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[…――ふ、と覚醒する意識。
其処に居た筈の温もりは、無い]
…っ、ローゼンハイムさん、何処行っちゃったの?
ねぇ――…
ひとりにしないでよぉ…っ!!
[血の色に染まる牙を覗かせて、叫ぶ、悲痛な声音が響き渡る。
その声を聞く者は、誰も、居ない…]
[誰も居ないと、知っている。
けれどそれでも、ぐるぐると、重たい足を引きずって船の中を彷徨い歩く。泣き腫らした瞼が重い。
独りきりの真っ赤な世界。
仲間を探す、その意思は>>1:93あの瞬間に途絶えた。
他にあてなんて、ない。
それに見つけたってどうせ仲間じゃないかもしれない。
そう考えると、もう、何もかもが億劫で。
此処を抜け出す方法を、知っている。
此処に仲間を増やすんじゃなくて、此処を抜け出す、方法。
否、抜け「出す」と言えば聊か語弊はあるかもしれない。
じっと己の両手を見詰めて…小さく笑った。
そのまま、…その手を、首に――…]
──げほっ、げっほ、ごほ、っえホッ。
けほっ、あ、ちょ、だめだこれ。ごほっ、
[ちょっと気分に酔ってみただけで、覚悟も度胸も握力も足りない自分に絞首自殺の真似事なんて土台無理だった。
解ってたけど、知ってたけど。
蹲って暫しむせて、息苦しさに涙目になりつつ床に転がる]
そうか、判ったぞ。
ごはん食べれないからこっちの僕はこんなに鬱なんだ。
おなかすいたよー、しんじゃうよー。
いや、死なないけど、死ねないけど。
[駄々っ子の様にばったばった、交互に足をバタつかせて暴れてみたけれど、やっぱり誰もいなくて、ちょっぴり泣いた]
[赤い世界では扉を開けて居ても、あちらの世界の扉はどうやら動かないらしい事を初めて確認する。
同時に二つの視覚情報が頭に届くけれど、不思議と混乱することは無かった。
目の前にはもう一人の自分。
どうやら触れる事は叶わないらしいと、互いに伸ばしたあちらの手がすり抜けて、理解した]
[赤い世界の自分はあちらの自分からは見えないらしい。
けれど凡そ何処に立って居るかは赤い世界の視覚情報を共有しているからあちらの自分も判ってる。
生霊みたい、とぼんやり思うのは二人同時。
二人居ても一人なのだから、同じに思考が働くのはさもありなんといったところか。
ただし互いにとって少しだけ違うのが、互いが互いに相手のことを「生霊みたい」と思っている点だろう。
むこうの自分は見えないのに確かにそこに居る赫い目の自分を、
赤い世界の自分は、触れる事が叶わず掌をすり抜けるあちらの自分に。
自分自身を偽物だと思う筈はない。
だって二人とも、本物の”アイリ”なのだから]
[こんな風に見えるのは、自分だけなのだろうか?
それともこれから目覚めるかもしれない誰かもなのだろうか?
今は独りきり故に確かめてみる事は叶わない]
[落ち着いてみて、判った事もある。
否、赤い世界の僕は知っていたけれど、思い出せなかった幾つものこと。このゲームで僕が為すべき役目。
それらをローゼンさんは赤い世界の自身が持つスマホに、情報として残してくれていたらしい、ということ。
これが無ければゲームが成り立たない所だった。
手伝ってくれと言われてはしゃいだあの時間が、最早随分と昔に思える]
[僕か目覚めさせた狼仲間が最後まで残れば、僕の勝ち。
狼が誰も居なくなったら僕の負け
目覚めさせた狼仲間じゃないひとが残っても勝ちにはならない。
あとは、最大の敵・絆を持つ二人は、早めに消えて貰った方がいい。
彼らが残れば、例え狼の誰かが最後まで残っても、僕の負け。
絆…そう聞いて思い出すのは覗いてしまったあの光景だった…]
[赤い世界でスマホを操作し、愛らしい少女の名を、択ぶ。
心細いこの独りの空間で、傍に居て欲しいと思ったのは彼女だったから。もし彼女が自分の探すべき相手ではなかったなら…ローゼンさんの傍に転移する事になるのだろう。
ローゼンさんの傍に居る方が安心な事も何かと多い。
これでいいよね?
むこうの世界の自身に無言で問えば、もう1人の自分は笑顔でひとつ頷いた]
[じゃぁ、ね。
声にすることなく互いに挨拶を交わして、二人の自分が向かい合う奇妙な時間は終わりを告げた。
その耳に牙を立てるべく、ドロシーの姿を探してぶらぶらと。
程無くして見付けた彼女にそっと忍び寄り]
……――ごめんね。
[聞こえる筈もないけれど、囁いて、そっと牙を立てる。
尖った犬歯が微かに傷をつけて、じわり、甘い味が広がった。
あぁ、二度目だ。そう思い出す。
そう、一人目は、ローゼンさん。
泣きじゃくる僕に、やり方を教えてくれた。
それと、あと、もうひとつ、何か教えてくれたような…
……――なんだっけ?]
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