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「元首になって、ゼファーを変える」
[ まるで、夢のような話…若者の無謀な夢想。人が聞けば、十中八九、そう断ずるだろう言葉。
何を言い出すのか、と、何時もの説教口調で返そうとしたが、できなかった。
後ろ盾の一つも無い、自らの盾と剣さえ持たない孤児が 、国の頂に昇り詰める、そんな奇跡を、この炎のような魂ならば成し遂げるのではないか?そんな気がして。]
それなら尚更、不用意に、怪我などするな。
[ けれども、その時は、胸に浮かんだ予感を口には出来ず、ただぶっきらぼうに、そう告げるだけになった。 ]
カナン…お前は、元首になるんだったな。
[ そして、今度は男の方から確かめるように口にしたのは、父母の葬儀から戻った後だ。 ]
俺もお前と同じ孤児になった。お前が元首になるなら、俺もなる。
[ 今はもう、本当の味方は一人としていない。そう心に刻んで戻った先で、表情の失せた自分の顔を見て、押し込めた筈の心そのままに、歯噛みした好敵手。
ただ一つ、決して変わらぬと信じられるものが、そこに残っていたのだと気付いた時。男の心は定まったのだ。 ]
そして、俺は、お前の政敵になる。お前の策の穴を見つけ、お前の油断を糾弾し、隙を見せれば噛み付いてやる。
お前が本当にゼファーを変えると言うなら。
俺という壁を突き崩してみせろ。
[ その壁はきっと、他者が、この炎を消そうとする事を阻む壁ともなるだろう。そう、胸に落として、男は、数日ぶりに笑った。
目の前の男には、それは泣き笑いに近く見えたかもしれないけれど。* ]
確かに......あれは、お前には譲れない獲物だな。
以前から誘われていることでもあるし。
[ カナンの声に懸念の色が乗っているのは感じている。
人の事を案じている場合ではないだろうと、思う一方、その懸念を齎しているのが自身だという自覚もあったから、小さな吐息と共に、言葉を繋いだ。 ]
王弟殿は、毒の牙を持つ虎のようだ。
だが、炎と毒は俺には効かん。
[ 遠回しに状況を説明しておいたが、安心材料になるかどうかは微妙なところだ ]
農民?命の借りというと、ああ、あの時の...
[ 恨み言を聞いてやる、というカナンの言葉を聞けば ]
物好きめ。
[ 囁くように揶揄を零すのは、カナンが、その運命の皮肉に痛痒を感じて居ない筈はないと知るからだ。
あの時、長くコエを送って来なかったのは、彼が、その穏やかな時間を惜しんだ故ではないか、と、実のところ男は疑ってもいた。 ]
......カナン、お前はお前だ。心のままに征け。
[ 一見脈絡なく落としたコエは、心臓の鼓動ひとつに沿って響く* ]
[ああ。自分の野望は成った。
この時、そう確信した。
己はこの壁を得て爪を研ぎ牙を磨き、ゼファーの元首を勝ち取るだろう。
なおそこで留まらずにゼファーそのものを変えていくだろう。
武のみでしか評価されず、親と同じであれと期待され或いは蔑まれ、個を個として認めようとしないこのゼファーを変える。
この男と共にならば、必ず成し遂げてみせよう。
その時は、かつてのように笑ってくれるだろうか。
リトス。と心のうちでのみ呼ぶ。]
[とはいえ、昔から意地を張り合っているか小言を言われているかばかりだったので、そもそも笑顔はあまり見たことが無かったのだが。*]
[農民との邂逅に対する反応は、どこか鋭さを欠くもの。
遭難した時の話はどことなく避けていたから、そのせいかとも思う。
ついからかう種にしてしまうから、いつかしっかり話すべきかなと思案していたところへ、落ちてきたコエが心臓で跳ねた。]
……もちろんだとも。
間違えたら、お前が止めてくれるからな。
[己が目指すものの根底を思い出させてくれる、そのコエは道標だ。*]
[ どうやらカナンに状況は伝わったようで重畳、と、思ったら、別の懸念を乗せた言葉が飛んで来た。 ]
お前じゃあるまいし、行ったきり戻らないなんて間抜けはしない。
[ 返したのは、鼻で笑うような声音。 ]
おい。
[聞こえてきたコエに、じとりと目が据わる。]
さっき、俺に偉そうなことを言ったのはどこの誰だ?
[無茶無謀は俺の専売だろう、とは言わなかったが。]
戻らないような間抜けはしない、とは言ったが、行かないとは言ってないぞ。
[ 据わった目が見えるようなコエに、堂々と屁理屈を並べて返したところで、敵船からの申し出が届く。>>115 ]
神前試合を望む、だそうだ。
そういえば、あの王弟殿は女神の寵童だかなにかだったか?
お前な、
[だからといってノコノコ行くやつがあるか!と思ったが、それをコエに出すより先に神前試合の話がくる。]
……確かそうだったな。
あの顔なら女神にもモテるだろう。
酒席の侍童にするにはとうが立っているが。
しかし神前試合とは、…なかなかに不穏だな。
不穏でも何でも、挑まれて逃げるというわけにもいかないだろう。
こちらが勝ったら、半島から手を引けと言ったら聞くだろうかな?
[ まず、それは無いだろうと思いながら軽口めいた言葉を吐いたあと ]
カナン、俺は誓いを違える気はない。
女神の前に膝をつくつもりも、な。
[ 殊更静かに、そう告げた。 ]
それで手を引くなら、俺はお前の背を蹴飛ばすがな。
[蹴り飛ばしてでも戦わせると軽口に応じ]
当然だ。
お前は俺の唯一なんだからな。
[ふふん、と胸を張る調子で答えた。]
もしそうなら、お前に蹴られるまでもなく、突っ込んでいく、が、
[ ふと、コエが途切れたのは、王国軍からまた返答が>>129届けられたからだ。 ]
あちらも似たようなことは考えたかな?
[ 冗談めいて、とはいえ、最初にそれが浮かんだのだったら...と、巡る思考は、カナンの続けた言葉の効果で停止する。 ]
.........俺にとっても、お前は唯一無二の好敵手だ。
だから、それ以上は怪我を増やすな。
[ 微妙に間を空けた、答え。そして同時に、苦言を送る。
すでに怪我を負っている事は聞かずとも確定している口ぶりだった。* ]
[向こうも同じ考えだったのならば、効率的で良いな、とは思う。
ただその場合は、己が出るべきだろう。相手が、おそらくは臨時とはいえ総司令なのだから。
だからこそ相手の、我が唯一無二への関心を警戒するのだが。]
───っ。
お前、時々妙に勘がいいな。
[負傷を言い当てられて思わずの言葉は、自白したも同然だった。*]
― 過去 ―
[幼い時分、年嵩の者らに絡まれているのをリトスに見られたことがある。
普段なら相手の年も人数も関係なく乱闘になっているものだが、この時は地面にうずくまって背を丸めたまま、黙って暴力に耐えていた。
暴虐が去った後もしばらくは無言が続き、重い口がようやく開いたのは、リトスの他に誰もいないと確信してからだった。]
あいつらに、これを見られそうになったから。
[むくれた顔のまま、握っていた手を開く。
そこには、見事な金細工の護符があった。
連中に見つかれば取り上げられるのは当然として、それを理由に更なる事態を招いただろう。]
親父の、……形見だ。
[ぼそぼそと落ちる呟きは、告白に似る。]
親父が、作ったらしい。俺の、ためにと。
[時々息が零れるのは、痛みをこらえるためではない。]
親父は、本当は、細工師になりたかったんだと。
[これまで胸に押し込めていたものを吐き出すことへの、ためらいのようなものだ。]
俺は───戦士になるのに文句はない。
けど、思うんだ。
こんなにすごいものを作れる親父が、
臆病だからってだけで馬鹿にされて、
追い出されて野垂れ死ぬようなこんな国、
……俺が、 変えてやるんだって …!
[血を吐くように声を振り絞る。
何も持たない孤児の、それが意地の根源だった。*]
やっぱりか。
[ カナンの反応は男の予測の正しさを裏付けるもの。 ]
俺とお前は心臓が繋がっているからな、お前が怪我すれば俺にも分かる......なら便利だが。
[ 現実には「全ての怪我が」分かるというわけではない... ]
命の借りがあるから、恨み言を聞いてやる、と言っていただろう?
お前は頭より体で借りを返すタイプだからな、そんなことになるんじゃないかと思っていた。
親父さんの護符の効果にも限界というものはあるだろう。
少しは自重をしろ。
[ 彼にその美しい護符を見せられた時の事は、はっきりと覚えている。
世の中に、これほど繊細で美しい造形があったのか?と、細工物などとは一切無縁だった男の胸を打つほどの細工。
それが、カナンの父の手によるものだと知って二度驚いた。 ]
これを守るために、何をされても耐えていたのか。
[ カナンが、文字通り血を吐くように絞り出した言葉、それを胸に刻むように聞きながら、男は、カナンの手にした護符に、そっと触れた。 ]
綺麗だな。本当に...
[ ため息のように、そう言ってから、護符と同じ金色の頭を軽く小突いた。 ]
だけど、お前はやっぱり馬鹿だ。
親父さんがお前を守るために作り上げた護符なのに、それを守るためにお前が傷ついたんじゃ、意味ないだろう。
[ カナンはむくれたままだったか、構わずその手を引いて、剣帯に絡められていた唯一の装飾だった銀の鎖を外して渡した。 ]
色合いが合わないけど、これを繋いで首にでもかけて服の内側に隠すといい。
交代で水浴びする時には俺が預かってやる。
言っとくが、お前に同情してるわけじゃないからな。
お前の親父さんの腕に敬意を払うためだ。
こんな凄い職人がゼファーに、もっと居たら、きっと交易で国を富ませることだって出来るんだ。
お前も元首になるなら、そこまでの方策を考えろ。
[ 淡々と、そう告げてから、踵を返す。 ]
ちゃんと、傷の手当はしろよ、明日の訓練をサボったら、今度は俺がぶっ飛ばしに行くぞ。
[ 言い捨てて駆け去った先は、カナンを痛めつけていた連中のところで ]
貴様らの卑怯な振る舞いには、虫酸が走る。その性根叩き直してやるから、俺と勝負しろ!
[ 怒りのままに、言葉と拳を叩きつけ、結局、自身も傷だらけの打ち身だらけになったのだが、それがカナンと同じ痛みだと思えば、苦しさより胸に湧く熱が勝ったのを、覚えている。** ]
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