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[少なくとも、僕はやってないんだけどなあ。]
[胸中で呟く。
自分のルーツを探る旅。
そして、居場所を一箇所におかず、
留まる先を点々と変えているのは。
自身が、人を食らう人狼だからだ。]
ねえ、誰かいるの?
仲間、いるのかい?
困るなあ、殺すなら遺体残らないよう、
もっとうまくやってよね。
あぶり出されるじゃんか。
[人狼同士の囁きを飛ばしてみる。
もし人狼のしわざなら、近くに応える者がいるかもしれないと。]
……………。
[うとうとと微睡みながら、
呼びかけてみても返事はなかった。]
……食事をするだけして去ったか、
狂った殺人鬼の仕業か、それとも…
狂犬病に侵された狼か。
[殺されたという遺体の傷を見れば下手人はわかるかもしれないが、そこまでして確認するつもりもなかった。
それよりも重要な問題は、今後の身の振り方をどうするか、だ。]
……潮時かなあ。
なかなかいい村だったんだけどねえ。
[正体を隠しながら生きていくには、なるべく一つの所にとどまらないこと。それが自己流長生きの秘訣だ。]
出ていく前に、家畜の一匹でももらってくかなあ…
[旅で長いこと食肉が出来ないのは、辛いものがある。森での狩りで餓えはある程度満たせても、小さな獣ではなかなか満腹にはならない。そもそも、狼は群れで狩りを行う生き物で、時には獲物を仕留められなかったりもするのだ。
それよりも、大きくて大人しい家畜や……、
人間を襲った方が、ずっと簡単なのだ。
後処理が非常に面倒なだけで。]
あーあ。
全く、迷惑な話だよ。
僕は注意に注意を重ねて狩りをしてきたってのに。
[少なくとも、この村の人間を殺したことも、死体を食らったこともない。]
レジーナに挨拶しなきゃだねえ。
飲み会、実に楽しかったなあ…
[ふと。
無邪気な青年の子供のような笑顔を思い出して。
二度と会えなくなることを考えて。
――ずきりと、胸が痛んだ気がした。]
[人狼の噂が広がり、実際に死体まで出たならば、なるべく早く離れた方が身の為だ。結社員がどこに潜んでいるかもわからないのだから。
こうして、アルビンから物を買うのも恐らくは最後となるだろう。
そう思えば、原価で買ってやれば良かったかな、とちょっとだけ思う。
新しい羽根ペンとインクは、持っていくつもりだ。]
[人狼が人間に、人狼に注意しろ、だなんて、
滑稽なのもいい所だ。
内心ではそんな風に思うものの、顔には出さない。
いつもこうして、人間のふりをして生きてきたのだから。
今までも、これからも。]
……アルビンは良い仕事してくれるから、
殺されてほしくないのは本心さ。
[こっそりと、独り言。]
[心を寄せすぎてはいけない。
自分は、人間ではないのだから。
情を移してはいけない。
自分は、やがて離れて流れていく存在なのだから。
だから、人との間には壁を置く。
置かなければいけないのだ。
けれど本当は、彼と、もっと―――……]
[ああ、もう行かなくちゃ。
これ以上、心通わせてしまう前に。
彼の存在が、自分の中でもっともっと大きくなってしまう前に。
もともと、村を出るつもりではあったけど。
急がなきゃ、いけなくなった。]
[別れるならば、最後に皆と飲んでおきたい。
そう思う程には、この村に馴染んでいた自分を自覚する。
ここに来た二年間は楽しかった。とても。
本当は、そんなことしている場合じゃないと、わかっていても。]
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