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[今夜の襲撃についての連絡にアルビンは力無く答えた。]
そうか、分かった、
カタリナはお前の大切な友人だったものな。
その別れに邪魔するのは無粋だろう。
今夜は俺は良いよ、もしも助けが必要なら言ってくれ。
それに、
─ その花に口吻を ─
[大切な羊のことが心配なカタリナを、彼女の生家に送ったのは私だった。
いや、唆したと言ってもいいだろう。
ゲルトの死、フリーデルの自決。疑心暗鬼にかられる村人たち…
そんな混沌の場から彼女を遠ざけたかった思いもあった。
そして…彼女をなるべく安らかな場所で眠りにつかせたい思いもあった。
欲望は確かに燻る。ゲルトを殺め狂騒の鐘をかき鳴らしたその瞬間から、私の身体は、本能はより貪欲になっていった。
意識を離れ猛獣のごとく渇望した。身体を血を生命を。
アルビンに対してそうであるように、情が深ければそれだけ欲望も強くなるのだ。
けれど、律する精神は残っていた。
タガが外れたならば、私はヒトですらなくなるのだから。]
それでね…リナ
[彼女とともに牧場に赴けば、羊達の世話を一緒におこなった。
日が暮れれば、一緒に食事をして、慰めて…楽しい話をしてあげて…
けれど、簡単には彼女のショックを拭うことは出来なかっただろう。
それでも最期まで、その瞬間まで私は私であろうとした。]
遅くなっちゃったね…
[夜も更け、外は光を失う。
彼女の様子はどうだっただろうか?
塞ぎこんでいただろうか?
悲しんでいただろうか?
泣いていただろうか?
それらの全てを私は受け止めようとただじっと寄り添っていた。
何度も何度も謝りながら。
虫の良い話だ。全ての元凶は私なのに、許しを請いながらもこの手を血に染め続けた。
ゲルトを殺し、今まさにカタリナもこの手で……
叶えさせてあげたかった。密かに慕う彼女の想い人に、その想いを紡がせたあげたかった。
安穏とした日々の中で可憐に舞い、穏やかな日差しの中で眠る人生を歩んで欲しかった。
ああ、なんて欺瞞だ。
その芽を今私は摘もうとしている。]
ごめんね。許してとは言わない。
どうか恨んで。
大好きだよ…リナ
[結局最期に紡いだ言葉も謝罪の言葉
自己満足な押し付けるだけの懺悔の念。
抱きしめて、頬をすり寄せて──
一瞬で貫いた。
ゲルトの時と変わらない。恥辱も苦痛も恐怖も必要はない。
そんなことをしたいわけじゃないのだから]
おやすみ…大好きなリナ
[彼女が事切れて、その生命の温もりが消えていくさまを、私はただずっと抱きしめながら感じていた。
自らが奪った彼女の人生を、その身に受け止めるかのように。
やがて冷たくなった彼女を床に寝かせ、白く柔らかな肢体に口吻を落とす。
ゆっくりとゆっくりと牙を立て、静かに…紅く染めていく。
不意に涙があふれた。
自らの身体はこんなにも歓喜に震え、五臓六腑に染み渡る血肉に胸踊っているというのに。
なんでこんなに美味しくないのだろう?
積み上げられた大切な人たちの屍の頂で、私はなんでこんなに空虚なのだろう?
ぼろぼろと涙が零れた。]
[長い長い時間だった。半ば無理やりに彼女の血肉をその身に宿した私は、アルビンがゲルトに行ったように幾重ものシーツで彼女をくるんで、ベッドに寝かす。
柔らかな髪をひとつ撫でて、彼女の亡骸のすぐ側に一輪の花を置いた。
大切な友へ
あのね……
時々ね、聞こえてくるの…流れてくるの。貴方の気持ちが。貴方の想いが。
ぜ、ぜんぜん嫌じゃないんだよ。
私の気持ちもおんなじように伝わってるのかな? って思うと、恥ずかしいけど…でもね……
それ以上に嬉しいの。貴方の気持ちが私の中に溶けていくのが。
一緒になっていくんだなって思うと、すごく嬉しいの。
[昨日もそうだった。それが私の想いなのか彼の想いなのか、自分でもわからないくらいに混ざり合って、いつの間にか同じ思いになって。
それが一人じゃないのだと感じることが嬉しかった。
暗く黄昏のごとく紅い道を一人で歩いているんじゃないと思えば、どうにもならない宿命も衝動も耐えることができた。
孤独である人間よりもずっとずっと幸せなのだと感じることが出来た。
そんな想いを彼に送っただろう]
一緒にいてくれてありがとう。
……信じてるから…約束…忘れないでね。**
[それは、アルビンが流した涙だったのか、
それともパメラのものだったのか。
またも感情が混ざりあって何もかも分からなくなる。
その中で一つだけ変わらない輝き。
内で密やかに狂星が煌めく。
たったひとつの誓いを忘れてはいない。*]
[そこに誰かが食事をした形跡が残されていただろうか?
食器が下げられていても、パンくずなど微かな跡がみられれば、示すように目配せする]
もう動き出してるみたいだね…
変なこと言っちゃってないといいんだけど
[カタリナを襲撃したその夜、アルビンはパメラの傍に居なかったが。
遠くに居てもアルビンはパメラの身を何時も案じているし、
微かに言えども脳裏に伝わって来る想いがあった。
果たして、あの涙はどちらのものだったのだろう。
ナイフを構えながらアルビンは考える。]
[初めは、憧れ。パメラの正体を知る前からも彼女の事を気にしていたのは、自分が人狼の声の聴ける狂人なのだからと思っていた。声を聴かずともパメラが人狼である事に気付いていたのではないだろうかと考えていた。
人狼であるパメラと想いを交わす事。人狼への憧れを抱き続けたアルビンにとって幸福だった。
人を殺す事への罪悪感を持ちながらも、パメラを通して人狼として悦びを感じる事への欲望に抗う事は出来ずに見ぬ振りをする処か彼女への協力を惜しまなかった。
今回も、そう。例え大切な存在を喪おうが、その大切な人を自分自身のものにする悦びに陶酔していた。]
[不意に心のなかがかき乱される]
……アル兄さん?
[今まで感じたことのない感覚だった。
今まで心の共鳴は、恍惚と、不安と、思慕と、哀しみ
時に愉悦もあった。狂気の波が逆巻くが如き快感もあった。
けれど…]
アル! だめ!
[それは恐れか? いやちがう…覚悟か?
私への愛情にまとわリつくように迸る覚悟は…
嗚呼それはだめだ…だって、それは…
『死』を内包している。そんな覚悟だ]
だめ! 貴方が死んだら…
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