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[脚の下で青年が甘く啼いた。
太い脚の重みと鋭い爪の痛みに息を弾ませている。
ごろり、と前脚でさらに転がせば、床に血の筋が長く伸びた。]
立て。
[前脚をどけて命じれば従容として立ち上がった。
その首輪に繋がる鎖を引き上げ、半ば吊り下げる。]
欲しくなったのだろう。
[問えば、青年は首輪を必死に掴んで息を繋ぎながら期待に蕩けた顔で頷いた。
『欲しい、です』と、甘えた声が懇願する。
魔王は、目を細めて笑った。]
[空気を裂いて鞭がうなる。
青年の裸身を打ち据えた音は鈍く、重かった。
振われた鞭は魔界の金属で編まれたもの。
歪な網目のところどころに、太い棘が埋め込まれている。
魔王の腕で振るわれたそれは、一撃で青年の肉を引きちぎり骨を砕いた。
一瞬上がった悲鳴は、首輪に息を断たれて途切れる。
今や完全に宙吊りとなった青年に、二度、三度と鞭が襲いかかった。]
[一打ちごとに青年の体が跳ね、鮮やかな赤が飛んで魔王をも汚す。
だがそれも回を重ねるごとに弱弱しくなる。
十数度に及べば、ついには動かなくなった。
紫色に染まった顔の中心で目が裏返り、口の端では血が泡立っている。赤黒い襤褸となった体は完全に弛緩し、零れた液体で床はぬめっていた。
見る影もなくなった青年の体を抱いて、魔王は玉座から立ち上がる。]
余は下がる。
あとは良きように。
[側仕えらに言い置き、玉座の後ろにある扉をくぐって消えた。]**
― 魔王の城 ―
[青年を伴って魔王が奥へ消えてから数刻の後。
再び玉座の間に姿を現した魔王の足元には、黒髪の青年が何事もなかったような姿で控えていた。
誰もなにも言わないが、みな理解している。
魔王の居室であの青年は幾度も押し倒され貫かれ引きちぎられ切り刻まれ、そのたびごとに全ての傷を癒されているのだと。
それを青年もまた悦び求めているのだと。
この魔界でさえ、稀有な関係だった。]
『陛下以外のものに狩られたくなどありません。
私の身命は、すべて陛下のものです。
陛下以外のものに与えるなど、嫌です。』
[青年の言葉は、魔王にだけ届くもの。]
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