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[溶鉱炉の扉を押し開けたかのような、熱をもつ圧が押し寄せる。]
──続けろ。
[ルートヴィヒの身体を引き寄せて、額と額を突き合わせる。]
“無事”なばかりか、”最高”の気分だ。 ルッツ!
[来るべきときが来て、得るべきものをついに得たという感触があった。]
― 回想・邂逅の時 ―
[これは───
驚き戸惑う内にも体が引き寄せられ、視界が彼の顔でいっぱいになる。
同じ熱だ。
彼に触れるのと同じ熱。
心が、魂が結ばれる感触。
真っ直ぐな航路が開かれたのだと悟る。]
これは……困りましたね。
迂闊にものも考えられない。
[ことさらに困った顔を作って見せる。が]
─── ですが、
なかなかに心地いい体験です。
あなたとこうして、"繋がる"のは。
[沸き起こる高揚は、隠しきれるものでもなかった。]
― 回想・邂逅の時 ―
[目の前にいるルートヴィヒの唇は結ばれたままだが、声が届く。
要領がいい彼は早くも思考を整理するコツを掴んでいるようだったが、その魂の熱量はとても素直だ。]
惚れたろ?
[屈託ない想いを指摘して機嫌良く声は揺さぶる。]
おまえでなければ 受け入れるのは無理だ。
[彼が心地いいと囁くそれは、時に嵐にも灼熱にもなるのだから。]
もう戻って休むといい。
[ひとしきり満足して身体を離し、ルートヴィヒに言う。
距離があってもこの絆は切れることがない、そう確信することができた。]
俺は街に戻る。
遊び仲間に無事を知らせておく。それに、隣組のバカ共がこの先、無事に済むとは思えん。
あんな毒蛇みたいな連中を縄張りに引き込んだら、荒らされるに決まってる。
自業自得だが、根は悪いヤツらじゃない。助けてやる。
[この先の計画をざっくり告げながら、生乾きのシャツに腕を通した。]
― 回想・邂逅の時 ―
[真っ直ぐに真ん中を射抜いてくる問いに、眉を顰めた。]
……馬鹿を言わないでください。
[鼻から息を吐き、知らず肩に入っていた力を抜く。]
男が男に惚れるだなんて、かっこ悪いじゃないですか。
[裏を返せば、認めたということ。
それはもう、どうしようもなく。]
[告げられた今後の方針に一つ一つ頷く。
それでだいたいの状況を把握して、眉を上げた。]
…彼ら相手に、まさかお仲間だけで仕掛けるつもりではないでしょうね?
[まだ掠れている声で問い、少し思案の顔をする。]
私も、その遊び仲間が集まった時に呼んでください。
連絡は、シュヴァール商会までお願いします。
直接声を掛けていただければ、一番早いですが。
[話に聞くのが本当なら、どこまででも声は届くはずだ。]
― 回想・邂逅の時 ―
惚れたら恰好悪いか?
なら、俺も同類だ。 喜べ。
[相思相愛だ、と教えて軽く額を弾く。
彼が明晰な頭脳で今後の算段を口にすれば──]
牢から逃げ出すまでの限定つきは撤廃だな。
[してやったりと笑いながら、ルートヴィヒが立ち上がるのに手を貸す。]
呼ぶさ。
いつも、いつまでも、共に在るんだ。
― 回想・邂逅の時 ―
[もう一度、まじまじとトールを見た。
穴が空くほど見つめた自分の顔は、たぶん驚いている顔をしているだろう。
この男に惚れられたというのはつまり、
太陽に見出されたのと同じことだ。
天高く駆けていく彼に、自分はどこまでも付いていくことになるだろう。
それは、時に苛烈な道行となるだろうが、
同時に、実に胸躍らせる未来予想だった。]
[期限付きは撤廃だと、笑う彼を軽く睨む。
けれども、それはすぐに笑みに変わった。]
仕方ないですね。
乗りかかった船というやつです。
私も、あなたに無謀なことをしでかされて、
助かった命を投げ捨てられるのは寝覚めが悪い。
[手を貸すために差し出された手を握って、見上げる。]
いつも、いつまでも、
私はあなたの隣にいましょう。
[それは忠誠を誓う言葉であり、
魂の片割れへ捧げる約束でもあった。]
− 帝都 / 9年前 −
[アレクトールが再びルートヴィヒに呼びかけたのは、脱出劇の翌日、まだ昼にならぬうちだった。]
おはよう、ルッツ。 調子はどうだ。
今、おまえの屋敷の居間で茶菓の接待を受けている。
暇なら下りて来いよ。
[連絡先を聞いたのをいいことに、さっそく乗り込んできたのだった。
ただし、今日は皇太子として、下にもおかないもてなしを受けている。]
― 帝都 / 9年前 ―
[嵐のような脱出劇の後、商会の人間に保護されて屋敷に戻ったあとは、誘拐先から逃げ出してきたとの説明ひとつ置いて泥のように眠りこんでいた。
翌日になってもまだ重い身体をようやく起こして自室で着替えているとき、声が飛び込んでくる。
一瞬どきりとしたが、すぐに昨日の感覚を取り戻した。]
おはようございます、トール。お元気そうでなによりです。
というかあれだけ動いたのにまだ動けるんですか?
…ええ、今行きます。
[いつもの倍ほど時間が掛かった支度を終えた後、下へ降りていく。]
[商会は、突然の皇太子の来訪に、ちょっとした騒ぎとなっていた。
貴人が来ることは珍しくもないのだが、なにしろ突然だ。
慌てているらしき使用人らを目の端で見ながら、居間へ入った。]
わざわざの御足労痛み入ります、皇太子殿下。
[トールの姿を見つけて、一礼してみせる。]
− 帝都 / 9年前 −
[ルートヴィヒは自分ほど体力に恵まれていないのは昨日の一件で把握していた。
熱でも出していないかと心配しになったというのも、早い再訪理由のひとつだった。あの咳は気がかりだ。
直接に顔色を見て、やはり本調子ではなさそうだなと思う。
まあ、今日のところは早々に引き上げるつもりである。]
挨拶重畳。
アレクトール・スライ・モルトガットだ。
[今回はフルネームで名乗り、ソファに座るよう促す。]
姉が熱を出していてな、
何か食べたいものがあるかと聞いたら、これ、と言われた。
[図鑑に載っている異国の果実を指し示す。]
侍従に、「シュヴァール商会ならば取り扱いがあるかも」と聞いてやってきた。
今、調べてもらっているところだ。
本当の目的は、犬対策だがな。
[心の声はよりくだけた調子で響く。]
さっき、警備主任が「このお方は大事なお客様だから吼えたりするな。匂いを覚えておけ」と番犬に言い聞かせてくれたから、今夜からはベランダから侵入できる。
― 帝都 / 9年前 ―
[改めて皇太子然とした身なりと態度を示されると、生まれながらにして人の上に立つ風格を感じさせた。
人を引き付ける魅力は服装に関わりないものであったけれども。
促されるままソファーに座り、図鑑を覗きこむ。]
これは、フェリシアのあたりで採れる果物ですね。
先日、あちらからの交易船が戻ってきておりますから、きっとあると思いますよ。
[交易船の動向と各地の名産はひととおり頭の中に入っている。
見つかるはずだと保証した。]
[声で飛んできた内容に、思わず視線がじとりと細くなった。]
まったく、とんだ策士ですね。
ベランダから侵入したら、次は私をベランダから連れ出すのでしょう?
[自分で言うからには、それなりに乗り気でもある。]
夜は見回りが増えますから、むしろ昼間の方が見つかりづらいですよ。
[そんな情報まで添えた。]
− 帝都 / 9年前 −
[フェリシアの名にわずかに視線が沈む。
祖父がフェリシアの雇ったウルケル海軍に敗走し、そのまま立ち直ることなく死んでまだ1年。
そのフェリシアとしゃあしゃあと交易している商会のしたたかさよ。]
家で取り扱っている品を把握している、か。
牢な──嗣子殿は優秀だな。
ああ、手配ができたら、宮殿まで届けてくれ。
命にかかわるような病でもないし、たまには姉孝行してやろうと思っただけだ。
おまえ、ストラテゴはできるか?
近いうちに、相手をしに来い。
[他の者ではなく、ルートヴィヒが来て時間を気にせず留めておけるようにと布石を打っておく。]
昼からとは、気前がいい。
[ルートヴィヒが示唆した大胆な誘拐に笑う。]
でも、身体の方はまだ辛そうだな。 休め。
― 帝都 / 9年前 ―
[フェリシアの名が出ると同時に、トールの表情がわずかに変わった。
瞬間、内心でしまったと臍を噛む。フェリシアの地は皇室にとって未だ悲劇の記憶新しい場所だった。
取り繕おうかと唇が動くが、結局言葉にしたのは別のこと。]
幼いころより交易には連れまわされておりましたので。
…では、後ほどお届けいたします。
ストラテゴですか?
手加減しなくて構わないのでしたら、いつでも喜んで。
[宮殿まで直接行く口実を作ってくれたらしいことに、頬が上がった。]
もう少し身体を鍛えておくべきだと後悔しましたよ。
ええ。お言葉に甘えて。
明日には動けるようにしておきます。
やるなら、早い方がいいでしょう?
− 帝都 / 9年前 −
[皇太子相手に手加減なしを宣言したルートヴィヒに対し、商会の人間が取り乱すことも制止の言葉をかけることもないのをみる。
なるほど、行き届いている。いい組織だ。]
手加減して気づかぬ馬鹿か試されるより気分がいい。
[出された茶のお代わりを断り、用事はこれで済んだと席を立つ。]
鍛えるのか。殊勝だな。
手加減しなくて構わないなら、いつでも喜んで手伝ってやろう。
[意趣返しの口調で協力を約束する。
内容が何であれ、一緒にいられる時間が作れるのは楽しい。]
馬に乗れる恰好をしておけ。
[明日の計画を少しだけ教え、帰途につこう。*]
― 帝都 / 9年前 ―
[席を立った皇太子を見送るため、玄関の外まで付いていった。]
またいつでもおいでください。
[あたり障りのない挨拶の裏で、たくらみごとが交わされる]
……倒れない程度でお願いしますよ。
[こちらから手加減しないといった手前、自分には加減してくれとも言えない。]
わかりました。
いつでも、お待ちしています。
[社交辞令の挨拶ではなく、共犯者の顔で言葉を返した。]
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