弟分に目を眇める。
口元には淡く笑み湛えたまま、つと視線を逸らして]
マーティ、
… もうじきだ。
[視線は手にしたジョッキへと向けられた。
薄暗い光弾くそれに何を見るのか、じっとそれを見つめて軽く宙へと掲げ]
もうじき、儂らの夢が叶う。
我らの夢が───…
…──── 現実になる。
[それは若き主を指すのだと、弟分には通じるだろう。
彼が、自分が、男らが心捧げる若き狼が。
遂にしなやかに力強く、この大地へと吼え声をあげる。
その姿を見ることが、───追うことが、自分たちの夢だった。
弟分へと聞いたことはない。
けれどそうだろうと、語る視線のみは再び彼へと流れ]
なあ、マーティ。約束しようではないか。
我らはこれから命賭ける勝負へ赴く。
未来の為に。ラモーラルの為に。
…ダンクラード様の為に。
愉快な勝負じゃないか。なあ?
だから約束しようじゃないか兄弟。
我ら───…どちらが欠けようと落ちようと、
いや、二人ながらに力振るいて、この大地に尽きようとも、
嘆くことはない。
…───共に、力振るえたこと。
駆け抜けたことを、祝おうじゃないか。……なあ?
[酒傾けながら語った言葉に、マーティンはどう答えたか。
その夜は強かに飲んだ。愉快な、とても愉快な酒だった*]
儂の誇りは貴方ですぞ。
ダンクラード様、
… よう、大きくなりなされた。
[心からの誇らしさと喜びと。
それを直接、心に響かせ。]
― 夜:キュベルドンの森 (回想) ―
[直接心響かせる言葉。>>*46
チャールズを案じる無防備な心に、それは案外大きく響き]
…ば、馬鹿。
───おまえの、おかげだ。
[口ごもるように、不器用に、
"父親"への感謝を紡いだ]*
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新