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オットー。
こうなりゃ仕方ない、お前はたんとおあがりなさい。
そして思うまま生きなさい。
わたしはどのみち老衰で死ぬ。
たとえ殺されようが、死が少し早まる程度さ。
ただ、わたしが生きているうちに
わたしの家族を喰うことは許さないよ。
は……?
[まともに“声”を聞いたのは初めてだった。訳も分からず誰かがいるのかと暗い室内を慌てて見渡してしまったぐらい。]
誰だ、あんた。
どうしてぼくの名前を知っている……?
……あんたも人狼なのか?
[どこかで聞いた気がする声、雑貨屋の老婦人を思わせる口調。困惑の中質問ばかりを返す
知っている“同族”は五年前僕を襲った、あの男だけなのだから仕方ない]
“あの男”の仲間か……?
[妹のような少女の顔など浮かぶわけもない
ため息を独りの部屋で溢した後、こう続けた]
あんたは全部分かってるみたいだけどこっちは何にも分からないよ
[五年前のあの日、両親が用事で店を空け一人で店番することになった。
本当に大丈夫かい?なんて心配そうに聞いてくる母親に僕は呆れ顔になる。この人はいつまでも息子が子供のままだと思っているのだろうか。口数が減って笑うことが少なくなったのはそんな親への反抗からで。]
平気だよ。
僕だってもう、大人なんだ。
[“ぼくだってもうこんなに大きくなったんだ”そう思ってコンスタンツェを連れて行って危険な目に合わせたことを思い出して苦い気持ちになったけれど。
あの頃とは違うんだ、そう思って二人を見送った。]
[こんな田舎の小さな店を訪れるのなんて馴染みの客ばかり、退屈だと感じてしまうのも仕方ない筈だ。
カウンターに肘をついてぼんやりしていた時、ドアが開く。]
……あんたかよ。
[数日前から宿屋に滞在している中年の男、そいつは昼間から酒の臭いをぷんぷんさせていて思わず顔をしかめてしまう。
金もない癖に、酒場で無理矢理つけにしてもらってる癖にうちのパンを買いにくるなんて]
[態度が気にくわなかったらしい、ずんずんと近寄ってきて顔を近付けがなりたててくる。
こんな餓鬼一人怯ませられると思っているのだろう、ついでに店の金を少々拝借出来れば上々というところか?
だけど僕はこんなならず者の男なんて怖くない。皆を守ると誓ったんだ]
…帰れよ。
[胸ぐらを掴む腕を振り払い、冷ややかにいい放ったその時
憎らしげに歪めた男の赤い顔が、貧相な体が]
[それから何が起こったのかおぼろ気にしか思い出せない]
[床に縫い付けられた身体、のしかかる獣の重さ、近くに感じるその息は酒の臭いに混じって血の香りがしていて
その牙が、僕の、]
いた い
た す …
て
[若者のとまどう様子、その青さに目を細めます。]
お前は前々から、いつも血のにおいをさせるくせに、飢えていたからね。
よほどのもうろくじゃなけりゃ、同胞とわかるものよ。
時期に鼻の使い方も覚えるだろうから
わたしの正体もいずれわかるだろうさ。
[わたしはこの地で狩りも仕事もしていないので――痴呆が進んでおらず、記憶が正しければ――、若者が誰により目覚めたのかは知りません。
源流をたどれば、もしかしたらわたしのせいかも知れませんが。
責任なんて、これっぽちも感じません。
だってそれが役割だったのですから。]
[わたしはローレル姉さんとは違います。
人狼だもの。
せっかく得た家族を失うのが怖いから、旅に出る勇気もありません。
人の世は短くて、ちょっとでも目を離すと、お気に入りがすぐに消えてしまうのですから。]
わたしは人狼さ。
でも、わたしは人として死ぬんだ。
どんな目にあおうがね。
……鬱陶しい婆さんだな。
誰だか分からずにあんたの家族を食べないようにどう気を付ければいいんだよ
っ、あんた……知ってたのか。
[こちらの質問への返答に素直な感想を苛立ち紛れに、それもまたこの同族には青く感じられるなんて考えもせず。
声と話し方から老いた雌だとは分かったが、血の匂いまで知られているなんて、一体。
ディルドレに家族はいない筈だ、そもそも、人狼にとっての家族は人間と一緒なのか?]
…もういいよ。もう何も聞かない
[話す気がないのなら、時間の無駄でしかない]
はっ、そりゃあ素晴らしいことで。羨ましい限りだね。
[唯一口にしたのがそれか、人狼が人として死ぬことを望むなんて
若い狼にそれは理解が出来なかった]
婆さん。ひとつだけ言っておく。
ぼくをオットーと呼ぶな、ぼくにはラズワルドという人狼としての名前があるんだ。
[意識が朦朧とする中、せせら笑うあの男が僕の目を覗き込んでそう名付けて行った。
その言葉は郡青色の空を意味する、夜に生きる人狼には皮肉としか思えない名前だが。
こうして同族に人間として生まれ落ちた時に貰った名前を呼ばれることは苦痛だった]
なんでこんなもの、美味しいって言えるんだろ……
[こみあげる吐き気に思わず呟く
人の味を知ってから人間の食べ物が不味いとしか感じられなくなって。今朝食事を作ったのは習慣と何かをして気を紛らわせたいという理由でしかなかった。
早く人間が食べたい。ああ、そうだ…今夜にしよう。けれど誰にするのか?それが問題だ]
なあ。
[独り言ではない。明確に同胞へと語りかける
苛立っていた昨日よりは穏やかな声で]
ぼくにあんたが死ぬまで家族を殺すなって言うなら、そっちもさ、もし気が変わって人を食べたくなっても
…アルビンとコンスタンツェは食べないでくれよ。
[あの口ぶりからこの屋敷にいることは分かっている。もし人狼が昔読んだお伽噺のように姿を変えられるなら容姿は当てにならない。
だが、この二人ではない筈だ。そう信じていた。そして彼らを他の狼に食べられることは嫌だと今になっても思っている]
ラズワルドねえ。
[夜の闇を通して若者の狼としての名を知って、ああやっぱり青いのねとおかしく思いました。
わたしは生まれた時から獣であったので、せっかくの人間の名を持っているのにとなんだかもったいなく感じました。
それを言うと怒られそうなので言いませんが。]
さあて。
いろんな名で呼ばれたから、どれが本当の名なんだか。
[人の肉体を支配する術により、吐息<ヘヴェル>だとか魂<ネフェシュ>だとか、わたしはさまざまな名を伝承の中に残しておりました。
若者にあわせるならば、わたしも色の名を告げた方が良いかしら。]
ハイアオ、か
[意外にも名前だけは教えてくれた。初めて知った同胞の名前。繰り返して噛み締めてみる。]
あんたにぴったりの名前だ。
[ちっとも自分のことを教えてくれない、その癖こっちのことは全て知っているような口振り。何者なのかいつからこの村にいたのか、本当の色を見せない灰色。それがこの雌狼なのだろう。]
…一応言っておくよ、宜しく。
[どれぐらい話していただろう。今日は疲れてしまった、寝台に横たわり彼女の姿を目の裏に想像している内に眠りに落ちた*]
[ふと、ラズワルドの語りかけが耳を撫でます。
わたしは心の中でひっそりと笑みを浮かべながら、あいわかったと返事をすることにしました。]
わたしの気の変わることなんかあるものか。
だけど、良いよ。そいつらは決して食べないさ。
[彼がコンスタンツェと信じているものは、そもそもわたしには喰いようがありません。
それにしても、普段はアルビンに冷たく振る舞っているというのに、なんともまあ。
くすくす笑いをかみ殺します。
上手にかみ殺せたかしらん?ふふ。*]
よろしく、ラズワルド。
[彼がわたしをコンスタンツェと思っていないということは、彼はわたしの姉を、家族を喰う可能性があるということです。
でも、もしそうであるならば、人間のわたしにはどうしようもないことです。
(そう、わたしは人間、わたしは人間……。)
*願いとは、叶わぬものなのですから。*]
[ハイアオの返答に安堵する。
だが、他の狼に明け渡す気がないなら自分は彼らをどうしたいのだろう。今更二人だけは殺したくないだなんて、矛盾しているじゃないか。
それに僕はアルビンのことを憎んでいる、……その筈だ。
何にも気付くことはないまま、若い狼は己の心に悩まされる*]
[そうだ、何も起きなければあの子は両親と姉と幸せな18歳の誕生日を迎えていたんだ。]
ごめんな。
あんたは人として生きたいのに、…ぼくのせいで。
[同胞へ声を向けるが未だ正体には気付いていない。
あの少女を巻き込んだようにハイアオの人としての生の邪魔をしてしまった。そうやっと理解したことからだった。]
[昨日の勢いはどこへやら、ラズワルドの申し訳なさそうなささやきが聞こえてきます。
この世はわたしのものではありませんし、若者が食欲を満たそうとすることの何が悪いことなのでしょうか。]
あら、ずいぶんと殊勝な声色だねえ。
くっくっく。
そんな風に言われたら、わたしの気が変わって
ラズワルドの獲物を横取りしたくなっちまうじゃあないの。
[どんなことになったとて、わたしはコンスタンツェとして最期まで生きるだけです。
どんなことになったとて。
理性で、本性を押さえ込んでみせましょう。
それがわたしの最期の闘争となるでしょう。]
[ハイアオの笑う声が届く、長く生きた彼女には愚かに見えるのだろうか、他者を遠ざけ突き放してそれでもまだ人間としての想いが捨てられない僕が。]
…それは、駄目だ。
分かった、分かったよ。変なことを言って悪かった。若者を虐めるものじゃないぜ、婆さん。
[“獲物”その言葉が頭に残る
そうだ。もう戻れないのなら、断ち切らなければいけない。]
[だからこそ]
今はまだ分からないみたいだけど
絶対ハイアオを見つけてやるからな。その時は、あんたのことちゃんと教えろよ。
[彼女に会ってみたい、そう思った]
あんたはまだまだ、
随分あまちゃんな坊やだねえ。
人の一人や二人喰った程度で、
わたしのことが分かるかどうかも、疑わしいねえ。
[初めは絶命の瞬間に、彼にのみ聞こえる遠吠えでもしようかと思っておりました。
しかし、だんだんとラズワルドのことを気に入り始めた私は、
やはり、最期まで正体を言うこと無く、上手に人間として死んでみようと思い始めておりました。
さて、方法をよく考えてみることにします。**]
見つけられたんなら、
昔話をいくらでも聞かせてやるさ。
またそうやってぼくをバカにする。本当に意地の悪い婆さんだ。
……もう一人は食べたんだ。きっともう少し食べれば分かるようになるよ。
[扱いへの不満は隠そうともしない。こんなに喋って、感情を素直に出せたのはとても久しぶりに思える。
どうして彼女を見つけられないのだろう。
狼となってから五年間人を食べなかったことが悪いのか、仲間に出会ったのが初めてだからなのか…まだ完全になれてはいないというのか。
こんなに鼻を使って、皆の様子を気にして、探しているのに。]
ああ、楽しみにしてる。今度ははぐらかすのは無しだぞ?
[考えたって何も知らない若狼には分かるわけがない。
ハイアオに会ったらまず何から聞こう、それを考えたほうが有意義だ。
…残された時間が短いらしいということを思い出して少しだけ淋しくなったなんて絶対本人には言えないなと心中ぼやく。
教えるつもりなんてからっきし無いなんて、思いもせずに**]
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