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― モーリスへの道中 ―
[ マントを口元にあて、咳き込んだ。
吐きだされた血の量を見て、眉を顰める。
時間がない。
早く、世界を支配せねばならない。
誰も門に近づかないようにするのだ。
もう誰にも頼らない。誰にも期待などしない。
テオドールが、やらねばならぬのだ。 ]
[ 伝令がひと段落吸すると、
テオドールは馬車に誰も近づけないように伝え、
愛剣を抱いて、少しだけ眠った。
補整が完全でない道で、車輪が石を噛む度、
ハッとして目覚め、またとろとろと眠った。
冷たく色の薄い目が閉じられている時の魔王は、
ただの疲れた壮年の男だった。
寄せ続けた眉間は、眠っていてもなお皺の痕が残り、
目元や口元にも、年齢が刻まれていた。
整えられていない無精ひげが、呼吸に揺れた。 ]
―人間がこれから必ず犯す罪―
[テオドールの目的。それは、人間の支配だ。
――冷酷無慈悲に人間を殺し、このグラムワーグ大陸を支配することを目的とする魔王。
彼が”鍵”を求めるのは、魔物を解放し目的遂行の手段とする為であるかに見えよう。
…だが、実際は。]
“門”の守護者に、なること…>>*3:2
[明かされた真の目的。それは、この世界そのものの救済。
――彼が何のためにこのような行いをしているのか、この時間軸の誰も知りはしない。
近い将来、必ず起こる世界の終末…誰かを止めても、また他の誰かが、門を、開く。>>*3:3]
[ヤコブは毎回、門を閉じることに失敗したという。
門を閉じることができないのなら?
…最悪、門が開かなければそれでいい。
かつて交わした約束。
テオドールが、ヤコブとした約束。>>*4>>*5
彼が生まれたのは3年前の春嵐の日。
1周目のその日に、生を受けた。
…思い出すのは、嬉しそうな声をあげる少年と両親の夢。
若く見えた父親は、テオドールに――ヤコブに、よく似ていた。]
[一つの仮説が浮かぶ。
“鍵”を使うことに失敗したヤコブは、
息子であるテオドールに全てを託した。
『人間に門を開けさせるな』
……しかし結果としてテオドールは、世界の終わりを目の当たりにしたのだろう。
ヤコブとの大切な約束を果たすため。この世界に生きる全ての者の未来を繋ぐため。
この広い世、いつ、どこの誰が犯すともわからぬ取り返しのつかない罪を阻止せんと、7度も同じ刻を繰り返している…
その重大な責任をただ独り、背に負って。]
[自分は弱い人間だと思う。
大切な人を失った。ただそれだけで世界を呪わんばかりだった。
しかしそれは、テオドールが直面した出来事に比べればなんと小さなものだろう。
6度繰り返された絶望と孤独。
その先に、彼は更なる孤独を選ぶ。選ばざるを得ない。
目の前の男は自らを犠牲にして、
この世界の誰にも理解されず、悪と呼ばれようとも、
その道を貫き通そうとする、そんな強さを持つ人間だった。]
[世界を救うために。
ヤコブとの約束を果たすために。
…そのための手段は、きっと間違っている。
けれど、6度も過去に戻り、尽くせる手を尽くした末の結果だろうとも思う。
だから否定できない。
経緯を知らぬイングリッドには、
彼の選択を否定する権利が、ない。]
[全てを知ってしまった。
テオドールが嘘をつくはずもない。
もうこれしか手が残されていないのだとしたら、
…協力するほか、ないではないか。
今までの時間遡行、彼の努力、その人生を無駄にするわけにはいかない。
テオドールが、永久的に人類を支配する未来を…なんとしてもこの時間軸で実現させる。
しかし、それは――…]
[…結果として。
これからも傍に――その願いは許された。>>*13
そして、この先も女として扱うつもりがないと言い渡され、
イングリッドもそれを受け入れた。>>*16
――テオドールの為に戦う。
この命が尽きるその時まで、と。
……小さく、微笑み返した。]
何かあれば、いつでも仰ってくださいね。
…たとえこの身は離れていても、心だけはお傍に。
[かける言葉は以前と同じもの。
――部下としてお慕いしている。それでいい。]**
ああ。
お前の能力と、情報収集力は貴重なものだ。
頼りにしている。
[ イングリッドの方は見ずに、そう言った。 ]
……俺の幸せか。
[ ベリアンの去った馬車内で、ふとつぶやく。 ]
何だろうな。
[ すぐに思い浮かぶのは、両親が共にいた幼少時代、
そして、イングリッドと過ごした穏やかな日々のことだ。 ]
……リッド。
[ 彼女が今、ここにいなくて良かったと思った。
魔王の顔をしていられなさそうだ。
弱い姿は見せたくなかった。 ]
―ペンホールズを発つ前に―
[随分と長いこと、報告を上げていない。
いつもと同じように…努めて平静に、呼び掛ける。]
テオドール様。
報告が遅くなってしまったことを、お許しください。
ペンホールズに数日おりましたが、彼の生死を知ることはできず…
確認のため、一度カレンへ向かいます。
……ヤコブの件についても。
私自身の目で、どんな状態か確かめてこようと思います。
[…嘘は、ついていない。
ベッドに横たわるソマリアードの生死は、確かめていない。
ヤコブに会いに行くことも、それとなく伝えた。
嘘ではない。嘘では……]*
[ 少し時間差があって、 ]
そうか。
[ いつものそっけない返事を返す。
遅れたことを咎めるでもなく、先を促して。 ]
実際にアランの手であれば、
そう簡単に掴ませるような愚策はとらぬだろうな。
[ 思考をめぐらせる時間を置く。
チェスの差し手同士の、先読みに慣れたテオドールには、
まさかそれが、テオドールではなく、駒そのものを狙った小細工であるとは気付かず、
ただ、いない勝負相手の思考を読み解こうとして。 ]
カレンか。
そうだな。お前が探して見つからなかったのならば、
ペンホールズにはもうおらぬのかもしれんな。
良かろう。
カレンの騎士団状況確認及び、カレンの駐屯基地の報告をせよ。
魔軍の馬鹿共が手抜きをしているようなら、叱咤して来い。
……別なルートから、カレン基地建造は順調だと報告が来てはいるが、
その報告も当てにならぬ。
[ イングリッドが言うなら信じるが、
という一言は言葉にせずとも察しろと。 ]
[暫くして返ってきた言葉に、ちくりと胸が痛む。
…これは、裏切りに当たるのだろうか。
嗚呼、そうでなくて何であろう。
――"痛い"というのは、きっとそういうことだ。
それでも、今一度、模索したかった。
大切なものを…テオドールを、救う道を。]*
― 回想:三周目 ―
[ 23歳。ヤコブのひとつ年上になったテオドールは、
その時は前回の失敗を生かして、ヤコブの従兄弟を名乗っていた。 ]
リッド、今日は早く帰れそうだ。
今夜は、魚が食べたいな。
ほら、リッドの故郷の料理。ティレルじゃ食べれないからさ。
[ 年上の妻にそう伝えて、いってきますのキス。 ]
味付け間違えても俺は全部食べるけど、
焦げすぎだけは勘弁だぜ?
[ 笑顔で拳が振って来るのを、テオドールは軽々と避けた。 ]
[ そんな時間もあった。 ]*
[ まさか、と思ってから、
あり得ない、と否定する。
どの時間軸であっても、彼女は自分の味方だった。
最後まで傍に居てくれた。 ]
[ だが、だが……。
ここは、「類稀な未来」だ。
だから……。 ]
[ テオドールがイングリッドに求婚せず、別な娘と政略結婚した4周目のように。
あるいは、
テオドールとイングリッドが出会わず、彼女が騎士団についていた6周目のように。
だから、そんなことも、
もしかしたら。 ]
…テオドール様、
ごめんなさい、私…
私は、貴方のために、
貴方を救いたくて、それで、
[テオドールの声が頭に響く。
…上手く、言葉を紡げない。]
貴方のためなんです。
…貴方を愛しているから、だから……!
[事情も説明せず、何のことか彼にはわからないだろう。]
今、そちらへ向かっていますので…
だから、そこで直接会って、全てを……
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