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分かられ過ぎていて涙が出るな。
[怪我の経緯を言い当てられて返すコエは唇を尖らせているような色を纏う。認めたくないが言い返せないということろ。
やれやれと首筋に当てた手が銀鎖に触れた。
先祖伝来の武具を手入れすることもなかった代わりに磨いてきたそれは、今も滑らかな輝きを保っている。
あのとき掴まれた手にこれが乗せられたとき、親父の護符は完成したのだ。きっと。]
[あの時、おとなしく手当をして休んで、翌朝自分と同じくらいあざだらけのリトスと顔を合わせた時には、思わず怒鳴っていた。
なぜ俺を連れていかなかったんだ、と。
彼がどうしてそんな傷を作ってきたかは聞かなくてもわかったし、彼を一人で行かせた自分の鈍さには腹が立っていた。
腹いせに染みる薬草をたっぷり塗ってやったら、同じことを返されたのも記憶に残っている。]
俺たちにはカーマルグの富が必要だ。
[一見脈絡なく、ぼそりとコエを落とす。
貧しいゼファーには、軍から落伍したものを養う余裕はない。
それを作るのが先決だ、といつか話したことがある。]
ここが、第一歩なんだ。
[元首の地位に上り詰めて、最初の会戦。
それがこの後の全てを決めるだろうと感じていた。*]
[ そして、カナンのコエ ]
ああ、カナン。
その通りだ。
俺達は、勝たなければならない。
いや、必ず、勝つ。
[ 何をもって勝利とするのか。それを心に問い直しながら、想いは揺れる事なく、誓いを重ねる。 ]
王国は炎好きかな?
[獰猛な笑みの気配を漂わせてコエが通る。
困難を前にしている時の癖だ。]
お前も楽しんでるようじゃないか。
虎の肚の内、引きずり出してやれよ。
[刃を交わせば見えることもある。
神前試合に臨んでいるらしき彼が、かの女神の寵児からなにを引き出してくるのか。期待していよう。]
カーマルグを獲ようとも、常に侵略を警戒せねばならず、耕す者もいないとなれば、ただの荷物だ。
俺はもう少し、富を作り出すものたちを知らねばならんな。
[我が政敵が神意の体現者と語らうならば、己は地の恵みを呼び覚ます者達の声を聞こう。
力と刃をもって。]
[ 炎という言葉を聞けば、反射のように好敵手の顔が脳裏に浮かぶ。
今、浮かぶその表情は、簡単には食えぬ獲物を前に、その困難を前菜とする如く、牙を剥く肉食獣の笑み。 ]
火計か?お前の方こそ、随分と愉しそうだが。
[ 返すコエに、案じる色は無い。自身が炎には負けぬと思う以上に、彼が、易々と火に呑まれる事は有りえないと知っている。 ]
火傷には、あの薬草はだいぶ染みそうだな。
[ それでも、ぼそりと呟いたのは、怪我を増やすなと言った先刻のやりとりの繰り返しのようなもの。
何しろ、相手は無茶無謀を専売特許と任じて憚らない男だ。忠告も脅しも、やり過ぎくらいでもまだ足りない。 ]
アレが肚に抱えているのは、一物どころではなさそうだがな。
[ 女神の寵児の肚の内を引き出せというカナンの言葉には、肩竦めるような反応を送る。]
だが、確かに俺もまだ、王国の理を知らん。
知れるかどうか、試してみるさ。
[ 地に生きる者の声を、その心を、カナンが聞こうと言うのなら、天の加護を謳う者の理を問おう。
その答えを得た時、掴むべき勝利の形がきっと見える。 ]
うぇ…
[薬草の話で、明らかに嫌そうな空気を漂わせた。
大抵の痛みには慣れっこになっているが、あれは、なんというか、別格だ。
嫌なことを持ち出してきやがる、と思っていたのもつかの間、好敵手の言葉に同意を送る。]
相手の理を知るには、踏み込むしかないだろうな。
ああ。期待している。
[任せたと、背を預けるように言葉を置いた。
互いがそれぞれ得たものが、互いの力になると知っている。
これまでも、これからもだ。*]
取り敢えずは、一本先取だ。
[ 短く報告を送り、薬草の話に呻いた相手に喉を鳴らす。 ]
そもそも、最初に、あれを持ち出したのはお前だからな?
[ まさか、一人で殴り込んだ事に怒って、一番染みる薬を探し出して来るとは思わなかった。
しかし、染みるのも一番だが、効果も一番の薬だったのは確かで、以来、その薬草は「いざというときのために」男の懐に常備されている。 ]
ああ。
[ 何の躊躇いもなく、期待している、と預けられる信に、また胸の底の熱が灯る。 ]
当然だ。
[ 見つめる先は一つだと、重なる鼓動だけが知っている。 ]
は。もちろん、そうでなくてはな。
[報告に返すのは単純な賞賛ではないが、喜んでいるのはコエの調子で丸わかりだろう。]
あれは…あの時はお前が悪かったんだろうが。
俺のいないところで、あんな喧嘩をされたら当然だろう?
[この話になると未だに文句が出てしまうのは、お互いの"当然"が違うからなのだろう。
どちらにしても、あのあと「ことあるごとに」薬草が出てくるようになったのは、ある意味誤算だった。]
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