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[湯の中、静寂に包まれて上を見上げれば、無数の泡が昇っていく。
息苦しさに身を委ね、思考を拡散させれば、泡の中に記憶がゆらぎ映し出された。]
― 記憶の断片(回想) ―
[彼を旗下に招いたのは、デーモンロードとクロドルフの戦いが激しさをましている頃だった。
自軍は未だ人間に対して優勢だったが、各地で魔物の敗走が増えていた。
そんな折、彼を拾ったのだ。
人間に石打たれ、放逐され、彷徨っていたクレステッドを。]
[実を言えば、彼を知ったのはその時が初めてではない。
それよりもずっと前、自分がただの人間だった頃までさかのぼる。
人が戦う力を得られるようにと魔法を教えていた魔術師がいた。
魔物に対抗できる人間を育てるための場。
その師の下で魔術を学んでいた時、同門に"死"を扱う魔術を研究している者がいる、と聞いていた。
悪魔の力を身に宿して力を得るべきだと主張しては他の魔術師から白眼視されていた自分と、死からの復活という禁忌の領域に引かれている彼とはどこか似ている、と奇妙な親近感を覚えもした。
結局、自分はさっさと師のもとを飛び出してデーモンロードの元に走り、力を追及していたから、彼のその後は知らなかったのだが]
そうか。
おまえもようやくあいつらに愛想つかしたのか。
[親しげな口調で出迎えた魔人を、彼がどう思ったかは知らない。
ただ、彼が望むままに研究施設を与え、材料も提供した。]
おまえにしか為せないことを為せ。
俺は、それを為した。
才能があるのに、それを思う様振えないような世界などおかしいだろ?
おまえの才能を拒否した連中を見返してやれよ。
力を手にするんだ、クレス。
誰にも、文句を言わせない力を。
[思えばそれは、自分なりの使命感だったのだ。
抑圧されたものを解放し、
自分に続く人間を作ろうという。]
魔物は人間を虐げるし、人間は強い人間を抑圧する。
なら、俺たちが魔物より強くなって両方支配すれば、世の中もっとうまくいくじゃないか。
[あのころは、本気でそんなことを考えていた。]
[記憶の澱から浮かぶものは、脈絡もなく移り変わる。
そう。あれは落城間近のころ。
ロルフに率いられた大軍が城へ近づいており、
戦況を読めるものたちは、これが最後の戦いだと悟っていた。
クレステッドと二人きりの時間を作ったのはそんな折だ。]
残念だが、もうここまでだな。
俺はもう少し足掻いてみるが、
おまえはここを離れてもいいんだぞ?
俺に付き合って死ぬことはない。
─── ……
[己の胸に短剣を突き立てる。
それを、腹心はどんな目で見ていたか。]
…っ。
……見ろ。これだ。
[開いた胸から覗くのは心臓───ではなく、冷え切らぬ溶岩のようにひび割れから紅い光を零している石。]
そうだ、 。
これが、あの、デーモンロードの欠片だ。
[力の秘密、不死とも言われる秘密がさらけ出されている。]
…っ。
[かつり、とさらにその石へ切っ先をねじ込み、小さな欠片を掻きとった。]
……これ、を。
[荒い息を吐きながら、欠片を差し出す。
ほんのりと温かく、脈動する石。]
これを持って、いれば、繋がっていられ る。
は…、
わかるだろう。呼び合うんだ。
死ぬな。
俺も、死なない。
いつか必ず、俺の世界を取り戻す。
いいな。
――― …… … 。
[こぽり、と記憶の泡が弾けて消えた。]
― 記憶の断片 1/3 (回想) ―
[最初に彼に拾われた>>*1 >>*2時は。正直言って半信半疑だった。
一目見た時は人間かと思っていた。だが、しっかりと見れば彼は人間ではない事がわかる。
とはいえ。その者が人間であるかないかなど、正直大した問題ではなく。]
………いいえ。………人間に対する希望など、とうに途絶えております。
[困窮の果て。食うのもままならない状況になってしまった。人間はこうも残酷なのか。
そのくせ力への執着も薄い。ああ、本当に救いがたい、と心は言う]
あなたは素直だ。人間などより、よほど素直だ。
ならば、私も微力ながら力添えをしましょう。それが私の恩返しというものです。
[見返してやれ、という彼の助言は、確かに力強く、有り難いものだった。
だが。クレステッドを動かすのはもっと別のこと。それは、自分に大義名分を与えてくれた、という事実だったかもしれない]
……確かに。あらゆる者達を支配できれば。その時は、ギィ様の理想も成ると言うもの。
[そういうクレステッドの表情が、言葉に反して沈み気味だったのは。それが、夢想に過ぎないと、彼には解っていたから……かも、しれない]
― 記憶の断片 2/3 (回想) ―
[恐らく「次の戦い」はない……撤退戦まで含めて「戦い」というならば、そういうこともないだろうが。
その時のこと>>*5は、数千年経った今もよく覚えている。]
……莫迦を言うものではない。恩義を受けたものが、恩義を与えたものよりも先に死ぬなど!
[その時の表情は……ああ、そうだ、あんな表情。
怒りに目を見開くなど。そんな感情、憎悪に飲み込まれたかと思っていたのに。
冷静な口調もその時だけは忘れて]
それに。
無為に生きてギィ様の思いが踏みにじられるのを見るくらいなら。
……いっそこの場で、ギィ様の為に死んだ方がマシです。
[その言葉は。何の計算もなく、ただ自然に口から出ていた。
つまりそれが自分の願いなのだと]
― 記憶の断片 3/3 (回想) ―
[ギィは自ら、その胸を刺し……
そしてその破片を自分に渡す。
……呼び合う、と彼は言う>>*9。]
……わかります、ギィ様。……つまり。
[つまりそれは。
まだ諦めたわけではない、ということ。
これで終わったわけではない、ということ。
その時は自分の息ももう絶え絶えだった。だが。
この石だけでは。主君の命はともかく、自分の命の火が消えることを止めることは出来ない。……そのことに主君が気づいたかは解らないが、死者の復活の魔法を目指したクレステッドにはそれが明らかに解った。]
申し訳ありませんが……ギィ様。私の命はここまでのようです。
ですが……
[……しかし。
この力を触媒とすれば。
自身の魔力は……十分。]
死する程度で折れるような私でもありません。……また後程、お会い……しま……――――
[息絶える直前、最期に唱えた呪文は、ギィの耳に届いたろうか。
触媒となって消える光を、ギィが見えることは叶ったろうか。
それは、
クレステッドの息は、確かにそこで一度途絶えた**]
―回想―
……私が怒った?ギィ様に……?……ああ。
[唐突に投げられた問い>>*15に軽く驚き、記憶の引き出しからそれ>>*12を見つけるには数秒の時間がかかった。
数秒して思い出して。]
……出すぎた真似を致しました。しかし、まさか覚えられているとは。
[と言いつつも。それを魔王が覚えているということは、嬉しい事ではあったらしく。
声音は、極々僅かに弾む。
不器用な感謝を込めた言葉 >>*16 には、]
……つまりギィ様の生存に私の言葉が役立ったと。
……それは私にとって至上の喜びです。
[冗談めかした言い回しではあるものの。それはある程度は本心で。
そして、
申し訳ありませんギィ様。……死した私ですが、こうして罰を受けに戻りました。
せめてもの罪滅ぼしです。どうか、お役立てください。
[呼応するように軽く笑って紡ぐ言葉は、歌うようでもあり、また、どこか舞台上の役者のようでもあった]
―もう一つの回想―
[数千年の間。
彼の思念は、エネルギーを可能な限り消費しないようにしつつも、時折、感覚だけは僅かに動いていた。
古戦場からは全く動くことはしないが。
目の前の光景はただ光景として、情報として消費される。
一日がすぎる。今日もまたギィ様は復活しない。
一日がすぎる。今日もまたギィ様は復活しない。
数十万回は繰り返したが、特に悲観するといったことは、彼にはなかった。
主が明日復活しないとは、誰にも言い切れないのだから。
……果たして彼の主が、語られぬ空白の時間をどう推測するのかは定かではないが]
だが、俺が復活したあの日におまえと再会できたことは、俺にとっては喜びだ。
まるで何もかも違う中で、おまえだけは変わらぬ姿でいた。
ちょっと透けてるくらいは、愛嬌だろう。
だから俺にとってはおまえは死んでいない。
それで十分だ。
― おぼろげな記憶 ―
[封印されていたこの数千年という歳月は、自分にとっては一夜の夢のようなものだった。
意識は昏睡と半覚醒を繰り返していたように思う。
記憶は霞み、時に呑みこまれ、あるいは深く眠った。
今は幽鬼となっているかの男が、幾十万回の日の出と日没を見てきたことを魔人は知らない。知っていても、想像のつかない時間に言葉を失うだろう。
言えることはただひとつ。]
おまえの労苦に報いるに、俺は俺の道を完遂することしかできない。
おまえの力、これからも当てにしている。
[なにかの折に、そんなことを言ったのだった。]
― 夢 ―
[封印されている間、いろんな夢を見た。
ほとんどは記憶に残ることもなく消え去っていく。
だが、稀に断片が記憶の隅に引っかかることもある。
たとえば、幼少のころの記憶。
魔物の家畜として飼われていたころのこと。
解放王を待ち望んでいた周囲の人間は次々と死に、結局自分は自力で逃げ出した。
そんな過去、彼に話しただろうか。
分からない。あるいは笑い話程度に話したかもしれない。
いずれにしても、思い出したくもない過去。]
[最初はそれこそ夜盗まがいのことをしていた。
魔物でも人間でも、襲えるものはなんでも襲い、
奪えるものならばなんでも奪った。
そんな日々のさなかに魔術の師に捕えられ、人間としての知識とふるまいを一から教えこまれたのだ
感謝はしている。
自分に知という力を与えてくれたことを。]
[師のもとから出奔したのは、結局人間の持てる力程度では何もできないと悟ったからだった。
知識と経験は、人間ではどうあっても勝てない相手がいることを教える。
なにものにも負けない力。
何かに頼ることなく、身を守れる力。
自分の運命を自分で決めることのできる力。
求めたものは、人間の側にはなかった。]
[デーモンロードの軍勢に身を投じ、身に着けた魔術で成り上がった。
そこからは実に早かった。
人外の力をわが身に受け、世界が一変する。
魔物も人間も、自分の思い通りに従った。
世界さえ変えられる力を得たと感じた。
多くの魔を従えて大地を進み、敵対するものを容赦なく屠る。
魔軍の将が、そこに生まれていた。]
[かつての同朋たる人間に寛容などなかった。
家畜として飼われているものを、戯れに殺す程度は日常茶飯事のこと。
逃げ出さないのが悪い。
その程度の思考だった。
ただ、実際に逃げ出して戦おうとしたものには、時に庇護を与えた。
自分の運命を自分で掴むものには、なにかの支援があってもいい。
自分の経験から抜け出せないがゆえの情だったかもしれない。]
[人外となって思考が変わったかといえば、Yesだ。
取り込んだデーモンロードの力に影響されたのかもしれないが、なによりも自分の信じていたことが実証されたことの方が大きい。
自分の世界は自分の力で掴みとれ。
現状に不満があるのならば、力を得ろ。
そんな魔人の思想の根底は、そんな過去にあるのかもしれない。]*
クレス。
[声が届いたのは果たしていつ頃だったろうか。]
ハールト南の渓谷より向こうに賊軍が来ているようだが、おまえのところで把握しているか?
ペガサスに乗ったものを見たという報告もある。
有力な騎士のだれかかもしれないな。
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