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……エクリプセ。
[駆けた若狼がどこへ向かったのかは、しらない。
ただ、何となくの予想はあった。
だから、月のコエが伝える気配がある程度落ち着いた頃を見計らい、そう、とコエをかけた]
だいじょーぶ?
[何が、とは、問わない。
ただ、声音には確かに案ずる響きが宿っている]
[高揚が場に滲む。けれど。
本能はこんなに満たされているのに、どうしてだろう。
高らかな遠吠えは、今日ばかりは響かせそうにない]
…………。
[胸の空虚に寄り添うコエに瞑目する]
少しばかりヘマはしましたが、
愉しい狩りでしたよ。
[こんな強がり、ノイには見抜かれてしまうだろうが]
……ありがとう、ノイモーント。
[ここに居てくれて。
大詰めを前に、伝えたいのは感謝ばかりだ。
あなたがいるから、俺は広い世界に独りじゃない]
[人と狼の間の想いのやり取りの在り様は多様だという。
とりあえず、自分の母親と血の父親の間柄は大層複雑だったらしい。
幼馴染が人狼で、犯された挙句に自分を身ごもり。
それと知る間もなく、母自身の手で――その場で起きていた流血を終わらせるために、父を殺したのだという。
……なお、その後腹の中の自分もひっくるめて愛したい、という育ての父の熱意に負けて結婚、父の故郷であるこの村に落ち着いた、というのはおまけのように聞かされた惚気話なので置いておく]
『きらい、だったわ』
[初めて命の父の話をしてくれたあと、母はきっぱりこう言い切った]
『きらいだったから、あいつの望むような絶望だけは絶対にしてやらないの』
[言い切りながらも、母はどこか寂し気で。
言葉と裏腹の想いがどこかにあるようにも思えて。
人と狼の間には、単純な感情だけではどうにもならない隔絶がある、と。
その時、そんな風に思った]
[そんな事を幼い時分に思っていたから。
遠き日に傍らで聞いた、年下の幼馴染たちのやり取りは淡くて儚い夢のようにしか思えなくて。
『人間が人狼の排除を選び続ける限りは無理だろう』と。
あの時、二人に言った言葉にはそんな思いを込めていた。
だから。
もし何事もなければ、それを叶える事が出来たかも知れない若狼と少女の現状は、傍目には重いものに見えて。
思わず投げかけた問いに対する答えに、は、と小さく息を吐いた]
……ヘマしてる時点で、だいじょーぶじゃなくない?
[さすがに参ってるな、と。
そう思えたからこんな言葉を投げて。
無理するな、と伝えるより先投げかけられた感謝に一時言葉を呑み込んだ]
……っとに、もう。
ありがとう、はこちらこそだよ、エクリプセ。
きみのおかげで、ずっと抱えてきた霧が晴れたんだから、ぼくは。
[自身の存在する意義はどこに、という霧。
彼がそれを晴らしてくれたのは確かな事]
ヘマばかりの生き様です。
いまさら、一つや二つ……。
[君のお陰で、という言葉に不思議そうに唸る。
混血と行商人としての経験に思いを馳せるには、未熟で]
事を始めた責任があるのだから、ひたすら終わりに向かわねばならないと思っていた。……けれど今は、そのさきにゆっくりと語らえる時を、望んでいます。
[叶うといいな、と青年の体躯に似つかわしくない呟きが零れる]
行ってきます。
願わくは、誰にも孤独を味わわせないで済むように。
[日常では重ならなかったかもしれない縁を授けてくれた月に向けて、捧げられるのは人間からすれば残酷で純朴な祈りだった]
そういう前向きさは大事だけど、ほどほどにしないときつくなるよー。
[ヘマばかり、という物言いに揶揄うような口調で返す。
唸りの響きには何も言わずに、ただ、笑みの気配を返すだけ]
……先を望むのは、いいことだよ。
いきてるものには、みんな、その権利がある。
始めた責任を取るために終わる必要なんてないんだから。
[そも、それを言うなら始めたのは『人間』の側だ、というのは無粋だろうから口にせず]
……うん、そーだね。
誰かだけが寂しい結果に、ならないように。
[そのためには、鞘から抜いた刃を向ける事も厭いはしない。
否、向けなければならない、という予感は確りとあるから。
返す声音に、揺らぎの響きはない]
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